バナナを食べれば手軽に栄養補給ができ、お通じが良くなることは理解できます。
しかし、熟成した「黒バナナ」を食べることによって、うつ症状や腰痛、そして活性酸素を除去する抗酸化物の作用によってがん予防になり、ひょっとするとがん治療にさえなってしまうムードを醸し出す奇書を入手しました。
本記事の内容
黒バナナの健康法のお医者さんはがんになる人の特徴をこのように考えています。
黒バナナ健康法というわけのわからない健康法を伝授する書籍があります。1日一本黒バナナを食べれば健康になり、がん予防にさえなるとかなり盛った内容の奇書です。
でもさあ、この奇書を書いたお医者さんのクリニックのウェブサイトには黒バナナなんて言葉は一言も書かれていないんだよなあ
きっと物々しいニセ医学「酵素栄養学」に基づいて根拠のない「ファスティング」を患者さんに強いてどう見てもニセ医学の「ホルミシス」や完璧ニセ医学である「水素点滴」などの独自開発を長年研究して末期がんや難病を治してきた実績の方を誇示したかったんでしょうね?
「当院は黒バナナでがんや難病を治療しています!」では患者さんは集まらないでしょうから。でも「黒バナナ健康法」という一般書籍を出すことによって何らかのクリニック運営上の利益があるんだろうね。
著者いわく黒バナナはとにかく健康に良いらしい
バナナは時間とともに黒い斑点が出てくることは皆さんご存知ですよね。この状態のバナナを黒バナナと呼ぶようですが、さすがお医者さん、黒バナナの黒い斑点が40〜60%の状態が黒バナナである、と定義を独自に設定しています。
バナナの皮に見られる黒い斑点は「シュガースポット」と呼ばれ、Doleのウェブサイトにもシュガースポットが出てきたら甘みが強くなったサインと書かれています(https://www.dole.co.jp/special/sugarspot/)。黒バナナの状態になると抗酸化作用や胃潰瘍抑制、そしてお約束の「免疫力向上」もあるんだそうです。
まあDoleのウェブサイトにはさすがにがん予防なんて言葉は見られませんが、お医者さんが書いた一般書籍とはいえ、黒バナナががん予防になるのであればそれを支持する、あるいは裏付ける医学論文に基づいて著作物を書くべきなのではないでしょうか?
できれば多くの医学者の目にさらされる論文を書いていただけると第三者の検証も可能になります。
黒バナナ健康法医師によると「免疫力」を高めればがん細胞を早めに取り除くことができる、なんてことが書かれていますが、この免疫力ってなにを指標にして測定するでしょうか???
活性酸素に取り憑かれて、抗酸化物と取り入れるとがんは治るのか?
この黒バナナ健康法を提唱する医師は「黒バナナ健康法」のP102で
食べすぎにより、消化酵素をムダ遣いすれば、代謝のための酵素が減り、免疫力は低下します
「1日1本で医者いらずになる 黒バナナ健康法」P102
とよくわからない記述に続き、
消化不良をおこせば腸内環境が悪化し、毒素が全身にまわり、細胞が元気を奪われ、がん細胞などができやすくなります
「1日1本で医者いらずになる 黒バナナ健康法」P102
とも書かれています。医学の素人を惑わすのもいい加減にしてほしい!!と医学を学んだものは誰でも感じるはず・・・ありゃ、そういえばこの本を書いた人ってお医者さんだった。
消化不良で発生する毒素ってなんじゃろ?細胞の元気ってどうやって測定するんだろう??細胞の元気が失われるとがん細胞が発生するんだろうか???
ところでこのお医者さんは黒バナナを患者さんに食させることによって、がんの発症を抑えたデータをお持ちなのかも気になってきます。独自に研究を重ねたお医者さんなんだから門外不出なんだろうか。
すごく疑問があるんだけど、
黒バナナ1本が適正量で2本じゃだめなの?
なんてことも感じちゃいます。トンデモさんの特徴である量の概念なんか知っちゃこっちゃない!!との思考回路がすでに見え隠れしてしまいます。
そもそも黒バナナの場合は抗酸化物が多いのか?
黒バナナ健康法のポイントは「抗酸化物」と読み解けます。通常のバナナと黒バナナにおける抗酸化物の違いに関する信頼できる文献を見つけることができなかったので日本バナナ輸入組合のウェブサイトを参考としますね。
抗酸化物として有名なのは「ポリフェノール」です。このポリフェノールに関してこのような記述がありました。
ポリフェノールの量に関しては熟したバナナ(黒バナナ)のほうが含有量が多いと書かれていますので、黒バナナ健康法の記述は間違いとはいえないようです。
でもさあ、活性酸素は呼吸をすることによって発生する物質だよね、そうなったら黒バナナ健康法より一層のこと、
呼吸をしないで活性酸素を減らしてがんを予防しましょう!!
って健康法の方が圧倒的に効果的なんじゃないのかねえ。
そもそも活性酸素は体内でたしかに細胞にダメージを与えている一方で、活性酸素ががんの遠隔転移を抑制するという真っ当な論文もあるんだよね。
Natureの論文によれば、やたらと活性酸素を抑制するとがんが転移しやすくなる可能性もあります
この黒バナナ健康法はとにかくポリフェノールなどがたっぷりの黒バナナを食べて健康になろう!って主旨なんだけどポリフェノールは抗酸化物の代表例と考えるとこの論文はどのように解釈すればいいのでしょーか?
Natureに掲載された「Oxidative stress inhibits distant metastasis by human melanoma cells」(PMID: 26466563)によれば、たしかに活性酸素は発がんと密接な関係があるけど、がん治療の際に治療が限られてしまう、多くのがんの死亡原因であるがんの遠隔転移を活性酸素は防ぐ作用があることが述べられています。
黒バナナ健康法を継続していたら、あるいはがんで黒バナナ健康法の著者のクリニックを受診したら・・・がんが遠隔転移してがん専門病院を受診したときには手遅れになってしまっている可能性も否定はできません。
がん治療に際して代替医療を選択すると死亡リスクが5倍以上になることがしっかりした研究論文で証明されています。
この本にはやたらと代謝酵素と消化酵素の話や体内酵素と体外酵素という医学書ではお見かけしないワードが頻出しています。そりゃそうだよね、よくよく見てみりゃ
ニセ医学の典型例「酵素栄養学」の大家鶴見隆史先生の著作だもん(爆)。
酵素栄養学についてはこれをこれら記事をご参考ください。
参考図書:2015年12月24日第一刷「1日1本で医者いらずになる 黒バナナ健康法」(鶴見隆史著 株式会社アスコム)