例えば死亡率と致死率、ニュースなどで目にしたり耳にしたりすることが多くなった言葉ですが、専門用語の定義を知らないと正しい医学情報を得ることはできません。
専門家でも間違った使い方をしてしまう死亡率と致死率の違いをわかりやすく解説・説明をしてみますね。
本記事の内容
例えば死亡率が90%の非常に怖い感染症、こんなのあるはずないかも
アフリカで流行した「エボラ出血熱(Ebola hemorrhagic fever)」という怖い怖い感染症があります。このエボラ出血熱に関しての報道で「死亡率90%のエボラ出血熱」というような報道の見出しを見かけた記憶があります。
死亡率の定義は、一定期間の死亡者数 ÷ 総人口です。
例えば2020年に死亡した日本人は138万4544人で、日本の人口は1億2622万7000人でした。2020年の日本人の死亡率は
138万4544人 ÷ 1億2622万7000人 = 0.01096 ・・・ 約1,1%
日本人の一年間の死亡率は1.1%、わかりやすく言えば100人に1人は一年以内に死亡するとも言えます。
エボラ出血熱という感染症の流行地帯としてコンゴ民主共和国があります。
コンゴにおけるエボラ出血熱の死亡率が90%であったとしたら、人口は極端な右肩さがりになっているはずです。
この記事では死亡率が使用されています。
1類感染症であるペストやエボラ出血熱と同等、ないしそれ以上だ。
に続き、
病原性や死亡率を考えるとペストと同じであるはずがない。
ここで致死率を使用するのか死亡率を使用するかによって意味合いは違ってきます。このお医者さんが意識して死亡率を使用したのか、あるいは混同しているのかについては不明です。
※おまけと補足
↑前掲のお医者さんの言質です
ペストが中世ヨーロッパで流行した時の総人口は8000万人、ペストで死亡した人は5000万人といわれていますので(https://crd.ndl.go.jp/reference/modules/d3ndlcrdentry/index.php?page=ref_view&id=1000295195)その数値を使って計算すると、死亡率は62.5%❗黒死病と言われたのも理解できます。
ペストよりは死亡率が低いことを伝えたかったのでしょうね。となると、上記の文章から読み取ると、どうみてもこのお医者さんが話題としていた感染症の致死率はエボラ出血熱より高いことになってしまうのですけど・・・。※他の読解もあるのかもしれないけど。
前掲のお医者さんが対象としている感染症は2021年9月17日時点で世界中の感染者はワールドメータによると2億2783万7899人、死亡者は468万4172人なので致死率は2.06%、死亡率となると世界中の人口を78億7500万人とすると0.59%。世界中にワクチンが行き渡れば死亡率は上昇しても致死率は下がることが大いに期待できます。
致死率が90%の感染症、これは本当にあってめちゃくちゃ怖い
前掲のエボラ出血熱の致死率は90%近いといわれています。この致死率は死亡率とは全く違うものです。
致死率の定義は、一定期間のある病気による死亡者数 ÷ 一定期間のそのある病気にかかったひとの総数です。
例えば2009年に世界を恐怖のどん底に陥れた新型インフルエンザ(H1N1)が日本にも襲いかかりました。日本における感染者数は累計で902万人、そして死亡者は203人(参考文献:厚生労働省 平成22年11月4日 「新型インフルエンザ患者の国内発生について」)となっていますので、致死率は
H1N1の致死率 = 203人 ÷ 902万人 =0.000225 ・・・約0.02%
ということになります(※この時点の感染者の累計は明確になっていませんし、死亡者数も参考文献が公表された時点のものであることをご了承ください。またワクチン接種状況等についても詳細は端折ります。また、新型インフルエンザと騒がれた時の死亡者は例年の季節性インフルエンザの死亡者数を大きくしたまわっています)。
エボラ出血熱の場合、2018年にコンゴ民主共和国では感染者数は54人で死亡者数は31人だったので致死率は61%ですが、エボラ出血熱での死亡者を総人口8407万人で割った場合は0.000037%となってしまうのであまり怖いイメージにはなりませんね。
ちなみに「致死率」と「致命率」は同じことを意味しています。致命傷とは言っても致死傷とはあまり使いませんけどね。Google翻訳の場合、case-fatality rateは「致死率」と日本語に訳されます。厳密には「致死率」と「致命率」は漢字の意味と英語の意味では違いがあるとのご意見も新型インフルエンザ流行時は言われています(例えば「『新型』インフルエンザ対策の公衆衛生学的視点」https://minato.sip21c.org/flu.pdf」など)。
ところがどっこい、国立研究開発法人国立がん研究センターでは「致命率」を使用していたりするんです(https://ganjoho.jp/public/qa_links/dictionary/dic01/modal/shiboritsu.html)。
一般的には「致死率=致命率」でよし、とお考え下さい。
致死率100%の感染症もある
怖い怖い感染症として例に上げられることの多いエボラ出血熱ですが、致死率は90ー60%程度になっており感染症の対策の効果がある程度出ていると評価することもできるかもしれません。一方で致死率100%と恐れられている感染症があります。それは狂犬病。
国立感染症研究所のウェブサイトでは
狂犬病は一度発症すれば、致死率はほぼ100%である。
とさらっと書かれています(国立感染症研究所「狂犬病とは」https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/394-rabies-intro.html)。
しかし、下記の記事における「死亡率100%」の使い方は明らかに間違っています。
死亡率100%だと、そのうち地球上に人がいなくなってしまうじゃん。著者は薬剤師、医療ジャーナリストとなっているのにね。そう言えば私のブログもごっちゃになっている可能性かも(汗)。
エボラ出血熱は致死率100%のこともあったけど、死亡率となると
そう言えば、エボラ出血熱も致死率が100%のことがありました。2011年のウガンダにおけるエボラ出血熱の致死率は確実に100%です❗
なぜなら感染者は1人、そして死亡者は1人ですから致死率は100%に当然なります。(参考文献:「エボラ出血熱とは」https://www.forth.go.jp/keneki/nagoya/id/id_ebola.html)。
2011年のウガンダの人口は3348万人、となると死亡率は 1÷ 3348万人 =0.000003%になっちゃうんだよね。
医学に限らないで用語の定義って識っておいて損はありません。