感度と特異度という医学専門用語を耳にすることが多くなりましたが、医師の間でも議論がおこるのは検査の精確さ。
実は本当に求められているのは検査の陽性的中率と陰性的中率なのではないでしょうか?
聞き慣れない陽性的中率と陰性的中率について限りなくわかりやすいように説明してみます。
本記事の内容
検査を過信しないためには、まず的中率を知ろう❗
検査の結果で陽性や陰性と表記することがあります。+や-で検査結果を伝える手段を定性検査、5や50と数字で伝えるのを定量検査と呼びます。感染症の場合、プラス(陽性)・マイナス(陰性)で検査結果を伝える場合もありますし、感染症の実態と一致するなんらかの物質を測定することによって数字で伝える場合もあります。
検査用語で「的中率」というものがあります。ちなみに的中率を「適中率」と表記しているものもあるけど間違いではありません。
使い方としては「陽性的中率」「陰性的中率」などがありますが、この意味を知らないと混乱することが少なくありません。
陽性的中率・陰性的中率を理解するには感度・特異度に話は戻ります
いままで散々っぱら感度・特異度の問題について記事を書いてきました。陽性的中率・陰性的中率に関しては説明が面倒なので端折ってきたことをここでお詫びするとともにわかりやすい説明を試みてみますね。
ある感染症に感染しているひとが1万人中1人いると仮定します。ある検査方法はこの感染症にかかっている人は99.99%陽性と判定します。この感染症にかかっていない人は99.99%陰性と判定します。
このような検査方法があったとしたら、ある人がこの検査で陽性判定された場合に本当に感染している確率は何%でしょうか?
感度99.99%、特異度99.99%の検査方法ですから「陽性です」と診断されたら感覚的にはほぼ間違いなくこの感染症に感染していると感じるのが自然であり当然です。
感度99.99%、特異度99.99%の検査をした場合
でもねえ、医療統計学を知っている人はまず定義を確認して、さらに紙と鉛筆を用意して混乱しないように計算して確認するんですよ。
日本人の人口を1億2600万人、ある感染症に感染しているひとが1万人中1人と仮定して話を進めます。
- 感染している人・・・1億2600万人中1万2600人
- 感染していない人・・・1億2600万人 - 1万2600人 =1億2598万7400人
この検査は感度が99.99%なので感染している人の99.99%は陽性と判定されるので1万2599人(正確には12598.74)が正しく陽性と診断されるのに1人は本当は感染しているのに陰性と診断されてしまう偽陰性になってしまいます。
一方の感染していない人の場合を考えてみましょう。
ここで用いられる検査方法は感染していない人の99.99%を陰性と診断しますよね。つまり0.1%は陽性と診断されてしまいます。となると感染していない人1億2598万7400人のうちで0.1%は陽性と診断されてしまいます。1億2598万7400人×0.001=12万5987人は偽陽性❗
感度・特異度が高くても間違った検査結果は出る、そこで出てくるのが的中率❗
感度も特異度も100%という検査方法があればなんの問題も発生しないのですが、それは現実的ではありません。
やっと本題の陽性的中率と陰性的中率の話にたどり着きました。
陽性的中率の定義は検査で陽性と診断された人のなかで本当に感染していた人の割合。
陰性的中率の定義は検査で陰性と診断された人のなかで本当に感染していない人の割合。
陽性的中率・・・本当に感染している人 ÷ 検査で陽性となった人
であり、
陰性的中率・・・本当に感染していない人 ÷ 検査で陰性になった人
なのです。前掲の表から陽性的中率と陰性的中率を計算してみると次のようになります。
陽性的中率:1万2599人/13万8586人 = 9.09%
そして
陰性的中率:1億2586万1413人/1億2586万1414人 = 100%
ポイントとして、感度・特異度は検査対象に影響されない特徴があるけど、陽性的中率・陰性的中率は検査対象によって大きく変化することです。
感染している人が多くなればなるほど同じ検査方法であっても陽性的中率は上がります。例えば国民の5%が感染しているとした場合、感度・特異度が99.99%の検査方法を使用すれば陽性的中率は98.14%になることが面倒くさい計算をすれば理解できるのですが、本日はこのあたりでやめておきますね。
ちなみに1億2600万人の5%が感染していると仮定した場合、陽性と診断された人のうち11万7180人が感染していない偽陽性の可能性があることを付け加えておきますね。
参考図書:わかってきたかも⁉「医療統計」五十嵐 中 (著), 佐條 麻里 (著), 髙瀬 義昌 (著) 東京図書