特異度100%なら正確?間違えやすい新型コロナウイルス検査の感度と特異度について解説します

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感染症の流行で新型コロナウイルス検査の「感度」「特異度」という言葉を耳にすることが増えています。

しかし、医学で使う検査用語の「感度」は一般の方がとらえている感度とは違いますし、「特異度」もイメージとは違っています。感度と特異度の定義をしって混乱しないようにしましょうね。

感度と特異度の定義を知らないと痛い目にあいます

ネットでたまたまこんな検査キットが売られていることに気が付きました。

ありえない特異度100%の検査キット

yahoo!ショッピング衛生用品・化粧品類だったかなあ、これ見つけて脊髄反射的にスクショしたものです。

このセルフ抗原検査キットを見て私はひっくり返りそうになりました。いくら精度の高い検査であっても特異度100%はありえません。

偽陽性・偽陰性についてはこちらをどーぞ。

【新型コロナ感染症対策】ウイルス感染を恐れて検査しても、様々な問題が発生する可能性があります。

【新型コロナ感染症対策】ウイルス感染を恐れて検査しても、様々な問題が発生する可能性があります。

新型コロナウイルス検査の特異度とは?

感度や特異度は検査の能力を示す言葉ですが、100%を目指しても検査ではありえないことを専門の研究家でなくても、まっとうな医師は理解しているはずです。

特異度の定義は「感染していない人のうち、検査が陰性になる人の割合」。

極端なことを言えば新型コロナウイルスの検査した結果として全部「陰性」つまり感染していなかったよ、と伝えるインチキ検査キットがあったとしたら医学統計学的には特異度100%ということになってしまうのです。

以下、医療統計学に関する件については「『医療統計』わかりません」(五十嵐中 佐條麻里 東京書籍)シリーズを参考としております。

新型コロナウイルス検査の感度とは?

一般的な感度の意味は「なんらかを感じる度合い」と捉えられています。例えば「臭いにおいに感度の鋭い人」とか、「電波の感度が悪い」とかの使い方がされます。

しかし、医学上の検査における感度の定義は違っています。

感度の定義は「感染している人のうちで、検査が陽性になる人の割合」。

五十嵐先生らの著者では「病気の人のうち」となっていますが、今回は感染症についての感度・特異度の話なので著者の了解を得ないで病気を感染している人と私が勝手に置き換えました。

これまた極端なことを言えば、新型コロナウイルス検査した人たち全員に「あなたは感染しています」との検査結果を伝えても臨床検査上はインチキではなく定義に従えば「感度100%」と主張しても問題は無いのです。

前掲の通販の抗原検査キットがどれだけ正確な結果を導くかについての詳細について、当方は関知しないことをご了承くださいませ。

医療統計学はお医者さんでも苦手かも?

統計学を苦手としている人は世の中で少なくはありません。ギャンブルをしている人が確率を気にしていても、実際には運やつきを気にしていたりジンクスに頼っていたりします。

医師の場合、たぶん私の場合は古い古い医学教育を受けたためか医療統計学を学んだ記憶がありません。ひょっとすると大学1-2年の教養課程で数学か物理の授業で統計学を学んだのかもしれませんが、総合大学の場合は数学は数学でめちゃくちゃ高度なものであり物理は物理で高校レベルの知識ではついていけないような内容であることが多いと記憶しています。

今は医学部で医学生に医療統計学も教えるし、実際にPCR検査の実習もあるようなので感度・特異度に関しては開業医より医学生の方が理解している可能性さえあります。

私も混乱することが無いわけじゃないので、医療統計学の参考書として前掲の五十嵐先生のわかりやすい本をデスクの傍らに常備しているのです。

苦手意識を持たないでまずは定義を確認しましょう!

算数や数学は苦手、という人は少なくは無いと思います。今回の感染症に関しても縦線が0から始まっていないグラフや単位が書かれていないグラフが出回っていました。さらに縦軸の単位が対数で表示しているのにグラフの線が直線的に右肩下がりであることを示して、「抗体が半分になるんです」なんて伝え方をしていたワイドショーもありました(この対数の件はちょっと難しいので別で説明が必要になるかも)。

どのようなことでも論じる前に定義が必要です。基本中の基本の定義は医学の場合は全く理数系の能力は必要ありません。しっかりと「にほんご」を学んで定義を確認してから考えることが必要だと思います。

あるメディアで「国語」を「にほんご」と呼べば良いと、子どもの国語の成績が悪いとの相談に対して、谷川俊太郎氏が述べていたのを見て、気に入っています。

当院でも新型コロナウイルス検査の抗原検査とPCR検査を公費で行っています

症状があって心配、家族が陽性判定されたので濃厚接触の可能性がある、なんて方に対して公費で抗原検査と抗体検査が可能です(東京都のウェブサイトに診療・検査医療機関の情報として9月7日以降掲載されます)。

抗原検査はPCRよりかなり鈍い検査、つまりウイルスが多くなった状態でないと陽性判定しにくい反面、症状が出ている方にとっては検査時間が判明するために必要な時間が15分以内である点が優れてます。

抗原検査で陽性となった方も念のために同時にPCR検査を行い確定診断をします。

逆に抗原検査は陰性であってもPCR検査で陽性判定がでることもあります。

どちらにしても陽性の場合は保健所の負担を減らす目的で、検査結果は当院で即日HER-SYSに登録しますので軽症の場合はひとまずご自宅に自主隔離していただくと目黒区の場合は翌日中には保健所から連絡があり指示がでます。症状が強い場合は別の方法をとりますが話が複雑になりますので今回は省略させていただきますね。

おまけ:お医者さんが書いたという謎の文面

こんなスクショを患者さんから見せてもらいました。

twitter上で投稿されていた医師による検査に関する意味不明な文章

10月以降はインフルエンザが流行する時期に入るので発熱などの症状がある人に対しては新型コロナ感染と鑑別診断するためにPCRが必要、との意味なんでしょうね。

次の「2回以上のPCRが必須」と「偽陰性は当たり前」が謎です。これの定義をまた述べるのは面倒だけど、偽陰性は「感染しているのに、検査が陰性になってしまう」ことと医療統計学では解釈されています。検査には偽陰性はつきものであることは常識ですものね。

2回以上検査を行うことによって感染している人を見逃さないぞ❗との心構えの表明なんでしょうけど、1回目陰性なら2回目も受けないと意味ないよっていう不安を煽る内容でもありますし、そもそも検査を繰り返すと偽陽性も当たり前のように、でてきちゃうんだけどなあ・・・。お医者さんの統計学や確率論の知識ってこんなレベルなの?と某数学者が笑っていました。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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