【ニュー世田谷モデル】なぜ世田谷の保坂区長はイベルメクチンにこだわるのでしょうか?

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「いつでも、だれでも、何度でも」と大量検査を無理くり推進した保坂展人世田谷区長。今度は多くの医師が支持しないイベルメクチンを特効薬と考えているようです。

お隣の目黒区で開業しているから私としては、思いつきで科学的知見と医学的根拠無しに間違った施策を行うことを恐れています。

安くて効果的な特効薬「イベルメクチン」という幻想

私が開業しているクリニックのお隣の区の保坂展人世田谷区長がこのようなツイートをしていました。

保坂世田谷区長イベルメクチン推し

https://twitter.com/hosakanobuto/status/1428612823727316997

イベルメクチン開発に携わった2015年にノーベル医学生理学賞を受賞した大村智北里大学特別栄誉教授が世田谷区名誉区民なのですから保坂世田谷区長の思いれが強いのは理解できます。

しかし、イベルメクチンが今世界中に拡散している感染症に効果があるのかに対しては多くの医療関係者が疑問を持っています。

私は論座に掲載された保坂展人世田谷区長の「『いつでも、だれでも、何度でも』~ニューヨークを目指す『世田谷モデル』」に対して、同じ論座でカウンター記事を寄稿しました。

論座世田谷モデルへの疑問

「世田谷モデル」に8つの疑問

保坂区長VS隣接区の一町医者の私、という構図です。

保坂区長がいくらイベルメクチンに対して思い入れが強くても、イベルメクチンがなぜ多くの医師によって効果が疑問視されているのかについてざっくりの時系列をお伝えします。

イベルメクチンに効果あり、とされたそもそもの論文はこれ!

2020年4月にイベルメクチンが感染症のウイルスを抑制する、つまり抑え込むことを示した論文が発表されました。しかし、この論文は試験管レベルの研究でした。その論文の内容をざっくり紹介すると、

  • ウイルス感染させた細胞にイベルメクチンを加えた
  • 48時間後にウイルスが増殖しないことを確認した
  • イベルメクチンはヒトにも効果があるかも?
という内容でした。

イベルメクチンがウイルスの増殖を抑えることを示した論文

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0166354220302011

ここまでではイベルメクチンの効果を期待して当然ですね。

イベルメクチンをヒトに投与した研究論文の顛末

世界中の研究者がウイルス感染症をやっつけたいと様々な薬の可能性を研究し、試験管レベルでウイルスの増殖を抑えた結果を示した前掲の論文とともにヒトへのイベルメクチン投与についての検証を行なった論文があります。

ヒトに対するイベルメクチンの効果を研究したある論文が世界中の注目を集め、イベルメクチンが特効薬と受け止められたきっかけになったのがこの論文です。

イベルメクチンの有効性を示した論文が撤回

この論文では感染した患者さんにイベルメクチンを投与したところ死亡率も入院期間も激減したことを伝えていましたが・・・「RETRACTED」とデカデカと書かれています。これは論文が撤回されたという意味です。

そりゃそうーでしょうよ、感染症が世界的に広がりだして数カ月後の2020年4月19日に複数の国で704名に対してイベルメクチンを投与したデータで構成された論文であり、そのデータは2020年1月1日から2020年3月31日までに集められたものなんですから。たった2週間足らずでデータを解析して検証したの?と世界中の医学研究者が驚くとともに疑い出したのです。

イベルメクチンのヒトに対する有効性を示したこの論文は世界中の研究者からインチキ論文と批難される前に撤回したものと考えられています。

イベルメクチンの有効性を追求する研究者は後をたたないでその後も複数のイベルメクチンの有効性を示したかに一見見える論文が多数発表されました(何度も何度も検証するのが研究者としての正しい姿勢ではありますけど)。

試験管レベルで成功したウイルスの増殖抑制をヒトで実現するには100倍の薬が必要

イベルメクチンがアフリカ等で蔓延していた感染症を抑え込む効果があることは否定する余地のない事実です。しかし、イベルメクチンがウイルス感染症に効果があると示したオーストラリアの試験管レベルの研究を実際にヒトに当てはめた場合、イベルメクチンは通常の投与量の100倍以上必要であることが多くの研究者によって指摘されています。

ヒトにイベルメクチン投与が現実的ではない理由

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/13102818.2020.1775118

この論文はイベルメクチンが様々な寄生虫による病気に対して効果があることを褒め称えつつ、オーストラリアの論文と同等の効果を現在世界中に広まっている感染症治療使用する場合の投与量は現実的ではないことを伝えています。

都医師会の尾崎会長のイベルメクチン推し発言、会長は論文をお読みでしょうか?

都医師会の尾崎会長のイベルメクチン推し発言、会長は論文をお読みでしょうか?

保坂区長、そろそろ諦めて新しい治療方法を開始した方が良いです

保坂区長はさらにこんなツイートをしています。

保坂区長と大村博士のやり取り

https://twitter.com/hosakanobuto/status/1428616833741905923

大村博士の言う通りに、「ワクチンと治療薬が共にあるべき。」だと私も強く思います。効果に疑問が残るというか、効果を期待することはかなり厳しいイベルメクチンに固執するより、たとえば抗体カクテル療法を入院する必要なしに外来で行えるような工夫をするとかしたほうが発展的なんじゃないでしょうか?

保坂区長、ご自身で抗体カクテル療法の報道をツイートしているじゃないですかあ。

抗体カクテル療法

https://twitter.com/hosakanobuto/status/1428336505194307584

そう言えば、私と保坂展人世田谷区長の確執であった世田谷モデル、とうとうこのようなことになったようですね。

「世田谷モデル」として独自に推進してきた介護施設の職員ら向けの一斉PCR検査を9月末で終了する方向で調整していることがわかった。

https://www.yomiuri.co.jp/local/tokyo23/news/20210819-OYTNT50186/

保坂区長が協力に推し進めるイベルメクチンも同じような結果になりそうな不吉な予感がするのは私だけではないと思います。

私は子どもの時から町の薬屋さんでもらえるコーワのキャラクターのケロちゃんが大好きでした。

薬局の前にいるカエルのケロちゃん

https://dime.jp/genre/581196/

イベルメクチン信奉者からの嘆願なのか、ノーベル賞受賞した大村博士にさらなる栄誉をと考えたのかは知りませんが、多大な出費を負担してイベルメクチンの治験を行なっている興和(コーワ)の男気に答えられるような結果がでるといいのですが、現実的には厳しいのではないでしょうか。

ケロちゃんが好きな人はこちらもどうぞ

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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