赤ら顔が高血圧の薬の副作用って本当かな?降圧剤の副作用と皮膚科の関連

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高血圧は今や国民病とさえ言われています。とにかく塩分を控えて、体重を増やさないようにして、適度な運動をして高血圧を防ごう!と厚生労働省も力を入れています。それでも血圧がコントロールできなかった場合は降圧剤つまり、高くなった血圧を下げる薬を飲む事になります。

高血圧の薬の副作用って何があるか?

「血圧の薬って一回飲み始めると止められないですよね」と患者さんは必ず言いますが、生活習慣の見直しで薬を止めることも絶対無理と言うわけではありません(実は私はその経験者です)。そのような質問が出る理由として薬にコントロールされる生活が嫌だという感情論もあるでしょうし、副作用も気になる点だと思います。

血圧の薬が例えば美容面でマイナスになっているとされている病状があります。それが「赤ら顔」専門用語で「酒皶(しゅさ)」と呼ばれる状態なんです。酒皶にも種類があるのですが、皮膚の表面近くの血管・毛細血管が広がりっぱなしになることが主な原因と考えられています。酒皶という言葉に「酒」が入っているのは、慢性的にアルコールを愛しているオッサンの鼻の頭が赤々していることにちなんでつけられた名称です。ですので他にも「酒焼け(さかやけ)」「赤鼻」とも呼ばれています。ちなみに英語ではRosaceaと呼びます。

高血圧の薬で顔が赤くなる

こんな感じです。アルコールによって血管は拡張しますが、つねにお酒を飲んでいる状態だと血管が開きっぱなしになってこうなるよ、という説明が一般的にはなされています。

でも、お酒を全く飲まない人でもこのように顔が赤い人って実際には珍しいことではありません。そのような患者さんが来院された時、美容皮膚科の医師は鋭い探偵が犯人に言い渡す時のように「ひょっとして血圧の薬のんでいませんか?」と尋ねます。「先生、どうして解ったんですか?」なんて患者さんが答えると医師は満面の笑顔で「カルシウム拮抗剤と呼ばれる降圧剤は酒皶の副作用があるんですよ」と告げます。

カルシウム拮抗剤と呼ばれる降圧剤は酒皶の副作用が出る可能性がある

でも、これってかなり困るんです⋯血圧の薬を止めちゃうのも美容担当の医師から循環器の主治医に伝えるのは医師のヒエラルキー上、かなり難しい状況です。ではカルシウム拮抗剤以外の降圧剤に変更するというのも一つの方法なんですが、血管を拡げる作用の薬は心臓の血管を拡げる作用もある為に狭心症があって、さらに高血圧がある患者さんには非常に有効な薬なのですから。さらにこのカルシウム拮抗剤(Ca拮抗剤)は日本ではダントツの使用率なのです。

降圧剤の使用頻度の割合

http://www.hcc.keio.ac.jp/

カルシウム拮抗剤は赤ら顔の犯人じゃない!?

以前からこの酒皶の問題に対して疑問を持っていたのです。というのも血圧が元々高い人って赤ら顔である傾向がありますし、血管が拡張するっていっても何も顔を中心に副作用が出現しなくてもいい様な気もしていました。そんなときこんな文献が目に入ってきたのです。「Antihypertensive drugs and the risk of incident rosacea.」(The British journal of dermatology. 2014 Jan 16; doi: 10.1111/bjd.12838)という論文で、カルシウム拮抗剤は赤ら顔の原因じゃないんじゃない!との内容です。簡単に論文をまとめますと以下のようになります。

  • 薬を飲んでいる5万3,927人と飲んでいない人5万3,927人を比較した
  • 結果としてカルシウム拮抗剤は赤ら顔を引き起こす関連は明らかではなかった
  • 他の作用の血圧の薬も赤ら顔との関連は認められなかった

このように、あっさりした内容ですが今までの常識とはかけ離れた結果がでていたのです。結構ショックですよ、医療関係者にとっては。もちろん医療の論文ですので今後これに反するものも出てくる可能性もあります。

高血圧薬の論文ねつ造問題との関連

日本の外資系の製薬会社が高血圧の薬の治験の結果をねつ造した疑いがマスコミを賑わせました(私見では疑いではなく真っ黒)。この会社の偽造論文(言ってしまった)は高血圧を改善するだけではなく、心臓疾患にも有効ですよ、ということを主張する内容になっています(ディオバン事件 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%AA%E3%83%90%E3%83%B3%E4%BA%8B%E4%BB%B6)。

つまり日本で一番使用されているカルシウム拮抗剤に対抗する為にアンジオテンシンⅡに介して降圧作用を発揮するアンジオテンシンII受容体拮抗薬 (ARB) を売り出そうという目論みでした。多分、このスキャンダルが明るみにでなかったら、今頃美容皮膚科では「カルシウム拮抗剤が原因で赤ら顔がでているので、降圧剤はARBに変えてもらうように内科の主治医に伝えてくださいね!」なんて言っていたかもしれません。よかった、疑問をもって赤ら顔は高血圧の薬ですよ、なんて患者さんに言っていなくて。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

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