赤しそをゲットしたのでクエン酸を入れて赤しそジュースを作りました。
赤しそジュースを飲みながら自室の書棚をふと見ると、クエン酸でがんを治すというトンデモ系の一般書籍が・・・。
本記事の内容
クエン酸でがんは消えるのか?
クエン酸とビタミンC(アスコルビン酸)を混同している人もいなくはないようですが、レモンや梅干しなどの酸っぱい成分の本体がクエン酸です。クエン酸の化学式はC6H8O7で、一方のビタミンCの化学式はC6H8O6で似ていることは似ています。
ビタミンCってなんとなーくカラダに良さそうというイメージを持っている人が少なくないことは以前から知っていたのですが、クエン酸もカラダに良い、ガンまで治しちゃうと考える人までいることに驚いています。
こんな書籍を数冊先日入手しました。ビタミンCをとにかくド大量に体内に取り込むことで、がん治療が可能であると言い張るお医者さんもいるんですけど、現在までまっとうな検証によってビタミンCががん治療に変わり得ることを明確にした医学論文は存在しません。
こんなに自信をもって「クエン酸ががんを消す」と主張してるのですがから、クエン酸によってがん治療ができるという医学論文が近年出てきたのでしょうか?
トンデモ医学の特徴である各論正解・総論大間違い
福田一典医師著の「クエン酸ががんを消す」(彩図社2019年8月23日第一刷)は後半に参考文献として英文の論文が掲載されている親切な作りになっており、私が常々口にしている、「一次ソースを確認しましょう」に役立ちました。でも巻末の英文の論文までいちいち目を通してファクトチェックするような読者はいないだろう、との出版社の意図が見え隠れしちゃうんです。
がん細胞はクエン酸濃度が低下しているので、クエン酸を増やせばがん細胞は増殖しない?
がん細胞はクエン酸濃度が低い → クエン酸濃度が低いがん細胞ほど増殖する → クエン酸濃度を高めればがん細胞は増殖しない → クエン酸ががんを消す
これが著者が述べたいポイントだと思われます(前掲著書P112)。これの一次ソースとして「The reduced concentration of citrate in cancer cells: An indicator of cancer aggressiveness and a possible therapeutic target」(PMID: 27912843)が文献13として明記されています。
この論文はあくまで試験管内の実験(「in vitro」イン・ビトロ)であり、実際にがんに罹患した人を対象にした研究ではない点にまずは注意が必要です。
クエン酸ががん増殖の原因である可能性も
「Cancer Research」という超一流の医学誌があり、「Extracellular Citrate Affects Critical Elements of Cancer Cell Metabolism and Supports Cancer Development In Vivo」(PMID: 29510993)ではがん細胞が細胞外のクエン酸をとりこむ性質があることを伝えています。がん細胞はクエン酸を取り込むためにはミトコンドリアクエン酸トランスポーター(pmCiC)が必要不可欠であり、やたらめったらクエン酸を体内摂取してもがん細胞の増殖を抑制するかについてはまだまだ解明されていない点が多すぎるのです。
そもそもどれだけの量のクエン酸を人体に投与すれば、がん細胞がクエン酸を取り込みがんの増殖を抑え込むかさえわかっていないです。
つまり、トンデモさんにありがちな量の概念がヘンテコはこの著作物からも知ることができます。
私の専門は泌尿器科であり、泌尿器科領域のがんとしては前立腺がんが代表で当院でも検査や治療を行っています。
前立腺がんに対するクエン酸の働きとして、「Cancer-associated cells release citrate to support tumour metastatic progression」(PMID: 33758075)の中の以下の一文が気になってしかたありません。
Moreover, extracellular citrate can directly promote cancer proliferation
PMID: 33758075
翻訳すれば「さらに、細胞外クエン酸塩は癌の増殖を直接促進します」になるんだけどねえ・・・。
まだまだ研究段階であり、人体には標準治療では使用されていないクエン酸をがん患者さんに摂取することを推奨して大丈夫なんでしょうか?
※クエン酸を使用した動物実験では4 g / kg / 日投与しています。体重60キログラムだとしたら、240gのクエン酸が必要になり私が赤しそジュース作りに使用したクエン酸を約半瓶飲むことになっちゃいます。
そもそもクエン酸回路とか解糖系を長々説明してもねえ・・・
医学部生であったらだれでもクエン酸回路(tricarboxylic acid cycle、頭文字からTCAサイクルと呼ばれる)と解糖系(Glycolysis)を丸暗記させられる生化学に苦しめられたのではないでしょうか?
クエン酸回路は高校の生物で習うそうですが、私はまったく記憶にございません。高校の生物の授業で憶えているのは、真偽不明ながら「アルマジロって双子で生まれるんだよねえ」だけです。
福田一典医師のたぶん一般向けに書かれたと思われる著書はクエン酸回路とかジクロロ酢酸ナトリウム(Sodium dichloroacetate )とかβ-ヒドロキシ酪酸(Hydroxybutyric acid)とか、専門用語が乱れ飛ぶ作りになっています。
トンデモさんの特徴である、専門用語を駆使して素人を煙に巻く、がここでも実践されているようです。
最終的にはトンデモ系ニセ医学のオーソモレキュラーじゃん!
難解な一般向け図書と思われる福田医師の著作ですが、各論についてはそれなりの裏付けがある論文を参考とされているのに、最終的な結論は、
ケトン食はがん細胞の増殖を抑制する
であり、
高濃度ビタミンCはがんを抑制する
という、私が以前から疑問視してきたトンデモ系の限りなくニセ医学と考えられる酵素栄養学・分子矯正栄養学・整合栄養医学と呼ばれるオーソモレキュラーにたどり着くのでした。
※ちなみにケトン食とがん治療に関してはこんな話がありました。
その後まったく音沙汰のないがん免疫栄養ケトン食療法です。
福田医師がなぜこのような一般向けの本をお書きになったのか、先生が院長であるクリニックのウェブサイトを拝見して納得しました。
うひゃー、トンデモ医学のオンパレードじゃん❗