にわかに注目を集めている鎮痛解熱剤のカロナール、一般的に知れ渡っているロキソニンとどっちがいいのでしょうか?
本記事の内容
にわかに注目を集めるカロナール
解熱鎮痛剤のカロナール(Calonal)がなぜかこの頃人気を集めています。痛み止め解熱剤といえばロキソニン(Loxonin)が処方薬の中では一番ポピュラーでこめじるしあり、「熱っぽいのでロキソニンを処方してください」なんてご指名があるくらい普及していた処方薬です。
なのに今年になってから、「先生のところってカロナールは処方していましたっけ?」とのご質問や、「カロナールってどうなんですか?」と尋ねられることが多くなって来ました。
同じ解熱鎮痛剤であるのに、ロキソニンの人気が落ちだしカロナールが脚光浴びている理由とカロナールとロキソニンの違いを解説してみます。
カロナールとロキソニン、両者の成分の違いによって効果や効能が違うのでしょうか?
なんらかの副作用がメディアで大々的に取り上げると、それまで人気のあった処方薬を拒む患者さんが出てくることを長年の町医者人生で経験しています。なぜか急にご指名の増えたカロナール、人気急落のロキソニンに大きな違いがあるのかな。
カロナール[1]は
- 主成分:アセトアミノフェン(Acetaminophen)
- 添加物:乳糖水和物,結晶セルロース,部分アルファー化デンプン,ポリビニルアルコール,ステアリン酸マグネシウム,香料
ロキソニン[2]は
- 主成分:ロキソプロフェンナトリウム(Loxoprofen Sodium Hydrate)
- 添加物:低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、三二酸化鉄、乳糖水和物、ステアリン酸マグネシウム
薬効としての違いはアセトアミノフェンとロキソプロフェンナトリウムに秘密が隠されている可能性がでてきました。ちなみにロキソニンには「抗炎症効果」があるけど、カロナールにはありません。
古典的解熱鎮痛アスピリンの副作用である胃腸障害が少ない薬としてアセトアミノフェンは19世紀に見つけられた古い古い薬で、一方のロキソプロフェンナトリウムは胃などの消化管障害が少ない解熱鎮痛作用のある物質として日本の三共(現在は第一三共)によって1984年に厚生労働省の承認を得た薬です。[3]
後年に開発された、より胃腸障害の副作用が少ないはずのロキソニンよりカロナールが2020年ころから人気が出てきてしまった理由は効果効能や副作用の問題ではなさそうです。
※ロキソニンは市販薬があります。しかし、カロナールは処方薬の名称であり、市販薬としてはタイレノールA、バファリンルナJなどがあります。
インフルエンザにロキソニンは禁忌でカロナールが推奨された理由
インフルエンザにともなう重篤な合併症としてインフルエンザ脳症があります。インフルエンザに対する解熱剤としては非ステロイド性抗炎症薬であるNon-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs(略してNSAIDs、エヌセイズ)の処方が推奨されており、NSAIDsの一つであるロキソニンを処方しても良さそうなのに、ほかのNSAIDsと同様になぜか「慎重投与」の対象になっています。
一方でカロナールは、インフルエンザに対する解熱剤としては頻用されています。その理由として、
インフルエンザ感染に対してロキソニンを処方した場合、インフルエンザ脳症になる可能性があると考えられ、カロナールを処方した方が安全である、との考え方が主流となっています。
カロナールとロキソニン、使われている量を考えたら副作用の報告例も増えるのでは?
カロナールはあゆみ製薬株式会社という聞き慣れない製薬会社が製造販売しており、あゆみ製薬の2019年度の売上高は127億円程度。[4]一方のロキソニンの販売高はロキソニン単独で305億円です。[5]あゆみ製薬は他の薬も販売していることを考えると、
ロキソニンのほうがカロナールよりめちゃくちゃ使用されているんだから、副作用の報告が多いのは当たり前じゃん❗
という合理的な考え方もできるんじゃないでしょうか?
そもそもインフルエンザ脳症の原因としてNSAIDsが犯人であることは証明されていません。インフルエンザ罹患時に使用が「禁忌」とされているジクロフェナクナトリウム(Diclofenac sodium)が主成分であるボルタレン(Voltaren)に関しては1999-2000年のインフルエンザ脳炎・脳症研究班(森島恒雄班長)の報告によって致命率が有意に高くなっていることが報告されています。[6]
なぜカロナールがチョイスされ、ロキソニンが嫌われるのか?
開業医の場合、処方にはめちゃくちゃ神経を使います。2020年に小林化工というジェネリック医薬品製造会社がアムロジピン(Amlodipine)を自主回収したことによって、他の複数のジェネリックメーカーも同じ名前の薬(商品名というより一般名がアムロジピン)を製造販売していたために、「先生にアムロジピンをもらっているけど大丈夫?」とのお問い合わせを私も数件受けました。「うちのアムロジピンは他のメーカーだから大丈夫」と回答しましたが、薬の効果効能と同等に副作用に関しても医師は積極的に情報収集をする必要があります。
添付文書にある使用上の注意に注目してみましょう。
- ロキソニン:低出生体重児、新生児、乳児、幼児又は小児に対する安全性は確立していない
- カロナール:低出生体重児,新生児及び3ヵ月未満の乳児に対する使用経験が少なく,安全性は確立していない。
そもそもインフルエンザ脳症は子どもに起きてしまう合併症です。解熱鎮痛剤としてロキソニンは小児に対する安全性が確立していないと明記されている一方で、カロナールには小児に対する安全性には触れていません。
子どもがインフルエンザであろうが他の感染症であろうが、ロキソニンを処方することはリスキーであり、カロナールを処方するべきなのです。
おまけ:ワクチン接種で熱が出た、カロナールを飲むか、ロキソニンを飲むか?
ワクチン接種の副反応で熱が出た場合、成人の場合、解熱鎮痛剤としての副作用に関してはカロナールであろうとロキソニンであろうと大差はないはずです。
ここ最近カロナールの処方を希望される患者さんの99.99%はワクチン接種の副反応を心配してのことです。私は「熱も出ていないのに前もって処方するのはどうかなあ、家にあるロキソニンで大丈夫だよ〜」と答えることがほとんどです。でもねえ、こんなことがありました。
先生、ワチン打ちました?
もちろん!2回とっくに打ったよ
私、来週打つんです。カロナールってどうなんですか?
熱が出たらロキソニンでいいんじゃないの?
先生は熱出ました?
2回目になんか腰が痛いから体温測ったら37.9度で驚いた
何飲みました?
カロナール
カロナール処方してください!
私はロキソニンは嫌いなので、痛み止めはセレコックス(Celecox、 一般名はセレコキシブ)を飲むし、滅多に出ない熱はボルタレン座薬、たまたまカロナールが家にあっただけなんだよ〜(ちょっと苦しい言い訳か笑)。
(※)市販されている解熱鎮痛薬の種類には、アセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬(イブプロフェンやロキソプロフェン)などがあり、ワクチン接種後の発熱や痛みなどにご使用いただけます。(アセトアミノフェンは、低年齢の方や妊娠中・授乳中の方でもご使用いただけますが、製品毎に対象年齢などが異なりますので、対象をご確認のうえ、ご使用ください。)
https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0007.html
子ども以外はどっちでもいいよ、ってことですね。
こんなのも後日書きました。
引用文献
- 「カロナール錠200/カロナール錠300/カロナール錠500添付文書」医薬品医療機器情報提供ホームページ
- 「ロキソニン錠60mg/ロキソニン細粒10%添付文書」医薬品医療機器情報提供ホームページ
- 「ロキソプロフェンナトリウムの起原又は発見の経緯」独立行政法人医薬品医療機器総合機構
- あゆみ製薬「2019年10月1日付決算公告」(https://www.ayumi-pharma.com/corp_announcement.html)
- 「第一三共 19年3月期決算 オルメテックの特許切れ響く 国内売上高は前年比167億円減収」ミクスOnline
- 「インフルエンザの臨床経過中に発症した脳炎・脳症の重症化と解熱剤の使用について」日本小児科学会理事会