地中海に面する諸国の食は健康に良い、と考えられています。地中海式の食事は心血管系に悪いとされてい高脂肪食を大量に食べるのに、他国と比較して心血管系の病気で死亡する人の割合が少ないために、フレンチパラドックスと呼ばれています。
本記事の内容
赤ワインのポリフェノールがフレンチパラドックスのポイント?
食事の時に飲む赤ワインのポリフェノールがフレンチパラドックスのポイントとして注目を集めていましたが、赤ワインと大量に飲むことによって心血管系の病気のリスクが低下していると考えられていたフランスでは、近年ワインの消費量が減ってきています。
地中海式食事にプラスした赤ワインの効果で心血管系の病気で亡くなる人が少ないと考えられていたフランス(まあ、地中海沿岸の国々の代表例)の今後の成り行きを注視していきたいと思います。赤ワインが添えられた地中海式の食事を地中海式ダイエットと呼ぶこともあるようですが、果たしてダイエット効果があって、さらに長寿の秘訣なんでしょうか?
フレンチパラドックスに関する現時点での概ねの評価
長崎大学の天然物化学研究室のウェブサイトにはフランス人は一年あたりに1人で67リットルのワインを飲む、との記載とともにフランス人は他の西欧諸国と比較して心臓病による死亡率が低い理由として
赤ワインの中に含まれるポリフェノールによるものであろうと推測されています。
http://www.ph.nagasaki-u.ac.jp/lab/natpro/research/frenchj.html
と書かれています。つまり、健康に悪そうな高脂肪食かつ大量の飲酒であっても赤ワインだと心血管系の病気になりにくく、死亡するリスクも低くなると読み取れますよね。
この考え方からポリフェノールは心血管系の病気を防ぎ、長寿の秘訣となる物質であると考える人が世界中で多数存在します。でも、ちょっと気になることがあるんですよね・・・。
心血管系の病気で亡くなっているフランス人が極端に少ないとは言い切れない
国別の死因を調べたデータがあります。
http://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Popular/P_Detail2019.asp?fname=T05-27.htm
- 日本・・・虚血性心疾患 31.5人/10万人あたり
- フランス・・・虚血性心疾患 31人/10万人あたり
これを見る限りでは、日本人の約67倍もワインを飲むフランス人と比較して、虚血性心疾患で亡くなる確率には大差が無いと普通は解釈しますよね。
循環器系の病気の死因の一つとして脳血管疾患に関しては日本人の方がフランス人より2.5倍高くなっていることの方が気にはなります(これは塩分摂取の量と考える意見が多い)。
地中海食と大量のワイン摂取のフランス人は日本人より癌になりやすい
フランス全土が地中海に面しているわけじゃ無いので、フランス人の多くが地中海食を日常的に食しているとは限らない点は承知しています。今、わかっているのはフランス人は日本人より67倍という大量のワインを飲んでいて、高脂肪食を摂取しているのに心血管系の病気で亡くなる人が少ないとの調査結果から導かれてフレンチパラドックス問題に話を絞ります。
前掲の国別の死亡率を見てみると、悪性新生物(癌のこと)による死亡割合は- 日本人・・・102.8人/10万人
- フランス人・・・124.8人/10万人
フランス人の方が癌で亡くなっている人の割合が日本人より多いじゃん❗
という予想外の結果になっています。ひょっとして大量のワインを飲むフランス人はアルコールによって肝硬変から肝臓癌になってしまっているじゃないの?との疑惑も出てきます。
日本人の1.6倍肝硬変になっているフランス人
またまた前掲のデータの肝硬変が原因で死亡している人の割合は以下のようになっています。- 日本人・・・5.5人/10万人
- フランス人・・・8.8人/10万人
つまり、フランス人は日本人の1.6倍肝硬変で亡くなっているのです。
そりゃ、そうだよね、日本人の67倍もワインをガブ飲みしているんだから。
フレンチパラドックスの今後の行方
「地中海食って身体にいいのよね〜❗」的にガンガン高脂肪食を食して、せっせと赤ワインを飲んでいる意識高い系の方にお伝えしておきたいのは、- 地中海食を摂取しているフランス人と比較して、日本人が心血管系の病気で死亡する確率は高くない。
- 地中海食を摂取していると、がんによる死亡リスクが高くなるかもしれない。
- フレンチパラドックスは本当にパラドックスなのか疑問点が多数。
WHOが発表した国別の平均寿命によれば、日本人は84.2歳、フランス人は82.9歳です(WHO 世界保健統計2020年版より)。日本人もフランス人も世界的に見れば平均寿命はトップクラスです。しかし、フレンチパラドックスを強化する赤ワインに含まれるポリフェノールが長寿に貢献していると半ば定説化している説にちょいと素朴な疑問を抱いてこのブログ記事を書いています。
こんな書籍を先日読みました。「Numbers Don’t Lie: 世界のリアルは「数字」」(バーツラフ・シュミル (著) NHK出版)のP142にはフランスで1990年には年間71リットル消費されていたワインが、2020年には40リットルに減少していることがわかりやすい図とともに記載されています。ワインの消費量は1926年をピークとして年々右肩下がりで減少しているのです。
フレンチパラドックスが最初に医学的な論文として公表されたのは2000年のことです。この論文は権威を誰も否定することは稀である「The Lancet 」に掲載されています。
この論文が理論的背景となって、フレンチパラドックスが注目され、地中海食、そして赤ワイン、さらにはポリフェノールが健康の秘訣的に脚光を浴び出しました。赤ワインの消費量が減少しているフランスの今後の心血管系病変の罹患や死亡率など慎重にウォッチングするとともに、ポリフェノールを過信しすぎることは現時点でさえ強く支持されない考え方もできることを知って欲しいと思います。