邪魔なので、乳房を小さくする手術を受けたテニス選手の話を深掘りしてみた。

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日本ではあまり馴染みのない乳房を小さくする美容外科手術。パフォーマンスを上げるために乳房縮小術を受けたテニス選手の話を目にしました。

乳房縮小術はどのような効果があり、リスクがあるのかを医学論文を引用して考えてみました。

乳房の大きさが生活や仕事の邪魔になるので美容外科手術を受ける人々

たまたま、このような記事を目にしました。

World No. 2 Simona Halep had breast reduction surgery to save her tennis career

キャリアを救うために乳房縮小手術を受けたテニス選手

https://plastytalk.com/wta-finals-world-4-simona-halep-breast-reduction-surgery-save-tennis-career/

当時世界ランキング2位だったルーマニア出身のテニス選手シモナ・ハレプ(Simona Halep)が乳房縮小手術を受けたこと報じる記事です。シンガポールの美容外科手術情報を掲載しているこのウェブサイトによればシモナ・ハレプは 2008年の全仏オープンでジュニアチャンピオンになった時は豊かな胸が男性ファンの注目を集めた、なんてことが書かれています

豊かな胸の大きさのために背中の痛みが生じて、テニスプレーヤーとしてのキャリアは世界ランキング500位と低迷していました。そこで乳房縮小術を受けることによって、邪魔であった豊かな乳房を乳房縮小術で小さくすることによって、めでたく2015年には世界ランキング2位に浮上したそうーです(えっ、私はめちゃくちゃスポーツ音痴であり、テニスに関しては全く無知であることをご了承くださいね)。

胸を小さくする乳房縮小術は海外ではポピュラーな美容整形なんだよ

英国で男性に一番行われている美容整形手術が乳房縮小術であることは以前ブログ記事でお伝えしました。

男性の美容整形人気No.2は乳房の手術⁉英国の話ですが⋯

男性の美容整形人気No.2は乳房の手術⁉英国の話ですが⋯

「Multilevel Breast Reduction: A Retrospective Study of 338 Breast Reduction Surgeries」[1](PMID: 31592394)というイスラエルの研究者の手による医学論文では、

乳房縮小手術は審美的な価値がある、乳房縮小術は生活の質を大幅に改善する!と初っ端に書かれています。

海外ではメジャーでも、日本でも乳房縮小術を希望している方はいるのでしょうけど、どちらかというとマイナーな美容整形手術ではないのではないかな?

乳房縮小手術の利点と欠点

前掲の論文では乳房縮小術を受けた338人の患者さんのその後を調査した結果が書かれています。

  • 再手術が必要となった血腫は0.8パーセント
  • 傷が開いたのが20パーセント
  • 表面の感染3.5パーセント
  • 脂肪が壊死したのが1.2パーセント
  • 乳輪壊死が0.2パーセント

と、かなり豪快な合併症とその出現率が記載されているのですが、論文では患者さんの満足度は高く、軽微な合併症だけすむ安全な手術である的な主張が見え隠れしています。お国柄なのかなあ・・・。

乳房を小さくする手術のリスクとして「Unfavourable results following reduction mammoplasty」[2](PMID: 24501476)では「乳房縮小手術の好ましくない結果として、前掲の合併症について述べられており、失敗の原因として間違った判断・間違った手術計画・計画通りではない手術などを挙げて、熟練美容外科医に手術を任せるべきである的な論調になっています。

キューバでは乳房縮小術の患者さんを集客しているっぽい

社会主義国兼医療先進国と考えられているキューバでは医療費は自己負担はゼロであり、美容整形手術も無料で受けられるなんて話を耳にしたことがあります(現時点での費用に関する真偽は不明)。ところがネットでこんな記事を見かけました。

「Female Breast Reduction In Cuba」とのタイトルに続き、見出しは「Are you from cuba and looking for Female Breast Reduction!」です。「あなたはキューバ出身で乳房縮小手術を探していますか?」

乳房縮小手術希望者募集

http://www.cosmeticgetawayindia.com/cuba/female-breast-reduction.htm

これがインドの美容情報サイトであり、なんでインドでキューバ出身であり豊かな乳房に悩んでいる患者さんを探しているのかという、世界的にちょっと怪しげな美容整形の界隈の縁を覗いた気がしちゃいました。

日本ではあまり聞かない乳房を小さくする美容外科手術は海外では珍しくないものであるのは確かなようですね。

乳房縮小術の本来の目的は別

乳房を小さくする目的は豊かな胸を小さくすることでは無いようです。2015年にPlastic and Reconstructive Surgeryという形成外科の再建手術をメインとした専門誌に掲載された「Breast Reduction」[3](PMID: 26397273)によれば、乳房縮小術の本来の目的は、乳頭の位置を変えることとのこと。

乳首の位置を変えようが、審美的な観点であろうと日本ではあまりニーズはないと予想される乳房縮小術なのですが、別の観点から気になるものがあります。

乳房縮小術を受けても母乳で育てることは可能

赤ちゃんは母乳で育てるべきである、との考え方があります。私は別に母乳じゃなくてもいいんじゃないの、との立場をとっているために、母乳を過度にありがたがる風潮を母乳神話と呼んでいます。

#母乳神話

結果的に乳房縮小手術を受けても母乳育児は、「The effects of breast reduction on successful breastfeeding: a systematic review」[4](PMID: 19692299)によれば推奨されるべきだそうです。

当院の自由診療部門である美容部では、美容外科手術は今まであまり積極的にアピールしてきませんでした。でも、実はかなり高度なテクニックをもった美容専門の医師が在籍しているので、これからボチボチアピールしていこうを思っています。でも、豊胸及び乳房縮小術は現在は行っていません。

初っ端にお伝えした乳房を小さくする手術したテニス選手の選択ですが、正しい決断だったと考えられます。

「The impact of breast reduction surgery on low-back compressive forces and function in individuals with macromastia」[5](PMID: 20009823)によると乳房を小さくする手術によって、腰部への負担が改善されることが報告されていますので、ランキング500位と低迷していたのが、手術後に2位に浮上したことも納得がいきますよね。

参考文献

  1. Borenstein A, Friedman O. Multilevel Breast Reduction: A Retrospective Study of 338 Breast Reduction Surgeries. Plast Reconstr Surg Glob Open. 2019 Aug 30;7(8):e2427. doi: 10.1097/GOX.0000000000002427. PMID: 31592394; PMCID: PMC6756655.
  2. Saleem L, John JR. Unfavourable results following reduction mammoplasty. Indian J Plast Surg. 2013 May;46(2):401-7. doi: 10.4103/0970-0358.118620. PMID: 24501476; PMCID: PMC3901921.
  3. Hall-Findlay EJ, Shestak KC. Breast Reduction. Plast Reconstr Surg. 2015 Oct;136(4):531e-544e. doi: 10.1097/PRS.0000000000001622. PMID: 26397273.
  4. Thibaudeau S, Sinno H, Williams B. The effects of breast reduction on successful breastfeeding: a systematic review. J Plast Reconstr Aesthet Surg. 2010 Oct;63(10):1688-93. doi: 10.1016/j.bjps.2009.07.027. Epub 2009 Aug 18. PMID: 19692299.
  5. Foreman KB, Dibble LE, Droge J, Carson R, Rockwell WB. The impact of breast reduction surgery on low-back compressive forces and function in individuals with macromastia. Plast Reconstr Surg. 2009 Nov;124(5):1393-1399. doi: 10.1097/PRS.0b013e3181b988aa. PMID: 20009823.

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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