今まで主治医として診療をさせて頂いた患者さんが定年退職をするといきなり「健康オタク」になる例が多いのです。
有り余る時間を有意義に使うという意味では今まで仕事に追われ、運動さえもほとんど行なわず、付き合いで飲みたくない酒を飲み、ストレスの為か喫煙に走り、時簡短縮のために移動はほとんど車なんて方がいきなり、禁酒・禁煙は当たり前、さらに毎日のウォーキング、ジム通いをはじめるのです。
年を取っていきなり運動ってのも考えもの
そんなとき私は「無理しないでね」とか「いきなりジョギングなんてしないように」「ジムであまりに熱心に負荷をかけるトレーニングは腰にくるよ」なんてあまり歓迎しない返答をしていました。 運動は高齢ではじめてもかなり健康には有益でした
私の生活指導は「無理をしない」「継続できる簡単なものから」「周りに迷惑をかけない」という大原則があります。「周りに迷惑をかけない」とはオッサンってなぜか、自分が新しいことを始めると周りの人を誘い込む性質があるのと、今まで出勤ぎりぎりまで寝ていた人がいきなり「朝型人間」に変身することによって、生活のリズムを崩されてしまう家族が結構出現してしまうのです。
運動にしても「目標を数値化して、それを達成する」と会社でしつけられた影響により「毎月100キロウォーキングする」という目標を設定すると、とにかく目標達成のプレッシャーによりついつい無理をして足腰を痛めるオッサン続出という流れになってしまいます。とにかくできる範囲で継続できる方法であり、その方に合った運動と言うか身体活動を取捨選択しなければなりません。そんなときオッサン対象の「高齢で運動をはじめても体には良いですよ」という論文が目に入ってきました。
運動開始年齢は遅くても効果がある
高齢になってから運動をした方がhealth aging (健康加齢とでも訳すのか?) に対して良い結果を招くと言う内容です。実はここのところが微妙は微妙なんです、というのもhealth agingに関してきっちりとした定義がありませんので。
この論文では
- 慢性疾患に罹っていない
- 認知症ではない
- 身体機能に障害がない
- メンタル的に問題がない
という4項目が揃っているとhealth agingが良好であるとしています。この内容から察すると「健康的に年を取っている」「日常生活に問題なく生活ができる」「今すぐ生命を左右する持病がない」ということになり、退職後のオッサンが目指す条件は満たしていると思われます。
米国のCDCは(Centers for Disease Control and Prevention)はベビーブーマー世代が高齢になった場合、医療費が膨大になることを危惧して、健康加齢?に対して本当は15項目の注意を行なっているのですが、なぜかこの論文は4つの項目だけで済ませているのは謎です。
年齢とってから運動は始めればいい⁉
- 調査条件をみたした人は全調査対象1万1000人(調査期間8年)のうち、3454人
- 3454人中健康だったのは665人(19.3%)
- 中等度の運動をしていた人は運動をしない人より、オッズ比2.67で健康であった
- 強度の運動をしていた人は運動をしない人より、オッズ比3.53で健康であった
まあ、これは予想できる範囲の結果ですが、この研究で面白いのは
- 最初は運動をしていなかったけど、途中で運動を開始しても健康である効果はオッズ比3.37
ということです。つまり、元々運動嫌いの人でもなにかの理由で運動をするようになると、健康的に年齢を重ねる事ができるということになります。(注意 オッズ比って少し分かりにくいのですが、単純に何倍ということではないのですが、関連の高さを示します。)
運動嫌いの私ですので、今から運動しないで引退してから運動は始めればいいや、と妙に安心感を与えてくれた研究報告でした。でも、「後悔先に立たず」というありがたーいことわざもありますので、本日から少しは歩くようにしよう!