感染経路不明となることが多いクラミジア感染症や淋病、近年急増している梅毒は、幸い治療薬があります。
新型コロナは治療薬がまだ確立されていません。ですので感染経路の解明は感染拡大を防ぐためにも大切なのです。厚生労働省のクラスター対策班は不眠不休の努力を続けておられますが調査中のものまで不明とする報道のあり方には医師として強い疑問をもっています。
本記事の内容
感染症は以前から感染経路不明のものが少なくなかった
新型コロナ対策として、クラスター(cluster、集団・塊という意味)を見つけることにより、さらなる感染拡大を防ぐ方法が取られています。
クラスターが発生していることを早期に発見し、感染源や感染経路を調査することは感染拡大防止対策の重要ポイントであると考えられています。
しかし、ここ数週間、特に東京を始め大都会における新型コロナ感染事案において、感染経路不明となる例が増えています。
メディアの報道によればクラスターが発生していても、感染経路不明となる原因の1つとして、「夜の街クラスター」が指摘されています。
具体的に「夜の街クラスター」の定義は明確じゃないようですが、小池都知事の会見等によればカラオケ、ライブハウス、バー、ナイトクラブやダンスホールにおける感染を夜の街クラスターと呼んでいる模様です。
オッサンが行く「クラブ」と若者が行く「クラブ」はちょっと違いますし、「ナイトクラブってなんだよ、石原裕次郎がブランデー傾けているところかよ?」なんてレスポンスをしてしまった私です。
実はもっと夜の街で濃厚接触する可能性のある業種もあるんじゃないの、と思った方も多いのではないでしょうか?夜じゃなくても、非常に濃厚接触することってあるんじゃないのかねぇ。
私が専門とする泌尿器科領域における感染症も、感染経路が不明であることが多いのです。
クラミジア感染症は感染経路不明となることが少なく無いです
泌尿器科で診ることの多い感染症の1つが「性器クラミジア感染症」です。いわゆる性感染症(Sexually Transmitted Disease、略してSTD)の1つであり、泌尿器科では診察はあまりしない口腔や咽頭にも感染する新型コロナ感染症です。
クラミジアは小さな微生物であり、顕微鏡で確認することは不可能であるために、新型コロナ関連で多くの方が知ったと思われるPCR検査(polymerase chain reactionの略、日本語だとポリメラーゼ連鎖反応)を使用して感染の判定をします。
このクラミジアは男性の場合は排尿痛などの症状が出やすい反面、女性の場合は症状が出にくい場合がある点が厄介です(女性の場合、口腔・咽頭の感染があるのもさらに厄介)。
クラミジア感染症は発症者数を見る限りでは、日本で定着した性感染症の1つと考えられます。
このクラミジア感染症の多くは抗菌剤の使用によって治療が可能ですが、症状が出にくい女性の場合、子宮頸管や子宮内膜にまで感染が拡がって最悪の場合は腹膜炎を起こす可能性もあります。
さらに子宮頸管の炎症が長引くと不妊症の原因となりかねない点が厄介なのです。
なお、このクラミジア感染は医療機関は届け出義務がありませんので、実際の発症者は多いことが強く予想されます。
このクラミジアをオッサンが前掲の夜に営業しているお店より派手に濃厚接触する可能性の高い店舗でもらってきて、奥様にうつしてしまう事例を一般開業医は多数経験していますので、洗いざらい白状しないとピンポン感染が起きてしまいますのでご注意ください。
ちなみに感染源が特定の風俗系の店舗であったとしても、医師は店の名前をお尋ねすることもありませんし、家族からの問合せがあっても守秘義務のためにお答えすることはありません。
知らないうちにクラミジアに感染した奥様にとっては、オッサンが白状しない限り「感染経路不明」です。
淋菌感染症も感染経路不明となることが多い
クラミジア感染症とともに、男性の場合、排尿時に激しい痛みを伴う性感染症の1つとして淋菌があります。ネット情報では、淋菌感染症はクラミジア感染症の尿道炎と比較して、膿が出る、痛みが激しい、などの記載を見受けますが、必ずしも症状だけで見分けることは不可能です。
中にはクラミジアとダブルで感染する場合もありますので、「なんか変だな〜」と感じたら泌尿器科を受診してください。この淋菌による性感染症の発生状況はこのようになっています。
淋菌感染症は最近では減少傾向にあるように思われますが、これが実は厄介です(淋菌感染症も届け出義務はありません)。
いままで効果のあった抗菌剤に対して抵抗を示す淋菌が増えています。また、「夜の街クラスター」以上に濃厚接触の可能性の高い業種で働いている女性の咽頭における淋菌保菌率の高さも問題になっています。
ソープランドやヘルス従業員から感染することが指摘されています。
しかし、近年ではソープランドやヘルスのような固定型店舗ではなく、派遣型の風俗産業が増えていて従業員の定期的な性感染症チェックが難しい状況になっているそうです(これはそのようなデリバリー型風俗を経営している複数名から聞いた話)。
もしも、感染が特定の店舗に集中していたとしても、診断した医師がお店の名前を尋ねることもありませんし、そもそも保健所に届ける義務もありませんので、「感染経路不明」になってしまいます。
ちなみにこれらの風俗店と呼ばれる業種は夜だけでは無く、日中も営業しているので、これらでサービスを受けても、「夜の街クラスター」には含まれないのでしょうか?
近年大流行の梅毒は感染経路不明か?
私が大学病院及び関連病院に勤務していた時から数年前までに梅毒と診断した患者さんの数より、ここ数年で梅毒と診断した患者さんの方が多数になっています。
それもそのはず、梅毒はこんな感じで急激かつ密かに感染を拡大しています。
梅毒の場合は、前掲のクラミジア感染症や淋菌感染症と違って、診断した医療機関は保健所に届け出る必要があります。
医師は、(2)の臨床的特徴を有する者を診察した結果、症状や所見から梅毒が疑われ、かつ、次の表の左欄に掲げる検査方法により、梅毒患者と診断した場合には、法第12条第1項の規定による届出を7日以内に行わなければならない。
感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第12条第1項
しかし、梅毒の届け出をする場合、医師は感染した患者さんの氏名を記入する必要はありませんので、これも「感染経路不明」になります。
梅毒は性行為・オーラルセックス・口唇・口腔粘膜・肛門周囲からも感染しますし、感染したままあるいは妊娠中に感染すると赤ちゃんにまで被害が及びます。
クラミジア・淋菌・梅毒は治療可能な感染症であるために、公的機関が徹底的に感染経路を追いかけないので「感染経路不明」がほとんどです。
以上のように「感染経路不明」な感染症は多数です。
「感染経路不明」報道で気になること
新型コロナの感染拡大で「感染経路不明」とされる人が増えることが、オーバーシュートの前兆であると考えられています。
緊急事態宣言が発令され、東京都では東京都緊急事態措置として徹底した外出自粛を要請しています。
都民としては不自由な生活が求められています。
そのような状況でこのような記事を見かけました。
毎日新聞 都内は1日あたり最多の144人 累計1338人 感染経路不明7割近い95人(https://mainichi.jp/articles/20200408/k00/00m/040/317000c)より
2020年4月8日22時28分にアップされた記事です。
しかし、東京都の公表はこのようになっています。
報道は速報性が求められることは承知しているつもり、でも調査中の95人を感染経路不明として報じるのはどうなんでしょうか?
厚生労働省のクラスター対策班(@ClusterJapan)は不眠不休の努力をいまでも続けているのに⋯。
正しい情報を知りたい方はぜひ新型コロナ感染症クラスター対策専門家のツイート(https://twitter.com/ClusterJapan)にご注目ください。
※注意:いわゆる性風俗業によって新型コロナの感染が多くなっているかは、現時点では明らかにはなってはいません。