緊急事態宣言と医療崩壊の深い関係について説明します。

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緊急事態宣言が出されましたが、この緊急事態宣言をもっと早く出すよう求めていたのが医師会です。

専門家が会見で耳慣れない単語・カタカナを多用し、結局何がいいたいのか分からないという方が多いでしょう。医師会が危惧していた医療崩壊と緊急事態宣言の関係についてわかりやすく解説します。※緊急事態宣言が出る前の記事です。

医師会はなぜ緊急事態宣言が早く出ることを要望しているか?

新型コロナ関連報道がメディアの大半を占めるようになって、かなりの日数が過ぎています。普段あまり耳にすることがない、「オーバーシュート」「感染爆発」「都市封鎖」「ロックダウン」「非常事態宣言」、そして「医療崩壊」などの言葉がメディアで頻用されています。

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当院はテレビが無いので、車のナビの画像で失礼します。

これらの派手に取り上げられる用語を正しく理解していない人も少なくことが予想されます。

例えば緊急事態宣言がでると即移動の自由が制限される、ひょっとすると街中をふらふらしていると逮捕されてしまうので無いか、持病のための通院さえ禁止されるのではないか、と受け止めている人もいるようです。

私は、感染症を専門とはしていませんし(STD、Sexually Transmitted Diseaseの略 いわゆる性病は専門)、感染予防・制御のプロでもありませんし、政治にいたっては週刊誌レベル、経済に関してはテレビニュースでインタビューされる買い物途中の主婦レベルです。

自分の乏しい知識を整理しつつ、国難とさえ言われている新型コロナ問題を正しく理解するために、「医療崩壊」と「緊急事態宣言」が強くリンクしていることをお伝えしたいと思います。

追記 当院は緊急事態宣言発令を受けて、通常は禁じられている無診察処方を行います。

緊急事態宣言発令における当院の対応 その1

緊急事態宣言発令における当院の対応 その1

緊急事態宣言と医療崩壊が強くリンクしている理由

まずは用語の定義を明確にする必要があります。恥ずかしながら私が初めて目にした、一瞬ギョッとなる言葉が「緊急事態宣言」です。ものものしい「緊急事態宣言」に続いてメディアで見られる「都市封鎖」があります。

なんとなーく、「戒厳令」をイメージしてしまいました。緊急事態宣言の内容は以下のようになっています(日本経済新聞 緊急事態宣言、強制力に限界」や朝日新聞「「緊急事態宣言」出たら暮らしは 自粛超えるインパクト」による)。

  • 不要不急の外出自粛要請・指示
  • 人の集まる施設の使用停止要請・指示

指示と要請は同じようなことなのですが、法律用語なのか政治用語的解釈なのかは不明ですけど、要請より指示の方が強いものです。

外出の自粛は要請あるいは指示であり、「都市封鎖」では無いですし、「ロックダウン」(海外だと「Lockdown」と表記されています)ともかなり違いますね。そもそも罰則がありません。

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日本経済新聞 「欧米に近い外出制限を」 北大教授、感染者試算で提言(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57610560T00C20A4MM0000/)

イベントの自粛、不要不急の外出を控えれば「オーバーシュート」(海外のメディアでは「overshoot」が使われています)、つまり「感染爆発」は抑え込めます。

次の2つが医療に密接なものです。

  1. 臨時の医療施設の確保、強制使用も可能
  2. 医薬品や食品の売り渡しの要請。強制的に行政が収用することも可能

医療施設の確保を強制的に行い、医薬品を強制的に収用することが、東京の場合であれば都知事の指示で可能になります。この2つは罰則が適用されるようです。

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https://digital.asahi.com/articles/photo/AS20200303004699.html

都内では感染者がどんどん増加しています。ここで使われる言葉が「医療崩壊」。

実はこの医療崩壊との言葉は以前はちょっと違った意味で使われていました。

医療崩壊の本当の意味はこれ

ここ数十年前から「医療崩壊」という言葉が使われていました。その当時の医療崩壊が意味する状況と現時点で使われている医療崩壊はちょっと違います。

たとえばウィキではこのように医療崩壊を説明しています。

医療安全に対する過度な社会的要求や医療への過度な期待、医療費抑制政策などを背景とした、医師の士気の低下、防衛医療の増加、病院経営の悪化などにより、安定的・継続的な医療提供体制が成り立たなくなる、という論法で展開される俗語である。

これはちょっと今使われている医療崩壊が意味するところとは違いますよね。

現在使われている「医療崩壊」について考えてみます。

  • 医療崩壊を患者さん側から捉えた場合、病気で医療機関を受診したくても受診できないし、受診できても十分な治療を受けられない、だと思います。
  • 医療従事者側が考えている医療崩壊は、治療したくても十分な治療ができないし、治療希望者を診療することもままならない状態、と考えます。
  • 患者さんサイドと医療従事者サイドが考える「医療崩壊」の定義は似通ったものであるように思えますが、両者の間には乖離があります。

    日本医師会長「医療危機的状況」だと宣言

    日テレNEWS24 日本医師会長「医療危機的状況」だと宣言(https://www.news24.jp/articles/2020/04/01/07618806.html)

    医師会長は本来ならば一刻も早く緊急事態宣言を出して欲しい、とお考えです。いままで散々医師会の方針に疑問や不満をブログに書いてきた私ですが、今回の国難新型コロナ対策に関しては99パーセント日本医師会の考え方に同意します。

受診を希望しているのに受け入れてもらえない、これも医療崩壊?

新型コロナに関連して、以前から賛否両論があるのがPCR検査。ごくごく一部の医療関係者がとにかくPCR検査を行うべきだ!と主張して、これをメディアが大々的に取り上げました。

私は呼吸器系感染症の専門家ではないですし、疫学のプロでもありません。しかし、希望する方全員に対してPCR検査を行うことの対して、疑問を呈してきました。

たとえばこれ↓

【新型コロナ感染症対策】ウイルス感染を恐れて検査しても、様々な問題が発生する可能性があります。

【新型コロナ感染症対策】ウイルス感染を恐れて検査しても、様々な問題が発生する可能性があります。

偽陽性・偽陰性について医学知識がなくても、紙と鉛筆と電卓があれば誰でもわかるように書いたつもりです(これでもわかってくれない人から抗議のメールをいただいていますけど)。

また、PCR検査を行っている数が日本は海外と比較して極端に少ないことが、日本の致死率が高いことにつながっているとのヘンテコな意見に対してはこのように考えています↓

「日本は検査を積極的に行わないので、ヘンテコな感染症の致死率が高い」は大間違い。

「日本は検査を積極的に行わないので、ヘンテコな感染症の致死率が高い」は大間違い。

それでも、「心配だから」との理由だけでPCR検査を希望する患者さんが後を絶たない状況です。気軽に患者さんの希望通りに検査しないことは医療崩壊ではないですが、PCRを乱発することは医療崩壊につながります。

新型コロナのPCR検査を行うためには一般の方が想像する以上の手間隙がかかります。

手間隙がかかるだけなら医療従事者が我慢をすれば良いだけなのですが、検査する上で必要となるPPEとよばれる防護具もPCR検査を乱発すれば枯渇しますよね。

医師が万が一、PCR検査が原因で新型コロナに感染してしまったら、どうなるでしょうか。感染した医師が我慢をすればいいのかもしれませんが、以下のような被害の拡大が起きてしまいます。

  • 感染した医師は少なくとも2週間は戦線離脱するので、医師不足が起きる
  • 感染した医師によって他の医療関係者も感染する可能性があるので、医療従事者不足が起きる
  • 医療従事者が不足すれば、診療に応じることができる病院のキャパが減少
  • 感染症以外の疾患の治療も不可能になるし、感染症以外の重病の対応ができなくなるし、救急救命もできなくなる
  • 新型コロナ関連以外の救える命も救えなくなる

つまり、患者さんから見ても医療従事者から見ても「医療崩壊」が起きてしまうのです。

さらにこのような事態も発生しています。

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毎日新聞 医療従事者151人の感染判明 院内感染も発生(https://mainichi.jp/articles/20200404/k00/00m/040/127000c)

一般の方より感染症に対する知識がある医療従事者であっても感染してしまいます。新型コロナ感染に携わっていない医療従事者への感染も報告されています(プライベートな会食等での感染した人もいますが)。現場の医療従事者は疲労がピークに達しています。

このような状態にならないためには、緊急事態宣言によって不要不急の外出を要請レベルから指示レベルにしていただきたいのです。

医療崩壊を防ぐために緊急事態宣言が必要な理由

私が知っている感染症指定医療機関や後輩が勤務する感染症指定医療機関から、悲痛な叫びがメールやDMで届いています。

まず、開業医が気軽に新型コロナを疑って患者さんを気軽に紹介してくることに対する問題。患者さんの流れを整理するために、とにかく帰国者・接触者相談センターを通してくれ、直接紹介状を持たせて来院させないで、との情弱開業医に対する悲痛なお願いがありました。

他の感染症指定医療機関からは、ある地域の新型コロナ陽性者の過半数を当院が受け持っていて、そろそろ限界である、しかし、自分たちはできうる限り対応をしていくとの悲痛な言葉。

さらには万が一感染者が急増した場合にそなえて、ベッドやマンパワーに余裕を持たせたいので、緊急性のない患者さんの紹介はご遠慮ください、との要請。

まだまだ、医療現場からの伝達・声明・悲痛の叫びが多数あるのですが、医療機関の特定や発信者の特定を避けるために詳細は述べていないことをご承知ください。

都内の新型コロナ感染者数と収用可能なベッド数はこのようになっています。

都内の新型コロナ感染者数と収用可能なベッド数

もともとは118床でしたが、都と医師会と各病院の尽力によって750床に急増させました。それでも満床になるのは時間の問題。

2020年4月5日追記 東京都は750床を用意していましたが、感染者は4月4日に118人でてしまいました。

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数日前に「都内のベッドがすでに満床」「感染者を受け入れ拒否」的なツイートしていた開業医がいましたが、それは情報不足。原則は感染していると診断された場合は入院です、しかし、現場では無症状者などは自宅待機を指示しています。感染症指定病院は重症あるいは重篤な新型コロナ感染者のために少ない数ですけど、万が一用のベッドは確保してあります。

重症化していない患者さんであっても感染症法に従うと入院の必要があります。そこで都は病院以外の隔離施設の確保を模索していまいした。

そこへ救世主が現れたので時間の問題とも考えられる感染爆発に対応する時間稼ぎが可能となりました。

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NHK アパホテル「軽症や無症状の人 全面的に受け入れ」新型コロナ感染症(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200403/k10012366641000.html)

癖の強い社長であっても、外国人のお姉さんが体をくねくねさせるCMであっても、アパホテルは偉い❗

新型コロナの感染者が収容できなくなるだけでは無く、他の疾患の患者さんの手術もできなくなる、二次・三次救急医療機関が手一杯の状況になって救える命をすくえなくなる、これが現在メディアで取り上げられる「医療崩壊」です。

医療崩壊を防ぐための方法

ここからはあくまで私見、根拠のない話になりますので読み飛ばしてください。特にいままでの私のブログをお読みになっていない方は大きな誤解を招いてしまうのでご注意くださいね。

  • 特定の医療機関を新型コロナに感染した重症化リスクがある患者さん、重篤な患者さん専用とする。各病院に散らばっている感染症のプロをそこに集中させる⋯関係者には大変なご苦労をおかけしてしまうことは重々承知しています。でも、感染症は専門としない医師がウロウロするよりは、プロが集結したほうが仕事はやりやすいのではないでしょうか?さらに必要とされる医療資源も集中的に投下することができるのでは?
  • 軽症あるいは無症状の感染者は病院では無く、公的施設に収容する(たとえばオリンピックの選手村の中の個人に販売される予定の物件以外)とか宿泊施設の一括借り上げで対応⋯これはアパホテルの協力で東京では一部クリア。非常事態宣言によってオリンピック選手村を強制的に収用すると、マンションとして購入予定の人に対する補償問題が発生する可能性あり。事務方や警備の方が利用する予定の施設なら知事の権限で収用可能だし、補償問題等は発生しないと思われます。
  • 通常は禁じられている無診察処方、今はかなり切迫した状態なので無診察処方が限定的に許されているので、新型コロナ感染関連以外の多くの患者さんに利用してもらう。これによって院内感染リスクはある程度抑制可能。

あと、医療に携わるものとして注意をしたいのが以下です。

  • 私のような開業医であっても、常に院内感染のリスク回避に務める。感染は患者さんからとは限らない、院内のスタッフがウイルスを持ち込むことも十分に考慮する。
  • 卒業旅行で海外に出かけた4月から病院勤務する研修医は正直に感染リスクのある国を訪れた場合は、上司に申し出る。
  • 医療従事者は一般の方以上に不要不急の外出を避ける。
2020年4月5日追記

市によると、20人の会食があったのは3月27日。前日の26日には、黒岩祐治知事が夜間を含む週末の外出を自粛するよう県民に緊急メッセージを発していた。男性研修医は27日の前後にも、同病院の医師や研修医、放射線技師、看護師と計4回にわたり会食やカラオケに参加。研修医5人でのカラオケは5~6時間に及んだという。病院は会食などへの参加について明確に禁じていなかった。

共同通信 研修医20人の会食で感染か 横浜市立市民病院で2人目

うわー、噂として聞こえてきていたけど。

まあ、こんなこと書いてもどうせ「おまえのような開業医ごときが、ブログ書を書く暇があったら診察しろ!」ってメール頂いちゃうんだろうなあ⋯。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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