新型コロナウイルスPCR検査は感度だけじゃなく、特異度も考えないとダメ

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とにかく検査をすれば良い、とは限らないというのが医師としての見解です。

検査に関してお伝えしたいのは、感度だけでなく特異度をしっかり考慮する必要性です。

特異度を無視した検査の繰り返しは医療崩壊を引き起こす可能性が高いのです。その点について詳しく解説いたします。

私のツイート、おおきな誤解を招きお詫びします

先日、通勤の途中でテレビの音声を聞いていて、こんなツイートをしたところお叱りをいただきました。

桑満おさむのtwitter

痛恨の誤変換、「出演者」がなぜか「出捐者」w。

先ほど録画したものを再確認しました。確かに「陽性と出るまでPCR検査を繰り返す」との発言はありませんでした。私のツイートの間違いを指摘してくれた方、及び関係者にはお詫び申し上げます。

さらに私の「10本同時に」とのツイートもおおきな誤解を招いてしまいました。「同時に連続して10本の検体を採取して」とツイートするべきだったようです。一気に10本の綿棒を鼻やのどに入れることを意味していなかったことをご理解ください。

新型コロナの正式名称は「ヘンテコなウイルス」と置き換えて使用します、一般に使用されている検査方法で話を進めていきます。

PCR検査は「polymerase chain reaction」の頭文字をとった検査方法で、日本語だと「ポリメラーゼ連鎖反応」です。長くなるのでPCRあるいはPCR検査で話を進めます。

批判的な思考でモーニングショーを聞いていたために、表現にバイアスがかかってしまったことは反省しております。

【モーニングショー】ヘンテコな感染症の検査におけるバックファイア効果とダニング・クルーガー効果。

【モーニングショー】ヘンテコな感染症の検査におけるバックファイア効果とダニング・クルーガー効果。

でもやっぱり変ですよ、モーニングショーは。

2020年3月26日追記

「日本は検査を積極的に行わないので、ヘンテコな感染症の致死率が高い」は大間違い。

「日本は検査を積極的に行わないので、ヘンテコな感染症の致死率が高い」は大間違い。

やはりPCR検査をすれば良い、とは限らないと考えるのは間違いではなさそうです。

PCR検査を繰り返せば良い、は正しいのか?

放送された内容のあらましはこのようなことでした。

ゲストコメンテーターのPCR検査は感度が70パーセントとあまり高く無いのは大丈夫なんでしょうか的な質問に対して、ゲストの医師は

●(新型コロナのPCR検査は)繰り返し行うことによって「感度」が上がる。

とおっしゃっていました。

さらにレギュラーコメンテーターは

●(PCR検査で陰性判定された人であっても)症状が重くなっているならもう一度検査をすれば良い。

との発言の補足として感度70パーセントの検査であっても、2回行えば間違って判定される確率は1割以下になると説明しています。

まず、ゲスト医師の発言にあった「繰り返し行えば感度が上がる」は大きな誤解というか間違いです。

検査の感度は何回繰り返しても変わりません。感度は検査そのものの特性です。独立した事象と仮定した場合、高くなるのは「陽性的中率」です(言葉尻をガタガタ言って申し訳ないのですが、非常にデリケートな話題ですから専門用語はできる限り正しく使用していただきたいです)。

実際は臨床症状によって日にちが経過して、症状が重くなって同時にウイルスの量が増えていれば陽性的中率は向上する可能性が高いです(間違いがウイルスの量によるものだと仮定した場合に限る)。

話を進めます。

今回の新型コロナ感染症の原因であるウイルスに対するPCR検査の感度が70パーセントと仮定した場合、本当はウイルス感染しているのに1回目のPCR検査で陰性と判定される人は30パーセント。

レギュラーコメンテーターの話のようにPCR検査を2回繰り返せば、間違って陰性と判定される偽陰性の確率が9パーセントになることは計算上は正しいです(独立した事象である限り)。

2回目の検査時点でウイルスの量が増えて症状が重くなっていたのであれば、PCRの再検査はやっかいなウイルスに感染していることを証明することの強い証拠になります。

しかし、私がお伝えしたかったことは感度だけでなく、特異度も考えて検査を繰り返さないとかなり悲惨なことになってしまう可能性をお伝えしたかったのです。

偽陽性・偽陰性問題に関してはこちらをお読みください。

【新型コロナ感染症対策】ウイルス感染を恐れて検査しても、様々な問題が発生する可能性があります。

【新型コロナ感染症対策】ウイルス感染を恐れて検査しても、様々な問題が発生する可能性があります。

偽陽性もそれなりの問題がありますし、偽陰性もやはり問題が生じます。

繰り返しPCR検査する場合は特異度も考えないと悲惨なことに⋯

実際に10回連続で検査して場合、以下のような大問題が発生してしまいます。

あくまで独立した事象として考えてください。あくまで、計算上の話だとご理解ください。ご理解・納得された方のみ、以後読み進んでくださいね。

さらに実際は他の検査や問診や症状等を組み合わせて診断しますので、このようなことはまず起こらないはずであることもお忘れなく。

感染症におけるCT検査の有用性

まあ、CTもそれなりに問題のある検査ですけどね。

独立した事象とは、例えばサイコロが1つあり、そのサイコロを一回ふります。1の目が出ました。次に出る目に対して最初にサイコロをふったことは何も影響を及ぼしません。1回目に1の目がでたからといって、2回目にサイコロをふったら1の目がでやすいこともありませんし、1の目が出にくいこともありません。

このようは概念を「独立」と呼びます。

新型コロナ感染症ウイルスのPCR検査の特異度が90パーセントだったとします。100人の感染していない人に対して90人を陰性と判断できる検査ということです(実際の特異度はPCRの性質上、もう少し高くなることが予想されます)。

100人の感染していない人に特異度90パーセントのPCR検査をおこなったら、90人が正しく陰性と判定され、10人が感染していないのにウイルスに感染しているとの陽性判定が下されてしまいます。

たった一回だけの陰性判定の結果だけでは信頼できない。再検査するべきだ、との意見が出て、もう一回同じ100人に対してPCR検査をおこなったらどうなるでしょうか?

特異度が90パーセントですから、当然10人は陽性との判定になります。もちろん90人はウイルス感染が無い陰性判定されます。

しかし、1回目の検査で陰性と正しく判定されて人が2回目の検査でも同じように陰性判定されるとは限りません⋯独立した事象ですからね。

特異度90パーセントのPCR検査をしつこく10回、ウイルスに感染していないおなじ100人に繰り返したとします。

0.9を10回掛けると、0.3486⋯・・約34.9パーセントとなります。これは34.9パーセントの人が10回ウイルス感染していない陰性と正しく判定される確率です。

ということは、残りの65.1パーセントは10回PCR検査を繰り返すことのより、何回目かの検査で陽性判定が出てしまうことを意味します。

感度が100パーセントのPCR検査は残念ながら今の時点では存在しません。また、同じように特異度が100パーセントのPCR検査も存在しません。

余談:極端なことを言えば、検査した人全員に陽性判定をすれば感度は100パーセントになりますし、逆に全員に陰性をすれば特異度は100パーセントになります。

再確認しておきます。

●感度の定義:病気の人のなかで、検査で陽性判定される人の割合

今回のやっかいなウイルスに関しては、ウイルスに感染している人のうち、PCR検査で陽性になる割合です。

特異度の定義:病気では無い人のなかで、検査で陰性判定される人の割合

同じように今回の話ではウイルスに感染していない人のうち、PCR検査で陰性になる割合です。

この定義をお忘れなく。

PCR検査は検査としては非常に有用ですけど、注意が必要だよ

私は泌尿器科を中心として、地元密着型のクリニックを営んでいます。泌尿器科でもPCR検査はかなり頻回に行います。

一番PCR検査を行うのは男性患者さんのクラミジアと淋菌による感染症のチェックです。

画像 五本木クリニック>一般診療>泌尿器科>検査>PCR検査

内需ではなく外需として思い当たる行為があった方が排尿痛や排尿時の違和感や滲出物によって下着が汚れるなどを主な症状として来院された場合は迷わず尿のPCR検査を行います。

院内でPCR検査は行えませんので、PCRの検査キットに入れた尿を委託した民間検査会社(当院は万が一のために2社と契約)に午前と午後の2回回収してもらえます。

ちなみに昔は尿道に綿棒をいれてグリグリしてから、その綿棒を検体として検査会社に提出するという乱暴な検査でした。今では普通に検尿カップに尿を適量とらせていだだければPCR検査が可能になっています。

民間検査会社は当日あるいは翌日に他の医療機関から回収した検体をまとめてPCR検査機器をつかって判定をします。検査結果は数日後になってしまいます。

でも、PCR検査の結果を待ってから治療していたら症状にお困りの患者さんを助けることができません。

そのためには問診や複数の検査結果にしたがって見切り発車的に治療を開始します。

院内で尿を簡易検査キットを使ってその場で尿中の白血球数が増えていないか、赤血球は混じっていないか、尿中に細菌が存在する場合に認められる亜硝酸塩は陽性なのかなどの判定を組み合わせて、なんらかの微生物によって尿道炎などの感染症の診断をします。

問診と簡易検査によってクラミジアにも淋菌にも効果があると考えられている抗菌剤を処方して初診は終わりです(感染症専門の先生から耐性菌を生み出している元凶とされがちな泌尿器科医も出来るだけの努力はしております)。

数日後に正確な信頼度の高いPCR検査結果をお伝えするために患者さんには再診していただきます。その結果としてクラミジアであればクラミジアにより効果的な抗菌剤を再度処方しますし、淋菌が検出されていたら淋菌に効果的な抗菌剤を再度処方します。たまにはクラミジアと淋菌の両者が検出される場合もありますので、必ずPCRの検査結果は聞きに来てくださいね。

クラミジアの場合は薬の服用が終わってから一定期間をおいて再度クラミジア単独のPCR検査を行います。その結果として陰性判定が出ればクラミジア感染は完治したと判断します。淋菌の場合はPCRではなく、顕微鏡で淋菌の存在が確認できますの2回目のPCR検査を行うことは稀です(クラミジアは顕微鏡では確認できないくらい小さい病原体)。

ここで1つ問題が発生します。PCRはクラミジアの遺伝子を増幅して判定する検査方法です。ごくごく少量のクラミジアが存在していても陽性判定を下す優れた検査方法です。しかし、実際は死んでしまったクラミジアの遺伝子さえ拾って増幅してしまいます。1回目と2回目の検査の間隔が短すぎると、本当は死滅しているクラミジアの遺伝子によって陽性判定が出てしまうのです。

発掘調査によって発見されたミイラの遺伝子を調べることがありますよね。死亡してかなり長い年月が経過していてもPCR検査は遺伝子を調べることが可能だからです。

私はPCR検査は優れた検査方法であることは十分認めます。さらに感染拡大に対して有効な検査方法であることも理解しています。

ワイドショー等であまりにもPCR!PCR!と喧伝するのはいかがなものかと常々考えている故のツイートであったことをご理解いただけると幸いに存じます。

お願い1:当院は新型コロナ感染症ウイルスのPCR検査は行っていません。

2021年9月2日追記:保健所の混乱を避けるべく、東京都と契約をして当院でも公費でPCRが受けられるようになりました。症状がある方、濃厚接触者疑いの方は前もって電話連絡をくださいませ。

お願い2:Twitterでの議論は避けたいと判断します。限られた文字数での議論は適さないと考えます。

お願い3:今回のブログに関して、メールや電話での質問はご遠慮ください。

2020年3月6日追記 

こんなことがありました。

  • 「新型コロナ感染症ウイルスのPCRして下さい」との電話あり。
  • 「当院はそのような検査はしていませんけど」
  • 「なに〜、お前のところPCRやっているだろう」
  • 「はい、クラミジアと淋菌とか」
  • 「じゃあ、PCRの宣伝するな!ガチャン」

PCRの宣伝なんかしていないのに、なんだあれ?

さらに追記(2020年4月23日)

PCR検査が普及しないことが商機だと思ったのでしょうか?楽天がよけいなことをやってくれました。

楽天の検査キットは私たち国民の努力を無駄にする。

楽天の検査キットは私たち国民の努力を無駄にする。

外出を自粛している私たち国民の努力が一気に吹き飛んでしまう可能性があります。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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