からだに悪い食べ物として加工肉がここ数年にわかに脚光を浴びています。食べ物自身はひと様のお役に立とうとしているのに、いつの間にやら悪者として扱われていることに憤慨しているかも知れません。
加工肉、特にベーコンを偏愛してやまない私としては、ベーコンの健康面面での有効活用方法についてご紹介します。
本記事の内容
難病から命を救ったベーコンのお話
こんな話が立派な医学専門書に掲載されています。「Nasal packing with strips of cured pork as treatment for uncontrollable epistaxis in a patient with Glanzmann thrombasthenia」[1](PMID: 22224315)。
ざっくりGoogle翻訳で日本語にすると「グランツマン血小板無力症患者の制御不能な鼻血の治療としての硬化豚肉のストリップによる鼻パッキング」ということになります。
血小板筋無力症(別名Glanzmann病)という小児特定疾患に指定されている稀な病気があります。この病気に罹っていた4歳の子供が、鼻血をだしたところ、加工した豚肉を鼻に詰めることによって効果的に治療できたことを報じる論文です。
血小板筋無力症は血小板の凝集能力が阻害されている病気であるために、一度出血しだすとなかなか止まりません。大量の鼻血の場合は気道閉塞を起こしかねない、生命を左右する重篤な状態になりかねません。
ところで鼻血を止めるのに使ったのは本当にベーコンなのか?
以前、このブログでこの意外なもので鼻血を止めて命を救った話を紹介しました。
自分で書いておきながら、ベーコン偏愛というバイアスがかかったブログ記事になってしまい、原文の論文には「cured pork」と書いてあるものをベーコンと脳内変換をしてしまった可能性に先日から過去のブログ記事のリライト作業中に気がついてしまいました。
cured porkは通常は塩漬けの豚肉を意味し、生ハムだったり通常のハムであったり、今流行りの塩麹漬けの豚肉である可能性も否定はできません。「cured」の直接の意味は「硬化」ですから、塩麹漬けの豚肉以外を鼻血を止血するために使用した可能性はますます否定できなくなってしまいました。
他の部位の止血にベーコンは使用されていない
宗教的に割礼を行ったり、感染症予防のためや将来の陰茎がんのリスクを少なくするために割礼が行われることがあります。血小板筋無力症の割礼を行った際に出血が止まらなかった症例に対しての報告がありました。
「Management of Post-circumcision in Glanzmann`S Syndrome: Case Report and Review of Literatures」 (これ、なぜかpubmedにはこのタイトルでは掲載されていない模様)によれば、割礼を受けた10歳の少年が割礼手術後に出血が止まらなくなり、輸血を繰り返すことで救命できたとのことでした。この症例はサウジアラビアのものであり、cured porkは当然使用できません。
謎が深まる加工肉で鼻血を止めた症例
例えば、日本未来館の科学コミュニケーターのイグノーベル賞関連ブログにもこのように書かれています。
薬学(医学)賞:塩漬け豚肉(ベーコン)を鼻に詰め鼻血を止める
https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/20140919-2014.html
鼻血が出た時の応急処置としてベーコンなどの塩漬けにした豚肉を鼻に詰めることは米国では民間療法というかおばあちゃんの知恵的に使用されていたことがスタンフォード大学のウェブサイトで知ることができます。
It turns out this isn’t the first time salt pork has been used to control a nosebleed. “It’s a traditional therapy for hard to treat bleeding disorders,” Jackler told me. “When I was a resident in the 1980s, we would buy a lump of salt pork to use.”
https://scopeblog.stanford.edu/2014/10/09/pigs-to-the-rescue-how-salt-pork-stops-nose-bleeds/
「出血性疾患の治療が難しい伝統的な治療法です!」と明快に答えつつ「自分たちは1980年台から塩漬けの豚肉の塊を用意して買っていました」と付け加えています。
「USE OF SALT PORK IN CASES OF HEMORRHAGE」(Arch Otolaryngol. 1940;32 (5) :941-946.)という1940年に発表された論文を見つけました。今から90年前から塩漬けの豚肉を使って出血を止める方法は論文化されていた、ある意味ではエビデンスのある方法だとも呼ぶことが可能ですね(笑)。
結論:鼻血を止めるにはベーコンでなくても良い
塩で加工した豚肉を鼻血が出ている鼻の穴に突っ込むと、豚肉は塩分をたっぷり含んでいるために鼻血によって膨張することによって、しっかりと止血作用を表すことが、このスタンフォード大学の記事から知ることができました。
クルクルと巻いて鼻に詰めることを考えると、ベーコンでも生ハムでも塩麹漬けの豚肉でも効果は同じような気もするんだけど⋯。
身近にベーコン等が無い場合の正しい鼻血の止め方はこちらをどーぞ。
参考文献
- Humphreys I, Saraiya S, Belenky W, Dworkin J. Nasal packing with strips of cured pork as treatment for uncontrollable epistaxis in a patient with Glanzmann thrombasthenia. Ann Otol Rhinol Laryngol. 2011 Nov;120(11):732-6. doi: 10.1177/000348941112001107. PMID: 22224315.