【新型コロナ感染症対策】ウイルス感染を恐れて検査しても、様々な問題が発生する可能性があります。

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新型コロナの感染拡大が世界規模の広がりを見せる中、日本は他国に比べて検査数が少ないため「なぜ検査をしないのか」と疑問を投げかける医師もいれば闇雲に検査はすべきでないとする医師とで意見が分かれています。

まず新型コロナが名前の通り新型であること、そしてPCR検査の精度の問題を合わせて考えると自ずと何が正しいのかが見えてくるはずです。

新型コロナ感染を判定する検査「PCR」であっても多くの問題を抱えています

日本中が新型コロナに高い関心を寄せています。

世界の感染状況

これは世界中の新型コロナの発生状況、死亡者数などを世界保健機関(WHO)、アメリカ疾病管理予防センター(CDC)、中華人民共和国国家衛生健康委員会のデータをもとにジョンズ・ホプキンズ大学が公表しているサイトです。

ウイルスに感染しているかを正確に判定する方法としてPCR(ポリメラーゼ連鎖反応 polymerase chain reactionの略)という言葉を多くの方が今回知ったと思います。PCRに関して、医師であっても、このような質問をしてくるのでは無いか、と厚生労働省は判断しているようです。

厚生労働省「新型コロナに関するQ&A(医療機関・検査機関の方向け)

厚生労働省「新型コロナに関するQ&A(医療機関・検査機関の方向け)」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00004.html)より

残念ながら正確に判断できると思われているPCRであっても、絶対では無いことを知っていただけたら、と私は考えています。

多くのメディアが大々的に取り上げた、一見画期的と思ってしまう検査方法に関して疑問を呈してきました。

がん早期発見の新技術「尿一滴でがんを線虫が検知」で考えたこと⋯利益と不利益。

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私の危惧を共同通信社がこのような形で取り上げてくれました。

話題の「尿1滴でがん検査」に医師が鳴らす警鐘

日本の行政の対応が後手後手であるとの批判もありますし、やれるだけのことはやった、とのご意見もあるようです。今回はあくまで、ウイルス感染に対するPCR検査によって陽性、陰性と判定されたとしても、検査には限界があることについて述べてみます。

感染症検査キットの開発に関する新聞記事

日本経済新聞「ヘンテコな感染症検査キット、企業が開発着手 実用化には時間」(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO55696010V10C20A2EA2000/)

インフルエンザを一般のクリニックで判定する簡易検査キットの新型コロナ版の開発と導入も急がれています。しかし、PCRであっても絶対では無いですし、さらに簡易検査キットに関してはどれだけ正確に判定できるのか疑問が残ります。

注意1

新型のウイルスに関する防疫や検疫に対する政策や対策に関しては、私は感染予防の専門家では無いことをご理解の上で読み進んでいただけると幸いに存じます。検査の確からしさについて、計算をしてみただけであると解釈してくださいね。

注意2

今回、行政の対策に対して賛否のあった横浜に入港していたクルーズ船の乗客・乗船員の方々の心労には胸が痛みます。このクルーズ船に対してPCRが即時に行われなかったことに関して多くの方が疑問を持ったと思います。中国武漢から空路で日本に帰国した人は全員がPCRを受けたのに、なんでクルーズ船では行われなかったのかもメディアで討論がされていました。行政の判断に関しては感染症の専門家や評論家の意見が別れてしまっていたように感じました。何が正しい方法であったのか、については私に回答するだけの知識はありません。

3700人に対してPCR検査を行った場合の偽陽性、偽陰性と判定される人は予想外に多い

クルーズ船に乗っていた3700人(もう少し多かったかもしれないけど、計算しやすいように3700人としました)に対して精密検査の一つとして考えられているPCRを行なったとします。PCR検査は微量のウイルスの遺伝子を増幅することが可能であり、臨床の場で大活躍している実践的な検査方法です。

しかし、本当はウイルス感染していないのに陽性と判断してしまうことがどのような検査であっても発生します。100%正しい結果が出る検査はありません。ですので間違って陽性と判定してしまうことがあるので、偽陽性という言葉があるのです。

一方で本来はウイルス感染しているのに、いくらPCRであったとしてもウイルス感染していないと間違った判定をしてしまう可能性があります。これを偽陰性とよびます。

今回の新型コロナ(2019-nCoV)に対するPCRの偽陽性率や偽陰性率に関して正式なデータは公表されていません。そこでかなり精度が高いものと仮定して話を進めていきます(故に数字はあくまで予想となることをご理解くださいね)。

感度を95パーセント、特異度を95パーセントとしてみます。

感度95パーセントとはウイルス感染している人が100人いたら95人を陽性と判定する能力を意味します。

特異度95パーセントとはウイルス感染していない人が100人いたら95人を陰性と判定する能力を意味します。

95パーセントの確率でウイルス感染が陽性である、陰性であると判定する検査と聞いたら、多くの人が、「これは非常に有用な検査だな」と判断してしまうのでは無いでしょうか?

この検査を3700人に対して行った場合の有効性を考えるためには、果たして3700人中何人が実際にウイルス感染しているのか、を仮定する必要が出てきます。

2月18日時点でわかっているウイルス検査の結果は日本経済新聞「クルーズ船で新たに99人陽性 感染者454人に」によれば、

検査を受けた人は1723人

検査結果で陽性と判定された人は454人

です。この数字からざっくり有病率を計算してみます。

454人÷1723人=0.263493⋯・、なので26パーセントとしてみます。

有病率を考えに入れてみると驚くほど、正確な判定ができると考えられているPCRであっても間違った判定をくだされる人が出てしまうのです。

26パーセントがウイルス感染している時に感度95パーセント、特異度95パーセントの検査をしたら

ウイルスに感染している人の割合が26パーセント、つまり有病率が26パーセントと仮定してみます。この状況で感度95パーセント、特異度95%のウイルス判定検査を3700人に行った場合の計算は次のようになります。

3700人のうち有病率26パーセントと仮定すると実際にウイルス感染している人は962人です。

ウイルス感染していない人は、3700人- 962人=2738人です。

有病率26パーセントの感染症に感度95パーセントのウイルス検査を3700人に行った場合、962人× 95パーセント=913.9人が陽性と判定されます。

有病率26パーセントの感染症に特異度95パーセントのウイルス検査を3700人に行った場合、2738人× 95パーセント=2601人が陰性と判定されます。

結果的には2738人-2601人=137人が本当はウイルス感染してないのに検査結果は陽性、つまり感染していると判定されてしまいます。これが偽陽性です。

また、ウイルス感染しているのに検査結果は陰性、つまり感染していないと判定される人が48人でてしまいます。これが偽陰性です。

3700人中、偽陽性の人が137人、偽陰性の人が48人出てしまいます。

画像

感度病気である人のうち、検査結果が陽性となる人の割合
特異度病気で無い人のうち、検査結果が陰性となる人の割合
偽陽性病気で無い人のうち、検査で陽性になること
偽陰性病気である人のうち、検査で陰性になること

ここ、混乱が起きやすいので表と定義を追記しました。

めちゃくちゃ信頼度が高い検査が存在して、例えば感度を99パーセント、特異度を99パーセントとして計算しても偽陰性は9.62人出てしまいますし、偽陽性は27.38人出てしまいます。

ウイルス感染が偽陽性になったしまった人、偽陰性になってしまった人は⋯

めちゃくちゃ高性能の検査があったとしても、100パーセント正確に判定することは残念ながら無理です。遺伝子を増幅して判定するPCRはかなり高度な判定結果を得られるものであっても、100パーセントではありませんし、間違いをゼロにすることは不可能です。

半可通の人が、「全員にPCRを行うべきだ!」と主張しているようです。しかし、スクリーニング検査としてPCRを行なったとしても、偽陽性・偽陽性と判定されてしまう人が出てしまいます。

実際はPCRで判定しても、CT検査等などを使用して、本当に感染しているかを慎重に確定診断する必要性が出てきます。偽陽性であった人は実際は感染していないのに、現時点ではある程度の期間は隔離されてしまうようですし、偽陰性であった人は社会復帰することになるようです。

偽陽性・偽陰性の可能性を知らない人であっても、知っている人であっても色々と不安を抱えてしまうのは、どうしようもない、対策方法が無い、複雑な問題になり慎重な判断が必要となってきます。

信頼度が高いと考えられているPCRであっても、前述のような結果になってしまいます。現在、海外ではウイルスの簡易検査キットが開発され、日本でも開発が急がれています。簡易検査キットの性能は間違いなくPCRよりは劣ると常識的には考えられています。

個人的には米国のように米疾病対策センター(Centers for Disease Control and Prevention 略してCDC) のような機関の設立を望みます。例えば厚生労働省のウェブサイトの「新型コロナに関するQ&A(一般の方向け)」では「無症状病原体保持者から感染しますか?」との問いに対して

無症状病原体保持者からの感染を示唆する報告(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc2001468)もみられますが、現状では、まだ確実なことはわかっていません。通常、肺炎などを起こすウイルス感染症の場合、症状が最も強く表れる時期に、他者へウイルスをうつす可能性も最も高くなると言われています。

と回答して、CDCへのリンクが貼られています。

CDCは多くの人が心配している疑問に対して「When does spread happen?」との項目を設けて的確に回答しています。

When does spread happen?

People are thought to be most contagious when they are most symptomatic (the sickest).

Some spread might be possible before people show symptoms; there have been reports of this with this new coronavirus, but this is not thought to be the main way the virus spreads.

https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/about/transmission.html

日本語に訳すと

もっとも症状がある、症状が重い時に伝染する

症状がなくても伝染する可能性があるかもしれないが、新型コロナ感染症ウイルスが拡散する主な方法だとは考えられてない

になります。なんだか責任をCDCに負わせているように思ってしまうのは私だけでしょうか?

新型コロナに対して、私たちが具体的にできる対策はこれ

どのようにウイルス感染を判別するか、非常に難しい問題であり、デリケートな問題をも含むことを頭に入れながら考えていく必要があると考えています。心配だからPCRをお願いします、は現時点では必要ないことであるとの認識をお願いします。

メディアに登場する医師や感染症の専門家の意見に若干の違いがある点も混乱を招いているようです。

医療関係者も一般の方も可能な具体的な新型コロナ対策は次のようなものであると判断しています。

画像

岩田教授の表現等に関して賛否はあるようですが、注意点に関しては参考にして良いと判断します。

注意:繰り返します。私はPCRによってウイルス感染を判断しても確定診断にはなり得ない可能性が高いことをお伝えしたいだけです。今後、日本および世界がどのようにして新型コロナ、そしてへんてこな感染症対策をしていくべきであるか等を述べたものでは無いことをご理解ください。

追記 2020年2月28日 気軽に簡単に医療機関でPCRが受けられることは、多くの方は大歓迎だとおもいますが、これまたさまざまな問題を引き起こす可能性があります。

【モーニングショー】ヘンテコな感染症の検査におけるバックファイア効果とダニング・クルーガー効果。

【モーニングショー】ヘンテコな感染症の検査におけるバックファイア効果とダニング・クルーガー効果。

大量に患者さんが押しかけてきたら、待合室で新型コロナに感染してしまうリスクもでてきます。医療関係者はPCR検査にマンパワーを注ぎ込むことになり、他の病気で重篤になっている患者さんへの治療が手薄になってしまう可能性も出てきてしまいます。

2020年3月26日追記

「日本は検査を積極的に行わないので、ヘンテコな感染症の致死率が高い」は大間違い。

「日本は検査を積極的に行わないので、ヘンテコな感染症の致死率が高い」は大間違い。

これもご参考にしていただけると、うれしいです。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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