患者さんから近眼に対するレーシックを受けた方が良いかを相談された場合、私の経験上からはレーシック手術は積極的におすすめはしていません。
ものすごい強度の近視に高校時代から悩まされていた私ですが、子供が生まれたのをきっかけに「近視に対するレーシック手術」を受けました。
今回のブログ記事は、レーシックを受けて後悔している医師のお話です。体験談として参考にしてください。
本記事の内容
レーシック手術への不信感?
私の近視の程度としては眼鏡なしだと、自分の顔を鏡で見ることはもちろん、手のひらの指紋を見ることもできませんでした。眼鏡で近視をカバーするとしたら、それこそ漫画に出てくる牛乳瓶の底状態になってしまいます(若い人は牛乳瓶の底といっても判りにくいかもしれませんが)。
見た目のかっこよさを気にする私ですので、高校生時代よりコンタクトレンズでごまかしてきて、眼鏡をかけた経験はありませんでした。
子供が生まれ、万が一コンタクトを外している夜中に地震や火事、あるいは泥棒が侵入してきたときに眼鏡を持っていない私は手探りでコンタクトレンズを装着してから次のアクションを起こさないと行けなくなります。
トラブルに対して即対応ができなくなることが予想されるので、レーシック手術を受けることにしました。
眼鏡を作ればそのようなトラブルに襲われる不幸があったとしても、とりあえずの対応はできるのに自分が眼鏡を掛けた姿を想像するだけで嫌になってしまうということと、身の回りでレーシックを受けた知人が複数いて「調子良いよ!」「なんで一刻も早くレーシックを受けなかったのか、と思う」なんて絶賛賞賛の声に後押しされたという環境でもありました。
レーシック担当医が眼鏡を掛けていた❗
知人の経営する「レーシック手術専門」のクリニックを受診しました。医師以外がクリニックを経営・管理することは法律上禁じられていますが、美容専門クリニックやレーシック手術を行なっているクリニックは不思議なことに実際の経営者は医師免許をお持ちでないという限りなく黒に近いグレーの状態で運営されている現状を読者のかたは頭の片隅でいいので入れといてください。
そのような実態のクリニックは医療機器が高額な為に、医師以外のスポンサーがどうしても必要になるというのですが、当院は医師である私が経営をしていても地道にやってくればレーザー治療器で診察室が溢れかえるくらいになるんですけど。お金が儲かると思って医師を雇ってクリニックを実質経営している人もいるようです。
私を担当した医師は流れ作業の検査をして一通りの説明と簡単な診察をしました⋯その見事な流れ作業といったらほれぼれするくらいであり、手術に対する説明もテープレコーダー(古いたとえか 笑)でも内蔵されているのかと思うようなものでした。
そもそも手術によって近視を治す当方法はソ連で行なわれ出したものらしいので、それまで私の知識にあった手術風景も工場で車を作るような流れ作業の映像・画像だったので、「まあ、そんなもんか」程度に思っていました。レーシックを受けると老眼が早く出易い傾向があるという説明もありましたが、「そんな将来のこと気にしてられっか!」と若かった私は手術を受けることを決心して、同意書にサインをしました。
手術は方式が数種類あり、それによって鰻では無いのですが「松竹梅」的に何段階かに分かれていました。
もちろん、見栄っ張りの私は特上である「松」を選びました。後で知ったことですが、新機種を使うと高くなり旧式の機械を使うと安く済んだようです⋯効果に違いがあるのかは不明です。手術当日はそれこそトヨタの工場のラインに乗せられたような感じで、手術後の注意をテープレコーダー内蔵式看護師に受け、担当医も「大丈夫ですか?」しか質問をしない中ですんなりと数分、それこそ「あっという間」に終了しました。
奇跡のような光景に感動したのもつかの間
手術翌日はまさに奇跡のような風景でした。いつもですと、目が覚めるとゴソゴソと枕元に置いてあるコンタクトを装着して、本格的に起き上がる私の日常生活でした。
朝、目が覚め、目を開けるとそこには明るく、色調にとんだ部屋の風景がくっきりと広がっているではないですか?初めてコンタクトレンズを装着した時よりもはるかに遠くのものがハッキリと見え、涙が出るほど感動しました(すこし痛くて本当に涙もでました)。
数週間、レーシック手術の素晴らしさを聞かれもしないのに周囲の人に吹聴してまわりました。2週間後くらいに左右の見え方が違うので、術後の様子を見てもらう為の再診時に担当医(初診医とは別、さらに手術した医師とも別)に伝えますと「よくあることなんで、再手術しましょう!」と簡単に流されてしまいました。後日、再手術をトヨタ式ライン工場で済ませて、無事両眼のバランスは取れて結論としては大満足な手術となりました。
年齢とともに老眼がでてくるのは当たり前ですが⋯
レーシック手術を受けて数年が経過したころから、本を読むとき少し字が滲んで見えてきました。「疲れ目かな?」程度に思っていたのですが、本を持っている両手を少し伸ばし本と顔の距離を延ばすと滲んでいた字が見え易くなってきます。「こりゃ、老眼だ」と思った私ですが、老眼であることを家族に知られるのも恥ずかしいので、ごまかしごまかし生活をしてきました。
もともと字が汚いことで有名な私ですが、「院長、この字なんですか?」とクリニックのスタッフに私が書いたカルテが以前にも増して読みにくいという指摘が急上昇してきたのです。もちろん、老眼によって本を読むスピードが落ちていることを非常に苦痛に思っていた私はついに周囲の人に告白しました。
「なんか最近、老眼ぽいんだよね」、周囲の反応「歳ですからね」。ちなみに老眼は早い方は40歳代前半で、出現するようです。じゃあ、今度は老眼のレーシックを受けよう!と単純に考えた私は友人の眼科医に相談しましたところ、老眼のレーシックはまだ様子がよく把握されていない治療だから、待てとの指示でした(レーシックを担当した医療機関とは全く別の医療機関)。
その友人医師の胸ポケットにはしっかりと老眼鏡が入っていました。そういえば、近視のレーシック治療をした時も診察した医師は眼鏡を掛けていたっけ。
今、問題になっているレーシック手術の健康被害は
私のように「老眼が早く出る」という副次的な反応(副作用ではありません)は目をレンズと考えた場合、出現してもトラブルとか健康被害ということにはなりません。そのメカニズムについての説明は今回は省きます。今問題になっている「レーシックによるトラブル」は術後の感染症によって失明等が引き起こされたという深刻なものです。医学的に「清潔操作」がなされていなかったことが原因と考えられますが、手術時に感染させない為の手技、それって基本中の基本なんですけど。
なかには「レーシック難民を救う会」という組織もあるようです。レーシックが保険治療外の扱いなので厚生労働省はレーシックの手術総数を把握していないことと死亡者が出るほどの重篤な問題が発生していない為に、トラブルの総数も把握していないようです。つまり厚生労働省自体がレーシック治療の実態を把握していないのです。
美容医療系と似たような状況と思われますので、当院としても安全性はもちろんのこと、インフォームドコンセントを徹底することを院内で常に話し合っております。
時には第三者に介入してもらい、私たちのクリニックにおける医療関係者の都合により患者さんに対して不利益になっていると思われる点も改善しています。
私の老眼が酷いのはレーシックとは無関係かもしれませんが、レーシック治療を受けていなかったと仮定した場合、現在の私の視力がどのようになっていたかを判断することはできません。
老眼とレーシック治療の関連を対象に研究をするには、ある一定年齢の方を二つのグループに分けて片方のグループを対象にヨーイ、ドンでレーシックをして、何年後に老眼が出るかを検証します。もう一方のグループはレーシックをしないで様子を見て、何年経過すると老眼がでるかを調べます。そして、その両者を比較してレーシックをすると早めに老眼がでるか、出ないかを調査することによって結論を導きだします。このような研究の方法を「前向きの研究調査」と呼びます。
現時点で老眼が出ている方を対象に何年前にレーシックを受けていたか、あるいは受けていなかったか、によって過去にさかのぼって調べることを「後ろ向きの研究調査」と呼んでいます。結論の正確さは前向き調査ですが、私がレーシック手術を受けた時点ではまだ十分なデータが無かったんです。「流行もの」や「新しい治療法」を受ける場合はご注意ください。