「体温を上げて免疫力アップ」「食事で免疫力を上げる方法」といった免疫力をアップして風邪・ウイルスに克つ情報が蔓延し、カラダによいとされる情報には大抵「免疫力UP」がつきもの。
医師として申し上げますが、残念ながら私たちの体のもつ免疫システムはそんな簡単なものではありません。体温を上げれば免疫力があがってガンにならないといった情報も医学的な根拠はありません。
「何々をして免疫力アップ!」免疫はそんなに簡単なものじゃないよ❗
「体温を上げて免疫力アップ」「食事で免疫力を上げる方法」などの、なんとしてでも免疫力をアップさせましょう、免疫力をつけましょう的な記事をウェブでも週刊誌でも毎日のように目にします。
そもそも免疫はそんな単純なものではなく、複雑な要素が絡み合ったヒトの体に備わったシステムであることをご理解ください。今の時期であれば、「風邪に負けないように免疫力をアップ」とか「ウイルス感染を防ぐ免疫力を上げる食事方法」とかが、出回っています。
そのような免疫力アップ方面一押しの方々に私から質問があります。
風邪の症状が出ている人は免疫力が低いために、鼻水が出たり熱が出たりしているのですか?
そもそも、免疫力がアップしたことをどのような指標によって証明しているのでしょうか?
免疫システムの1つとして、インターロイキン(Interleukin)という物質があります。インターロイキンは20種類以上に分類されていて、がん治療で使用されるインターロイキンもあります。私の専門である泌尿器科領域では腎がん治療に分子標的薬が登場する前はインターロイキン-2が使われていました。
このインターロイキンの仲間であるインターロイキン-8(Interleukin-8、 略してIL-8と記載することが多い)は風邪を引いた人と風邪を引いていない人を比較した場合、風邪の症状が出ていない人の方はインターロイキン-8が増加していなかった、との結論を得た医学論文があります。
風邪のウイルスと戦って免疫力(この言葉は使いたくないけど、わかりやすいように今後も使用)をアップさせるはずのインターロイキン-8はなぜ風邪症状が出た人の方が増加していたのでしょうか?
免疫力が上がっている人ほど、風邪を引きやすい?
話を整理しますね。
ウイルスと戦う免疫システムの1つをインターロイキン-8が担っている、コレは間違いなく事実です。ウイルスが体内に浸入してきたら、体を守るための免疫システムがスイッチオンされてます。
ということは、免疫に関わっているインターロイキン-8も当然増加して、ウイルスを退治するために増加するはずですよね?
でもねえ、こんな研究論文があるのです。
試験管レベルではなくて、実際に人間を対象とした医学論文です。
「Rhinovirus infection induces mucus hypersecretion.」(PMID: 9609741 )では、風邪を引き起こすウイルスとして一般的に知られているライノウイルスを実際に実験に参加した人の鼻の粘膜に垂らして、インターロイキン-8の様子を観察しています。
●実験の対象者は合計で80人
●実験対象者はライノウイルスを含む液体を点鼻されました
●実験対象者の鼻の分泌物を検証
●風邪症状が出ている人はインターロイキン-8が増加していた
●風邪症状が出ていない人はインターロイキン-8は増加していなかった
Rhinovirus infection induces mucus hypersecretion.(PMID: 9609741 )
このような結論になっています。
風邪の症状が出ている、ということは風邪を引いた、風邪のウイルスに負けた(?)と解釈できますよね。
風邪の原因であるライノウイルスと戦うためにインターロイキン-8が動員されたはずなのに、風邪の症状が出ていない人ではインターロイキン-8は増加していない。これって変じゃないでしょうか?
とにかく免疫力アップ界隈は怪しい話が続々と
前掲の医学論文はかなり古いもので、その後違った知見が出てきている場合はゴメンなさい、です。私がお伝えしたいことは、免疫はシステムであり、そうそう易々とアップしたり、上げたりできるものでは無いことを知ってもらいたいのです。
例えば「体温を上げて免疫力アップ」式の話が出回っています。以前、この話を某製薬メーカーが一般向けウェブサイトに掲載していたので、私はその製薬会社に医学的根拠があるのかを質問したことがあります。
結果的には医学的な根拠は無しと回答をいただきました。
怪しげな免疫力アップ方法に関して、詳細に検証したウェブ記事があります。
体温を上げると免疫力が30パーセントアップする、と書かれた健康関連記事は多数あります(中には37パーセントもある)。私はこれが気になって気になって、暇さえあればこの説を取り上げたまともな医学論文を捜索していた時期があります。前掲の医学論文もそんな時期にたまたま見つけて、Evernoteに記録してありました。
withnewsにはこのようなことが書かれています。
体温と免疫に関する論文を調べましたが、本当に少なかったですし、人間について調べたものはありません。ただ、医師が一般向けに書いた書籍に、体温1度で免疫力が30%下がる、という話はありました
ですよねえ、体温が上がる・下がるの違いがあっても、私が一般書籍以外で体温を1度上げると免疫力が上がる系の論文を探していても見つけられなかったのも当然です。
もしも、体温が1度下がった場合に免疫力が30パーセント低下したとしても、体温を1度上げれば免疫力が30パーセント上がることにはならないと思います。<
免疫力HP100の人が、体温1度下がってHP70になって、体温を元にもどすと、HP70x1.3=HP91⋯あれ?これは冗談としても、おかしな話なわけですよ。
さらにwithnewsはこのトンデモ系医学話を追っかけます。
東洋医学者も含めた複数人にお話を伺い、「発熱時は免疫が活発になる」という感覚を持つ医師は多いらしいということまでは分かりました。しかし、あくまでも経験則的なことで、少なくとも「1度で30%」というまことしやかな情報の根拠となる論文は、見つかりませんでした。
最終的に一般向け書籍で体温を上げて免疫力をアップ話を書かれている医師にメールで質問したところ、根拠となる論文が無く、最終的な説明が「西洋医学的にエビデンスで説明しようとなると難しい」です。
とにかく、根拠の無い、いい加減な医学健康記事には惑わされないようにご注意くださいね。
免疫機能に異常が起きると、本来体を守るための機能が逆に体内の細胞組織を攻撃して「自己免疫疾患」を引き起こしてしまいます。体内に存在する正常な物質を誤認してしまったり、代表的なものが花粉症です。免疫が異常に強い(正しい表現ではありませんがニュアンスで)とアレルギーをはじめ様々な疾患を引き起こしますし逆に弱ければウイルスや感染症に負けてしまうのです。免疫「力」という言葉のせいで、強ければ強い方がいいと勘違いしがちですが、過ぎたるは及ばざるが如しです。