鼻を冷やすと風邪を引きやすい?「データあります」と医師が語ると信じちゃうかも。

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医師が「エビデンスがあります」とか「データがあります」とテレビで述べると、視聴者はその話を信頼してしまうと思います。

「鼻を冷やすと風邪を引きやすい」とテレビで見かける医師が「データがあります」との言葉を付け加えて発言していました。しかし、データであれエビデンスであれ、それらには怪しげな信頼度のものから、医学的常識となっている信頼度が高いものまでありますので、一般の方はくれぐれも医師の「エビデンスがあります」を疑いもせず信じ込んでしまうことはリスキーだと判断します。

テレビに出る医師も軽々しく研究レベルの論文を持ち出して、「エビデンスがあります」「データがあります」はご遠慮願いたいところです。

風邪予防には鼻を温めなさい、鼻が冷えるとウイルスが増えるから??

ウイルスは一定温度以上だと増殖しないことを利用して、鼻の温度を37度にするとウイルス感染しにくい、解説している医師がいるようです。

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https://www.catari.jp/article/detail/?id=6746

ヘンテコなご意見を「データがあります」と医師が言ってしまうと、一般人はかなりの確度でその医療情報が正しいものだと判断してしまいます。

しかし、データと言っても私が探した限り、知っている限りでは

鼻の温度とウイルスの関係を調べたのはマウスの実験なんですけど

この医師があくまでマウスの実験結果なのですが、と伝えていたとしても、メディアは突飛な面白そうな話題にクローズアップしてしまいます。

私がたまたま見つけたトンデモと思われる「風邪予防には鼻を温めろ説」に関して、時期が時期である為、大きく誤解をされる方が出る可能性があるので、検証してみますね。

鼻だけ温めてもウイルス感染に効果は無いと判断します

「名医のTHE太鼓判!」で前掲のような内容の話が放送されたようです。

この番組中での医師の発言と思われる、以下ような説明があります。

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https://topics.tbs.co.jp/article/detail/?id=6746
  • 風邪の原因ウイルスの約30%を占めるのは、「ライノウイルス」。
  • このウイルスは33℃以下で増殖し、37℃以上では増殖しないというデータがある。

以上の2点に関して、確かに風邪の原因ウイルスと鼻の温度の関係を研究した医学論文は存在します。たまたまこの話の元となったと思われる論文を私は読んだことがあります(なんで専門外なのに読んでいたのかは後述)。

「Temperature-dependent innate defense against the common cold virus limits viral replication at warm temperature in mouse airway cells」(PMID: 25561542) は風邪の原因ウイルスであるライノウイルスは33度付近で増殖することが以前から知られていたことに対して、マウスを使った実験で温度とウイルスの増殖の関連性を調べています。

実験方法はマウスの気道の粘膜を使用しています。

その結果、その結果、37度付近になると免疫機能の一部を担うインターフェロンなどの分泌が増強されたことを報告しています。

この実験はマウス、それもマウスの細胞を使った試験管レベルの研究であり、ヒトが鼻の温度を37度に上げても風邪を防ぐことになる、とのことは実証していません。

確かにデータはあったとしても、繰り返すけど、それはマウスのことであり、さらにそれはマウスの細胞を使った試験管レベルの実験なんですよ。

万が一、マウスの実験がヒトにも同じ影響があったとしても、ウイルスを防ぐ効果を実証したことにはなりません。

ヒトの鼻の表面の温度を37度にしても、鼻の中の粘膜の温度が37度になっていることを証明しないとダメです。

さらにウイルスは口から喉や気管にも入り込みます。

そのためか、マフラーを使用しましょう、と前掲のCatariという人気番組をまとめ読みできるサイトには書かれています(このまとめサイト自体消滅してしまい現在は読めません)。

鼻を冷やさないためには、マスクやマフラーなどで鼻を覆うことが有効。鼻の表面温度を高く維持することができます。

でも喉や気管支では無く、鼻の表面温度に関して温めることを勧めていますねえ。

ただでさえ武漢発の新型コロナ騒ぎでマスクの品切れ状態が続いているのに、根拠の薄い鼻を温める話が拡散したら、さらにマスク不足は深刻化してしまいます。

実際に医療機関でさえ、マスク不足が深刻になりつつあります。

体温を上げて免疫力アップ、これさえも確実な根拠はありません

「体温を上げて免疫力アップ」、これは多くの人が信じ込んでしまっている根拠のないトンデモ医学であることを私は以前から主張してきました。

製薬会社HPの「体温を上げて免疫力アップ」???なので電凸しましたレポート❗

製薬会社HPの「体温を上げて免疫力アップ」???なので電凸しましたレポート❗

この話は科学的医学的な根拠を明確にした論文は無いと、当該製薬会社の担当者が認めました。

しかし、今まで体温を上げて免疫力をアップする説を裏付ける信頼度の高い論文は見受けられなくても、今後それを裏付ける信頼度の高い論文が出てこないとも限りません。

私は免疫と体温に関する医学論文には出来るだけ目を通すように心がけていた為に、専門外であっても、鼻を温めるとウイルス感染がしにくくなる可能性について述べられた論文をEvernoteに記録してありました。

専門外でも医学の基本を学んでいれば、鼻をあたためるてもウイルス感染予防効果がヒトに対して、証明されていないことくらいは判断できます。

健康関連情報は隣のおばちゃんより、医師の発言の方が信頼度が高くなる、と判断されてしまいます

医師が「データがあります」と発言すると、それは「エビデンスがあります」と受け止められることが多いはずです。

エビデンスに関してもレベルがあり、信頼度の高いエビデンスと信頼度の高いエビデンスの存在を一般の方は知っておくべきです。

隣のおばちゃんが「鼻を温めると風邪ってひかないのよねぇ〜」というよりは、医師が「鼻を温めると風邪予防になりますよ」と伝えた方が信頼度が増します。

さらにエビデンスでは無くても実験結果を引っ張り出して、「それってデータがありますから」だと信頼度が増してしまいます。

臨床的にエビデンスが存在するための道のりは長く、さらにエビデンスの質を高めるには多数の研究者の厳しい検証をクリアしなければならないのです。

インフルエンザ予防には鼻を冷やさないこと??

前掲のの医師はインフルエンザの薬としてゾフルーザを一押しで推奨していた記憶があります。このゾフルーザは発売当初より薬剤耐性のインフルエンザウイルスを生み出してしまう危険性を感染症の専門家たちは危惧していました。

臨床実験でゾフルーザが示した効果はタミフルと同等。〝まともな医者〟ならあえて使わないはずです

https://friday.kodansha.co.jp/article/79041

ゾフルーザに関しては感染症のプロ中のプロである岩田健太郎教授はこのように述べています。

また中村ゆきつぐ医師は

本日テレビ朝日のモーニングショーで毎年恒例のインフルエンザ特集が行われていました。池袋●●クリニックの●●先生が解説を行っていました。●●先生は呼吸器内科が専門ですので解説も何も問題はないのですが(感染症は専門ではないみたい)、90%のインフルエンザ患者に処方しているとは少し驚きです。

https://blogos.com/article/349801/

とBLOGOSで述べています(●●は個人名が書かれているので、私の判断で伏せました)。

そう言えば、当院を受診した高齢者が昨シーズンに「今年のインフルエンザの予防接種は二回打たないといけないのよね」と仰ったのも、確か「鼻を温めると風邪を引かない」説の医師がどっかの番組でワクチンのブースター効果について語られたのが原因だったような記憶が無いでも無いです(最近、歳のせいかめっきり記憶力が衰えちゃたんで、記憶違いであったら謝罪します)。

この時期は特にウイルス関連の不確かな情報が拡散するのはマズイです

中国発の新型コロナによる肺炎に関して、日本中がピリピリしています。新型コロナ感染症ウイルスは風邪の原因ウイルスでもあります。

このような時期にバラエティ番組であろうと、一般的な風邪に対する予防方法であろうと、データがあったとしても、質の高い科学的な根拠のない話を取り上げることは問題ではないかと感じてしまいます。

テレビ番組の内容は放送後であっても、二次利用、三次利用され、さらにネット上で拡散する点も注意が必要です。

ちなみに「風邪を予防するなら『鼻』は冷やすべからず。」情報は2020年2月1日の時点でかなり多数のウェブサイトが取り上げています。

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善意からであっても、素人さんは突飛な一見風変わりな間違った医学情報を拡散しがちです。

医師は今のような時期に根拠ない、あるいはコモンセンスを得ていない医学情報に関しては、なるべく発言を控えるべきなのではないでしょうか?

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著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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