インフルエンザの予防接種は是非受けて欲しいのが医師としての本音です。
ですがインフルエンザワクチンに対してアレルギーを起こしたことのある人、アレルギーを起こす可能性のある方が無理をしてインフルエンザの予防接種は当然ですが推奨できません。
ただ、闇雲に真偽の定かでない噂話や怪情報を根拠に、インフルエンザワクチンは悪と決めつける一部の人達、そそて彼らの主張に傾きかけている人に読んでいただきたいです。
本記事の内容
インフルエンザワクチン無効派陣営の教科書「前橋レポート」
「前橋レポート」と呼ばれる報告書が提出されました。インフルエンザワクチンの集団予防接種に疑問をもった前橋市の医師会が中心となって行なった調査です。きっかけは1979年に学校でインフルエンザの予防接種を受けた児童がけいれんを起こし、国に対して予防接種が原因であると訴えたのですが、却下されたことに対して前橋市の医師会が集団予防接種事業を1980年に中止したのです。一方で集団予防接種を続けていた医師会もありましたので、この両者のインフルエンザ罹患率や予防接種の効果を判定するために「前橋レポート」が作成されました。
このレポートの結果を前提に「インフルエンザワクチン無効」「インフルエンザワクチン不要」「インフルエンザワクチン有害説」「医師の金儲け説」などが吹き出したのだと私は解釈しています。ちなみにインフルエンザワクチンの予防接種を行なっても医療機関はあまり儲からない事は以前ブログ「予防接種のワクチンをビジネスとして捉えてみました 果たして儲かるか?」で私なりの意見を述べて袋だたきにあいました(涙)。
この本はワクチン無効と有害の両方を主張されていますが、医師でありながら有効率が理解できていないようで⋯詳しくは「わかりやすく解説します、インフルエンザ予防接種の効果の有効率⋯かなり誤解されています」を参照ください。
アンチインフルエンザワクチン派はワクチン無効派、ワクチン有害派に分かれますが今回はワクチン無効派に対しての説得というか、反論を試みます。
ワクチン有害派は副作用で苦しんでいる方もいますので、そのような方に対して反論する気持ちは全く持っていません。しかし、ワクチン有害派の中には「陰謀論」にとらわれている方も多く見受けますので、そのような方への反論は宗教論争的に泥沼化する可能性が大なので機会がありましたら、今後なにかのきっかけがあったら反論を試みる予定です。
「今そこにある危機」としての季節性インフルエンザに対して有効な対抗策である「ワクチン接種」を間違った情報によって忌避する方を少しでも減らそうということが今回のブログの主旨です。
さらに追記です。 2015年8月30日の毎日新聞に「インフルワクチン:乳児・中学生に予防効果なし 慶応大など、4727人調査」という記事が掲載されました。慶応大学の研究チームの元の論文にはそのような表現は書かれていません。詳しくは こちらをどうぞ。
あえてこのようなひねくれた解釈をしたか、あるいは半インフルエンザ一派の影響を受けていたか、あるいは読み込み能力が足りなかったか?どちらにしても元の論文を読んでいないっぽいムードが漂います。
間違いだらけの前橋レポートの解釈をしているワクチン反対派
前橋レポートを全文読んで、深く理解した人はこのレポートがしっかりとした統計学的な処理がなされていない事にすぐ気がつきます。方法はインフルエンザの予防接種をした自治体としなかった自治体の小学生に対して1984年と1985年の罹患率等を比較したものです。
罹患率は
・予防接種をしなかった前橋市は42.8%、安中市は45.6%
・予防接種をした高崎市は40.1%、桐生市は43.0%、伊勢崎市は51.3%
との結果になっています。
これを見ると予防接種した方がインフルエンザに罹ってるじゃん、という判断ができそうですが大間違いです。この数字は予防接種をした人としなかった人には別けていないのです。つまり予防接種済みと未接種の人をあわせた中でどれだけのパーセンテージでインフルエンザに罹患したかを比較したものですので、予防接種の有効性は当然判定することはできません。
さらに、インフルエンザワクチンが副作用をもたらすという風説が立った為に、集団予防接種を行なっている桐生市と伊勢崎市でも二回接種率は
・桐生市の接種率⋯59.0%
・伊勢崎市の接種率⋯59.0%
と低迷しており、逆に考えると40%台の人が予防接種を行なっていなかったということが言えます。
追記:この当時はインフルエンザ感染を今のように確定診断することは、一般の医院では不可能でした。当時は迅速キットは存在していません。
正確に予防接種の効果を判定するためには
高崎市のデータをご覧ください。80.5%の人が二回予防接種を受けていて、インフルエンザになった児童は38.3%と未接種の市と比較して低い罹患率となっている事がはっきり判ります。この傾向は翌年の1985年のデータではよりはっきりしてきます。
前橋レポートの中身(接種の有無による罹患率の差 http://influenzareal.blogspot.com/2011/10/blog-post.html)よりお借りしました
インフルエンザワクチンを接種しなかった前橋市・安中市は罹患率が22から27%になっています。予防接種をした高崎市や桐生市・伊勢崎市も21から29%もインフルエンザになってんじゃん、と思われますがデータの読み方がいけないのです。二回予防接種をしている人の罹患率は18から23.1%と低い数字になっています。予防接種無効を唱える人は高崎市の接種率にご注目ください。80.5%の接種率から導きだされる結果として、インフルエンザになった人は18.6%であり、調査した5つの市の中で最低である事は明確ではないでしょうか?
高崎市では予防接種を受けた人と受けなかった人を合わせた全員を対象と考えても罹患率は21.0%であり最低になっていることから、一部の人が予防接種を受ける事によって全体の罹患率を引き下げる効果があると判断できます。
インフルエンザワクチン打たない派から当然出てくる反論への反論
高々50%しか予防接種を受けていない市と予防接種を行なっていない市を比較する事自体がデータとして成り立たないのでは?という疑問・反論がでてくるのは当然です。これは実は逆の意味を導いているのです。予防接種率が低いと全体の罹患率を引き下げる効果が弱まる、と解釈するのが疫学調査の答えです。高崎市のデータを単純に考えてください。
多くの子供が予防接種を受けました⋯その結果、予防接種を受けなかった子供もインフルエンザに感染する確率が下がりました
という単純なことなのです。この前橋レポートの比較の仕方が混乱を招いているのですが、その点を説明しますね。
他の市と比較しないで自分が高崎市に住んでいると仮定してください。
・予防接種をしたグループ
1984年にインフルエンザに罹患した人は38.3%
1985年にインフルエンザに罹患した人は18.6%
・予防接種しないグループ
1984年にインフルエンザに罹患した人は53.9%
1985年にインフルエンザに罹患した人は30.9%
どうですか、これではっきり予防接種の効果が明らかになったのではないですか?
インフルエンザの予防接種の結果です
- 集団予防接種は80%以上の人が受けると有効である
- 個人個人で考えた場合、予防接種は有効である
- 予防接種を行なうことは、行なわなかった人がインフルエンザに感染するリスクも下げる
子供ほどインフルエンザに罹り易く、高齢になればなるほど死亡率が高くなります
ここまで論じても、もちろん反対は方の猛烈な反論が出てくることは十分に予想しています。でも考えてみてください、あなたがインフルエンザになった場合、電車で隣に座っている方が妊婦さんだったら⋯。万が一、あなたが感染源となって妊婦さんにインフルエンザが感染したら、妊婦さんは抗インフルエンザ薬は勿論のこと、解熱剤さえ服用できないのです。妊娠中は免疫力が落ちますので、インフルエンザに感染した場合は重篤化する傾向がありますし、これから生まれてくる赤ちゃんも障害がでることが報告されています。「妊娠中にインフルエンザになると、子供が双極性障害になるリスクが上昇⋯なんと約4倍!」といった障害があなたが原因だったらどうするんでしょうか?
インフルエンザの流行時期に予防接種をすることは、社会生活を送る上でのマナーと考えていただきたいです。
今年もインフルエンザ予防接種の時期になってきました。インフルエンザワクチンに対してアレルギーを起こしたことのある人、アレルギーを起こす可能性のある方が無理をしてインフルエンザの予防接種をすることを強要する主旨ではありません。予防可能であるものを非科学的な解釈で否定することをすすめるグループの存在がどれだけ人を不安に陥れているのか?ということを知っていただきたいのです(2014年10月22日追記)