今年も大流行!ノロウイルスの診断は健康保険の対象外だった事に流行の原因があるかもしれない!

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また今年もノロウイルスが大流行の兆しって報道されていますが、私が開業して16年経過しますがここ10年くらい毎年「大流行❗」って感じがします。

なんでノロウイルスは大流行の兆しがあっても予防できないんだ

そもそもノロウイルスで出現する症状をざっくりまとめて「感染性胃腸炎」と診断していますが、その中で「ノロウイルス」が原因で引き起こされるものが大問題になるのです。その感染力の強さと一般的な消毒方法が通用しないことが大流行の大きな原因であるようです。一方、ネット上でノロウイルスの診断に要する検査料はまだ保険適用されていないので高額な費用がかかるというような間違った情報が流れていますからご注意ください。

追記 2015年1月8日 ノロウイルスを確定診断するための「ノロウイルス抗原検査」は平成24年4月1日に保険収載されました。つまり、健康保険の適応になったということです。保険点数は実施料が150点、判断料が144点となっています。1点10円ですから検査の総額は2940円、これに初診料等が加算された合計金額の3割(一般の方)が窓口負担といって、患者さんが実際に医療機関で支払う金額になります。保険適応範囲は3歳未満、65歳以上等の制限があります。

注意 ノロウイルスに感染した場合の対処法は『本年も集団感染が発生!ノロウイルスによる感染性胃腸炎になったら、治療は脱水対策を!』をご覧ください。

ノロウイルス、流行の兆し 手洗い徹底で予防呼びかけ:朝日新聞デジタル

http://www.asahi.com/articles/TKY201311260454.html

ノロウイルスの不思議

ウイルスを研究する場合は培養といってウイルス自体を増やして研究の為の材料とします。通常のばい菌(細菌)は培地という状況下で数を増やす事ができ、簡単に実験に使用する事ができますが、ウイルスはばい菌と違って他の生き物の細胞に入り込んで増殖しますので、数を増やすためには「動物細胞培養」と呼ばれる方法を使います。

この憎たらしい「ノロウイルス」はこの研究の為にウイルスを増殖させる方法が確立されていないのです。つまり、実験によって効果的な治療法やワクチンの製造が非常に難しい状況に置かれた「困ったちゃんウイルス」なんです。ノロウイルスは不思議な事に食品中では増殖しません。人の腸のみが増殖可能な場所なのです、ということは感染経路は糞便や嘔吐物を介して人から人に感染を広げていきます。

別の考え方をすれば適切に治療(対処治療になってしまいますが)をして適切に感染防止対策を行なえば集団感染のリスクを低減させることが可能でもあります。そのためには確実な診断、つまりノロウイルスに感染しているという事を証明する必要があります。

以前はPCRと呼ばれる検査方法でのみ診断ができましたが、結果が出るためには数日間必要であった為「診断がついた時は患者さんは症状が回復していた」という事になってしまい、集団感染でも起こらない限り医療機関も積極的にウイルスを同定する検査はしない傾向がありました。

厄介な点は感染力の強さです。症状が無くなっても、糞便からは一週間程度ウイルスが検出されてしまいますし、さらに10個程度のウイルスでさえ症状を引き起こす原因になると言われています。

Norovirus_-_Google_検索

Laboratory reports of norovirus infections in England and Wales 2000-2012. Source: HPA, NB NB Testing methods changed in 2007

なぜか英国でも年々感染が拡大しています。

気になるノロウイルスの感染源

 ノロウイルスは今が旬であるカキなどの二枚貝による食中毒の原因となるのですが、世間一般に広がるのは人間の糞便と嘔吐物です。これらによって汚染された衣服は洗濯機で洗っても、雑巾などで拭き取っても消え去りません。アルコール消毒も効果が期待できません。これらに汚染された衣服は塩素系の漂白剤を使用して洗濯し、汚染物を処理した後は十分な手洗いをしなくてはなりません。できれば汚染物は捨てる事をお勧めしますが、捨てる場合も必ずビニール袋に密封してから処理をしてください。

お洗濯記号(お洗濯マーク)について 【B-shop】

http://www.b-shop.cc/size/washing_sign.html

ノロウイルスのワクチンってあるの?

世界各国の製薬会社がしのぎを削って開発していますが、残念ながら完成品はまだ登場していません。日本では最大の製薬会社が懸命に開発に取り組んでいますが、以前もお伝えしたようにワクチンを開発するには膨大な費用と時間が必要となるために製薬会社として資金的に余裕のあるところでさえ社運をかけて開発するというリスクも伴っています。「New England Journal of Medicine」(2011; 365: 2178-2187)という医学専門誌によると一部のノロウイルスに効果的なワクチンの臨床試験が掲載されていますが、まだ実用化されていません。つまり、残念ながらノロウイルスの予防接種ワクチンは無いのです。

Norovirus_Vaccine_against_Experimental_Human_Norwalk_Virus_Illness_—_NEJM

「New England Journal of Medicine」(2011; 365: 2178-2187)

ノロかどうかの診断ってどうするの?

ノロウイルスの診断はインフルエンザと同様に簡易診断キットを使用して医療機関でその場で判断できるようになってきました。もちろん保険診療の適用があります(高齢者と幼児、または免疫系に問題のある方)ので「吐き気」「下痢」「発熱」の症状があったら即刻医療機関を受診して診断を受ける必要があります。万が一身の回りにお年寄りや小さいお子さんがいると感染が拡大しやすいだけでなく重症化、残念な場合は死亡にまで至る病気であるということを皆さんが知っておかないといけません。しかし、この簡易的にその場で診断できるノロウイルス用の診断キットが保険適用されたのは2012年4月であり、一部のネット上の情報では「保険適用外」とされているのです。保険適用が遅れた事も問題ですが、事前に「診断に数万円かかる」なんて情報を得てしまうと医療機関の受診を控えてしまう方が出てしまっている可能性があります。限られた条件の患者さんに対しては保険適用ですので、検査をして診断を受け、薬を処方されても状況によって金額は違ってきますが数千円で済みますので、ネット上の間違った情報に惑わされないでください。単に職場から診断を受けてこい!というような場合は保険診療外ですが、自費でも数千円で検査のみなら可能です。

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実際の感染予防と治療法については次回お伝えします。とにかく「下痢」「発熱」「嘔吐」の症状が出たら速やかに医療機関にご相談ください。特に小児科やお年寄りの多い医療機関では他の患者さんへ感染を拡大させてしまう可能性がありますので、受け入れ側も体制を整えないといけない場合があります。ご面倒かもしれませんが、お年寄りや子供を重篤な場合は死に至らしめる感染症から守るためのですのでご協力ください。

ノロウイルスに感染した場合の対処法は『本年も集団感染が発生!ノロウイルスによる感染性胃腸炎になったら、治療は脱水対策を!』をご覧ください。

追記:ノロウイルスの検査が保険適応されるのは高齢者と幼児に限定されています。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

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