ビタミンCは身体に良いイメージが浸透しています。健康に良いビタミンCを大量に服用するれば、がんまで治療できると考えた人がいました。大量に服用するよりはビタミンCを点滴すれば、がん治療にさらに効果的であると考えてしまった人が出てきています。大量のビタミンCを点滴することによって、がん治療が可能であることを検証した信頼できる医学論文は存在しません。
がん治療の王道は標準治療であり、高濃度ビタミンC点滴で治療を試みることは、時間とお金の無駄であり、治るものさえ治らなくなり手遅れになる危険性があります。
本記事の内容
がん治療に高濃度ビタミンC点滴療法に効果が無い、との論文は多数
昔々、ビタミンCは体に良い、ひょっとしてがん治療にも役立つのでは無いか?と考えた人がいます。考えた人がノーベル賞を受賞した人だったから話は厄介になります。がん治療にビタミンCを使う場合、濃度を上げたらさらに効果が出るのでは無いか?と考えた人が高濃度ビタミンC点滴療法を編み出しました(超高濃度ビタミンC点滴なるものさえ登場しています)。
悲しいことに、がん治療に効果が期待できない高濃度ビタミンC点滴療法を多くの医師が派手に行いだしているのが、今の日本の現状です。
効果が期待できない高濃度ビタミンCによるがん治療を行っているクリニックの多くは、「高濃度ビタミン点滴療法のがん治療効果は論文で明らかになっています」と主張しています。
つまり高濃度ビタミンC点滴療法のがん治療に対するエビデンスがあるよ、って言いたいようです。
高濃度ビタミンC点滴療法はがん治療に効果があるとのエビデンスと思われる提示されいる医学論文のいくつかを検証して、高濃度のビタミンCを点滴しても、がん治療には全く効果が無く、時間とお金の無駄であることをお伝えします。
海外でもビタミンCの効果・効能になんらかの期待をしている情報は多いですが、このウェブサイトには「がんが治る」と堂々とは書かれていません。
腎がんに高濃度ビタミンCを点滴したら有効であった、これは大きな誤認
高濃度ビタミンC点滴療法は驚くほど多くのクリニックが採用しています。あるクリニックでは新しい文献として腎がん患者さんに高濃度ビタミンC点滴を行ったところ効果が認められて、論文に医学論文になっていると書かれていました。
この「Intravenously administered vitamin C as cancer therapy: three cases.」(PMID: 16567755)も高濃度ビタミンC点滴療法が腎がん治療に効果があったとして使われることがあります。
腎がんが肺に転移した症例で、高濃度ビタミンC点滴療法を行ったら、肺の転移が寛解したとされています。
しかし、この症例は事前に腎がんの摘出手術を行っており、さらに肺転移に対して標準治療も受けています。腎がんの場合、遠隔転移があっても積極的に手術を行って原発巣である腎臓を摘出します。
その理由の1つとして腎がんの遠隔転移は自然に消え去ることが知られているからです。
例えば「Unexplained spontaneous regression and alpha-interferon as treatment for metastatic renal」(PMID: 2702395)では、腎がんの遠隔転移が自然に消え去ることを研究するために、73症例を追跡調査しています。この研究によって3症例に腎がんの遠隔転移が消えたことが確認され、2症例に遠隔転移が縮小したことがわかっています。
腎がんの場合、事前に標準治療を受けていれば高濃度ビタミンC点滴療法など受けなくても、遠隔転移が消失することは広く専門家によって認められています。
つまり、高濃度ビタミンC点滴療法を受けることは時間とお金の無駄です。
高濃度ビタミンC点滴療法が卵巣がんへの治療効果を証明した、これも大間違い
卵巣がんに高濃度ビタミンC点滴療法が効果があったことの証明として、いくつかのクリニックのウェブサイトで「カンザス大学」でと書かれています。
元となった論文を明記していないことが多いのですが、多分この研究のことを示し、「卵巣がんに効果あり」と伝えているのだと思います。
卵巣がんに対する高濃度ビタミンC点滴療法に関してカンザス大学で行われている臨床研究は「Antioxidant Effects on the Outcome of Ovarian Cancer」(https://app.dimensions.ai/details/clinical_trial/NCT00228319)のことです。
しかし、この研究は標準治療だけのグループと標準治療に高濃度ビタミンC点滴を加えたグループの2つに分けたものであり、高濃度ビタミンC点滴療法だけで卵巣がんの治療を試みたものではありません。
なぜ、高濃度ビタミンC療法だけのグループを設定しなかったのか、その理由は明らか、だって真っ当な医学関係者から見たら非人道的だもん。
高濃度ビタミンC点滴療法は標準治療の効果を弱める可能性がある
標準治療に加えて高濃度ビタミンC点滴療法を行うことは、「ビタミンCは副作用がないから」と伝えてがん患者さんを誘い込むような文言が書かれているクリニックのウェブサイトも見かけます。
ビタミンCは水溶性なので、摂取し過ぎても副作用が無く、ひょっとして今行っているがん治療にトッピングしたらさらに効果があるのでは、と考えてしまう人も多いかと思われます。
ビタミンCががんに対する標準治療の1つである化学療法(抗がん剤)の邪魔をする可能性も指摘されています。
「Vitamin C antagonizes the cytotoxic effects of antineoplastic drugs」(PMID: 18829561)ではがん治療に際して、ビタミンCを必要以上に摂取すると治療の妨げになる可能性を告げています。
実験で効果があったから、人に効果があるはず、と考えるのは危険です
今まで複数回、高濃度ビタミンC点滴療法によるがん治療の危うさをブログで書いてきました。
動物実験で効果があったからビタミンCを点滴することは、ひょっとしてヒトにも良い効果があるのではないか?と考える研究者が出てくることを私はある意味では好意的に受け止めています。
決定的な100パーセント治すことが保証されたがん治療方法が無い現状としては、ちょっとでも可能性がある治療方法を検証していくことは大切にされなければなりません。
多くの高濃度ビタミンC点滴療法が世界中で試みられているのも、臨床研究の前に動物を使った実験で効果がありそうな結果が出ているからです。
例えば「Pharmacologic doses of ascorbate act as a prooxidant and decrease growth of aggressive tumor xenografts in mice.」(PMID: 18678913)ではビタミンCが正常細胞にダメージを与えないで、がん細胞を縮小させる効果結果が得られています。
しかし、このもっともらしい研究はあくまで動物を使った試験管レベル(in vitroの実験) であり、卵巣がん・膵臓がん・膠芽腫に限った話であり、日本人に多い肺がん・胃がん・大腸がんなどの他のがん種に関しては検証されていません。
がん治療の標準治療の1つである化学療法を「化学物質を体内に入れるのは嫌」と感覚的に判断する自然派と呼ばれる人がいます。
高濃度ビタミンC点滴療法は客観的なエビデンスの無い治療方法であり、この治療方法を大々的に宣伝して、がんと診断された患者さんを惑わすだけでは無く、標準治療を受ける機会を損失させるだけではなく、治る可能性の高いがん治療を妨げる、非論理的な行為であるとも考えられます。
もしも、高濃度ビタミンC療法が本当にがん治療に明確な効果があるのであれば、世界中でがんの標準治療として採用されているはずです。
こんなヘンテコな治療方法を推奨している医療関係者はこの素朴な問いかけにどのような回答をするのでしょうか?安価で効果的な治療方法は巨大製薬メーカーの利益を減少させるので、国家権力と癒着しているとでも説明するのかな?
注意:ビタミンCによるがん治療への効果に対する研究を行うことは重要であり、研究を続けることが無駄、なんて考えは一切ありません。医学的な根拠が明確になっていない治療方法を現時点で選択する合理的な説明が無い、というのが私の考え方です。