ゲームをやりすぎると「ゲーム脳」になってしまう、との今ではトンデモ説と大方判断されているニセ医学が、ちょっと昔に日本中で話題になりました。時間制限をすることによってゲーム脳やゲーム依存症やネット依存症を防ぐことが可能であるとの科学的な根拠・医学的な根拠があるのか、甚だ疑問なんです。
本記事の内容
香川県「スマホ1日1時間」ゲーム依存対策条例ってなんだ???
ゲームをやりすぎると「ゲーム脳」になってしまう、との今ではトンデモ説と大方判断されているニセ医学が、ちょっと昔に日本中で話題になりました。
ゲーム脳が話題になった時代は今ほどスマホが普及していない時代でしたが、小学生でもスマホを持つ時代になったら「スマホによるゲーム依存症」が一部で問題化されるようになったら、今度はこんな強烈な話が飛び出してきました。
この記事によると
香川県議会が、全国に先駆けて検討しているゲームやインターネットの依存症の対策に関する条例の素案に、高校生以下の子どもを対象にゲームなどを利用する時間を1日あたり平日は60分、休日は90分に制限する
とのこと。
私は子供に対するスマホ使用制限を県議さんたちが真面目に話し合っている姿を思い浮かべて、「マジかよ❗」と思いつつ苦笑というか冷笑してしまいました。
ゲーム依存とかスマホ依存の定義はどうなっているのか、ゲームやネットの依存症の問題はどのような悪影響を子供たちに与え、時間制限をすることによってゲーム脳やゲーム依存症やネット依存症を防ぐことが可能であるとの科学的な根拠・医学的な根拠があるのか、甚だ疑問なんです。
ゲーム脳がトンデモ系のニセ医学である根拠
今回スマホ使用時間制限令の対象となる人たちが生まれたか、生まれる前の2002年に「ゲーム脳の恐怖」という本が出版されました。
この本、持っていたはずなんだけど、なぜか書棚から見つけられなかった。
ゲーム脳の医学的風な説明はこんな感じでした。
子供の脳は発達段階にある → 毎日長時間ゲームをしていると大脳の前頭前野の機能が低下する → ゲームをすると思考能力が減弱し、感情をコントロール出来なくなる → キレやすい子供になってしまう
こんな流れの話だったと思います。
さらに医学的な検証として、ゲームの最中はβ波という脳波が下がり、β波が下がりっぱなしだと最終的にゲーム脳になってしまう、とのもっともらしい話も書かれていたと記憶しています。
一方で昭和大学医学部精神科の岩波明医師は、「ゲーム脳という考え方自体を批判する価値もないほど無意味で根拠のないもの」と強烈に批判しました。
その後、脳波の専門家がゲーム脳を唱えた研究者が使用していた脳波測定機器の欠点等が指摘されて、さらに脳ははδ波(デルタ)やθ波(シータ)は測定していないという研究内容の雑さも指摘されたことによって、「ゲーム脳」ブームは鎮火したのです。
要するに「ゲーム脳」という概念は欠陥だらけの医学研究が明らかになって、めでたくトンデモ認定となったわけです。
スマホ依存症やスマホゲーム依存症、なんだかゲーム脳に似たような背景があるのではないかとの印象があります。
スマホ依存症とゲーム依存症が子供にもたらす悪影響は何があるんだろう
スマホ依存症の概念というか定義はこのように考えられているようです。
スマートフォンは身近なものとなっておりゲームやSNSなど便利な機能がつき簡単に楽しみが得られ、興味や関心が刺激され続けた状態となり、さらなる楽しみを求めて長い時間使用したくなり、やがて自分の力ではやめられなくなってしまう依存状態に至ります。依存状態が長引くと深刻な引きこもりに至ることがあり、このためスマホ依存は速やかな治療が必要です。
東邦大学医療センター大森病院メンタルヘルスセンター「スマホ依存症について」
そのためにスマホ依存症になってしまうと、昼夜逆転して成績が下がる、スマホがないとイライラしてしまう状態になるようです。
こんな調査もあります。
スマホが無い時代だったら、本依存症とかテレビ依存症とか電話依存症は問題になっていそうだけどね的な印象を受ける調査結果です。
ゲームに多大な時間を費やしても「ゲーム脳」にはなりませんし、ネットを使用する時間が長くなりネットを簡単に使うことのできるデバイスの1つであるスマホをいじる時間が長くなっても具体的に起きうる可能性は昼夜逆転生活レベルなんじゃないのかなあ。
仕事で昼夜逆転しざえる得ない人も多数である現状を考えると、なぜ唐突に香川県の県議会で「ゲーム依存対策条例」なんてものが提案されたのか、私個人は全く理解が出来ません。
中学・高校時代は本に熱中するあまり、徹夜しまくった人も多いでしょうし、大学時代は閑に任せてテレビを深夜まで観まくった人も多いと思います。昼夜逆転が子供の成長に悪い影響はあるとは思いますが、なんでゲームだけ制限されなきゃいけないんだろう。
ネット依存症とゲーム依存症に関して、こんな書籍がありました
私は横浜の大学を卒業したので、アルコール依存症の専門治療施設である久里浜医療センターの難しい疾患に対する貢献度は高く評価されていたことは存じ上げていました。久里浜医療センターには「インターネット依存症治療部門」が併設されていて、以前からネットにまつわる弊害であるネット依存の治療にあたっています。
この「インターネット依存症治療部門」ではインターネット依存をインターネット嗜癖とも呼んでいるようです。
そこの「インターネット嗜癖はどのように治療するのでしょうか?」とのQ&Aには
インターネット嗜癖そのものには確立された治療法はありません。また、重症の嗜癖の場合には、背景に躁鬱病や発達障害といった精神疾患がある場合や、実生活において人間関係上や経済上深刻な問題を抱えており、そこからの逃避の場合もあります。
と記載されています。その続きがかなり疑問です。ヤングという人の著作によるインターネット依存からの回復方法が述べられているのですが、その著作って1998年に発行されたものなんです。
iPhoneが登場したのが2007年、YouTubeが登場したのが2005年、携帯電話ゲームは1999年に登場しています。ネットゲームの無かった時代に書かれた著作をもとに治療指針を決めちゃって大丈夫なんでしょうか?
こんな本も出されているようです。
香川県はスマホによるゲーム利用時間を制限して、どのような効果を期待しているのでしょうか?
定義もはっきりしない、病気であるのか嗜好であるのかも明確ではない「ゲームやスマホ依存」対策として利用時間制限条例を検討中の香川県は何を目的としているのでしょうか?
例えばワシントンポストには「ビデオゲームは脳に良い」との記事があります。
2019年9月に発表されたこんな医学論文があります。「Effects of computer gaming on cognition, brain structure, and function: a critical reflection on existing literature .」(PMID: 31749656 )、日本語に訳すと「脳の構造と機能に対するコンピュータゲームの影響。既存の文献に対する批判的な考察」。この論文はビデオゲームは脳の認知機能に有益な効果をもたらすとの結論を伝えています。さらに社会性や幸福度等に関してはさらなる研究が必要である、とも述べられています。
香川県は何を根拠として、18才以下の子供たちにスマホゲーム利用時間制限を条例で決めることによって、どのような効果が期待できるのか、その効果は数字的というか科学的・医学的に検証の耐えうるものであるのかを明確にして公表するべきです。
まあ、家に帰ってきたら子供たちが「お帰り〜」と言いつつ、視線はスマホという姿は親父としてはカチンとはきますけどね苦笑。
追記:アップした後にこの論文について書くのを忘れていたことに気がつきました。 「Internet Gaming Disorder: Investigating the Clinical Relevance of a New Phenomenon.」(PMID: 27809571 )によれば、ネットゲームが身体的・社会的・精神的になんらかの悪い影響があることの因果関係は明確にはなっていません。またネットゲームへの依存はギャンブル依存と比べれば中毒性はかなり低いとの結論を出しています。
XX(@iyzra6189473052)さん、ご指摘ありがとうございます。