抗酸化作用を期待してビタミンEサプリメントを積極的に服用することを喧伝している医師や代替医療家がいます。最近、権威ある医学専門誌にビタミンEサプリメントを服用していると肺がんの転移リスクが高まるとの論文が掲載されました。つまり身体に良いと思って服用していたビタミンEが肺がんによる死亡リスクを高めてしまうのです。標準医療を拒んで代替医療を選択してビタミン類を摂取、あるいは標準医療を受けながら周囲にすすめられたビタミンEを服用することはがん治療の邪魔をするだけではなく悲劇的な結果になりかねません。がんと診断されたら、主治医とじっくり相談して適切な標準治療を受けるようにするべきです。
本記事の内容
抗酸化作用のあるサプリメント「ビタミンE」で肺がんのリスクが上昇
人間の体は錆びる、酸化することが老化や様々な病気の原因であり、がんもそれが原因である。だから、酸化に抵抗したり酸化を防ぐ抗酸化作用のあるサプリメントは水素水を飲みましょう❗という考え方が拡散しています。
体が酸化する、抗酸化によってなんらかの利益が人体にある可能性は否定できないため、抗酸化のある物質に関して世界中で研究が行われています。
抗酸化作用のあるサプリメントの代表としてビタミンEがあります。このビタミンEが肺がんの患者さんの死亡リスクを高める可能性が出てきています。
ビタミンEは肺がんの転移リスクを高める可能性がある
昨日、抗酸化作用のあるサプリメントが皮膚がんの一つである悪性黒色腫の転移リスクを高める、との論文があることをお伝えしました。
これに続いて、抗酸化物質であるビタミンEが肺がんの転移リスクを高める、との医学論文があることを今回はお伝えしますね。悪性黒色腫と診断される人は毎年100万人あたり約10~20人、一方の肺がんは10万人中50人~100人、100万人あたりだと500人から1000人になります。
肺がんは悪性黒色腫と比べると罹患する可能性が比較にならないほど高い病気です。
肺がんと診断される方は増加傾向にあります。診断技術の発展と高齢化がその原因と考えられます。
抗酸化作用のあるサプリメントとしてのビタミンEが肺がんの転移リスクを高めるとの結論になった論文は「CELL」という非常に権威のある学術誌に掲載されている「Nrf2 Activation Promotes Lung Cancer Metastasis by Inhibiting the Degradation of Bach1」(PMID: 31257023)と「BACH1 Stabilization by Antioxidants Stimulates Lung Cancer Metastasis」(PMID: 31257027 )の2つです。
がんが発生するのは細胞のDNAが傷つけられるからと考えられています。この細胞のDNAを傷つける仕組みは一方で体内に入り込んだばい菌類を退治する役目も果たしています。
今までは抗酸化作用が弱まるとがんが発生する、とするのが一般的な解釈でしたが抗酸化作用のあるビタミンEによって、がんが悪化する可能性も上記の権威ある医学専門誌の論文から出てきてしまったのです。
実は抗酸化作用のあるサプリメント等の物質が、ひょっとしてある種のがんの場合は転移を促進させて悪化させる可能性を示唆した論文は少なくはありませんでした。
今回のビタミンEが肺がんの転移リスクを高めるとの可能性を指摘した2本の論文は基礎研究用語でてんこ盛りなので、一般の方にとっては難解なものです。
今回の研究を図にしたものです。一般の方にはわかりにくいかもしれませんので、後日わかりやすい説明を入れますね。
今回はあの「CELL」に抗酸化物質ががん治療に際してリスキーである、との結論になった論文が掲載されたことを今後の抗酸化物質業界(サプリメントとか水素水とかケイ素水業界ね)はどのように受け止めているのか、非常に気になるところです。
ビタミンを摂取することは健康良い、がんまで治しちゃう、は大きな間違い
ビタミンって体に良いのよね~、万が一摂りすぎても体からでちゃうから安心よねえ~、て考えはこのブロブをお読みになった時点で放棄しましょう。
抗酸化作用のある物質が果たしてがん治療に効果があるのか、あるいはがんの転移を促進させてしまうのか、この問題に関しては明確な回答は医学界ではまで出ていません。しかし、信頼度の高い医学専門誌に掲載された医学研究の多くは、抗酸化作用のあるサプリメントを服用することががん予防・がん治療に役立つことを明らかにしたものは、私が調べた範囲では見つかりませんでした。
肺がんはがんの中で、部位別死亡原因として男性では1位、女性では2位です。しかし、年々治療成績は向上しています。
国立がん研究センター「サバイバー生存率(がんと診断されてからの年数別の生存率)」です。
なにを根拠にして、サプリメントはがん予防・がん治療にも効果ありとしているのか?
厚生労働省は
野菜や果物は、抗酸化物質を非常に多く含みます。野菜や果物の多い食事をとることは健康に良いということは十分に証明されており、米国政府は、これらの食品をもっと摂るように推奨しています
と抗酸化物質と健康について述べています(https://www.ejim.ncgg.go.jp/public/overseas/c02/02.html)。
しかし、この記載に続いてこのような見解も記載されています。
10万人以上を対象に、抗酸化物質が心血管系疾患やがん、および白内障などの慢性疾患の予防に効果があるのかを厳密な科学的調査がおこなわれましたが、抗酸化物質がこれらの病気発症のリスクを減らすことはほとんどありませんでした。
つまり抗酸化物質によって病気発症のリスクを減らすことは医学的には認められていません。
さらに、がんに対する抗酸化物質の効果についてはこのように述べています
高用量の抗酸化サプリメントは、場合によっては、有害である可能性があります。たとえば、ある研究結果では、高用量のベータカロチンサプリメントを喫煙者が取ると、肺がんのリスクが高まるとしていますし、高用量のビタミンEサプリメントを取ることは脳出血(脳内出血による脳卒中の一種)や前立腺癌のリスクを高めるとしています。
つまりビタミンEを始めとする抗酸化作用を期待してサプリメントを服用しても、病気の予防にもならないし、がん治療の助けにもなりません。下手すりゃ、がんのリスクさえ高める可能性もあるのです。
世の中にはヘンテコな医師もある一定の確率でまじり込んでいます。もう少し利益をあげたいなあ、と考えている開業医のところにはこんなお誘いのDMが送られてくることも珍しくありません。
分子栄養学とか分子整合医学とか呼ばれている、科学的根拠からははるかにかけ離れたニセ医学と判断して今のところ間違いありません。
今回取り上げた肺がんの転移リスクを高める抗酸化物質はビタミンEです。ビタミンEは水に溶けない性質があるので、以前から発がん性が問題になっていたビタミンAと同じ性質ですね。
このビタミンAの安全性に関する疑問を以前、2013年にブログを書いています。
そして私が現在気になって気になって、どう見てもニセ医学じゃないのとウォッチングしているのが高濃度ビタミンCの点滴療法です。
これでがん治療をしてしまうとは、常識的な科学根拠ともかけ離れていますし、当然標準治療にはかすりもしません。
肺がんのうち非小細胞肺がんの治療です。オブジーボの登場により年々成績が良くなることが期待できます。
さらに多数のビタミンを組み合わせれば、自閉症からがんに至るまで何でも治っちゃうと、ニセ医学と断定して良いものが、メガビタミン治療とかメガビタミン療法と呼ばれるものです。
ヘンテコな治療をしている方々に「根拠となる論文等を教えてくれますか?」とお尋ねすると、多くの場合は一般書籍、なかにはパンフレットレベルの自費出版本を提示される方もいます。
Newsweek誌も安易な抗酸化作用サプリメントの服用、抗酸化作用サプリメント神話に疑問を呈する記事が掲載されています。
結論:標準治療ではもの足りない、と抗酸化作用のあるビタミン剤を服用するとがん転移を促進してしまう可能性があります。余計なことはしないが吉。
標準治療ではもの足りない、と抗酸化作用のあるビタミン剤を服用するとがん転移を促進してしまう可能性があります。余計なことはしないが吉。