「イオンの接客時マスク着用禁止」騒動⋯そもそもマスクは風邪やインフルエンザに効果あるの?

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非難轟々のイオンですが医学的にはイオンを擁護できます。

そもそもマスクは風邪やインフルエンザの予防効果は医学論文上では明確になっていません。マスクは感染者が他の人に移すのを防止することに意味があります。

つまり体調が悪い(感染の症状が出ている)のなら、休みましょう、ということです。そのような休める職場環境作りが優先されるべきです。

イオンが従業員に接客時のマスク着用禁止を指示したけど、マスクでインフルエンザ感染が予防できるのか?

流通大手のイオンが従業員に対してマスクを着用しての接客を原則禁止としたことが、メディアで話題になっています。

インフルエンザが流行する時期に、「接客する時はマスク着用はしないように」とのお達しに対して、従業員とお客さんの両方から「マスクは感染予防に必要なのに」と怒りの声をメディアは大々的に報道しています。

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https://news.livedoor.com/article/detail/12481582/

イオンスタイル碑文谷店、ついつい目黒住民は「碑文谷のダイエー」って今でも言っちゃうよね(笑)。

お客さん側から「インフルエンザが怖くてイオンにいけない」「イオンは従業員を守る姿勢がない」などの厳しいご意見も出ているようですが、これらの発言は医学的には疑問符がつきます。

イオンのマスク着用禁止通達は医学的には何も問題ない正しいものである❗と私は考えています。イオンが今回、インフルエンザ大流行が騒がれているこの時期に、一般的にはインフルエンザ感染予防効果があると思われているマスク着用を禁じる通達をだしたイオン首脳陣(?)を医学的見地からかばってみますね。

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日テレNEWS24「イオン マスクで接客原則禁止に」(http://www.news24.jp/articles/2019/12/25/07568303.html)

そもそもマスクを着用すると感染症は予防できるのでしょうか?との素朴な疑問が医学的にはあります。

マスク着用はインフルエンザ感染のリスクを下げない

イオンの接客時マスク着用禁止に対する、「従業員の健康を守る姿勢が無いのか!」とのお客さん側からの意見は医学的には正しくありません。そもそもマスクを着用することによって、インフルエンザに感染することを防ぐことができることを明確にした医学論文は、少なくとも私は目にしたことがありません。

例えば「Use of surgical face masks to reduce the incidence of the common cold among health care workers in Japan: a randomized controlled trial.」(PMID:19216002) という医学論文があります。この論文は日本の医療機関のスタッフをマスクを着用するグループと着用しないグループに分けて、77日間に渡って風邪症状を発症するリスクを比較したものです。

その結果、マスク着用の有無によって風邪症状の発症日数に差は無く、風邪症状の重症度にも差はありませんでした。

つまり、一般の方と比較して感染症に対する知識があると考えられる医療機関のスタッフの風邪予防としてのマスク着用は効果がなかった、ということになります。医療機関のスタッフは感染症に対する知識があったから、風邪症状の予防としてのマスク着用に差が出なかった可能性もあります。

しかし、マスクを着用してもインフルエンザに関しては家庭内でも感染予防効果が無かったことを明らかにした医学論文も存在します。

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フランス国内でインフルエンザが流行する時期に家庭内でマスクをすることによってインフルエンザ感染が予防できるかを調べた「Surgical mask to prevent influenza transmission in households: a cluster randomized trial.」(PMID: 21103330)では、家族の誰かがインフルエンザを発症していたら、いくらマスクをしていたとしても家族にインフルエンザを移すリスクはマスク着用をしない場合と比較して差がありませんでした。

日本の医学論文はマスク着用をしても風邪を防ぐことは出来なかった。つまり、インフルエンザや風邪の流行時期にマスクをしていても予防効果は無し、と解釈できます。

フランスの医学論文はマスク着用はインフルエンザを第三者に移すことを防ぐことはできなかった、と解釈できます。

そもそもマスクはインフルエンザなどの感染症予防にどのような効果があるのか?

手術をする時には世界中どこであっても医師や看護師はマスクをします。医療関係者が使用するマスクは正確にはサージカルマスク(surgical mask)と呼ばれています。プロユースのマスクであっても、これはそもそも空気中の細菌やウイルスによる感染を予防するようには、一般で医療関係者が使用するサージカルマスクでさえ設計されていません(そこまで厳密に設計されていたら息ができなくなるからね)。

では、なぜ手術中にマスクを医療関係者はするのでしょうか?これは単純明快で、「医師や看護師の鼻水や唾が術野を汚染しないように」です(例外的に特殊な手術の場合は宇宙飛行士が着用するようなマスクや手術衣を使用します)。開腹したお腹の中に医師の鼻水が落ちたら重篤な感染症の原因になりますし、看護師の唾が術野に飛び散ったらこれも無菌状態であるはずの腹腔を汚染してしまいますから。

海外でマスクはこのように使用されています

イオンが接客中のマスク着用禁止を従業員に指示したことに対して「イオンの従業員は風邪やインフルエンザ予防のためにマスクをして欲しい」「マスク無しで店員が接客するのは、店員がウイルスを拡散するじゃないか」とのお客さんからのご意見は医学的には正しいご意見だとは言い難い、と医学論文をもとにして私はイオンの経営陣の判断を支持する立場でここまでは述べてきました。

外国の人からインフルエンザが流行する時期の日本人のマスク姿が異様に見える、との意見が見受けられます。BuzzFeedではこんな記事があります。

日本人が気づいていない「日本の変なところ」20選(https://www.buzzfeed.com/jp/kylaryan/japan-weird-things)

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日本人はみんなマスクをしている国民と思われているようです。

日本では咳が出るときはマスクを着用することがマナー。でも、海外ではマスク文化がほとんどない。マスクをする人=医師という認識があります。

マイナビニュース「マスク姿が目立つ日本を外国人はどう思うのか」(https://news.mynavi.jp/article/20170322-a203/)では、

「本当に多いです。母国では珍しい。冬の間でも、1日に1人を見るか見ないかです」 (キルギス/30代前半/女性)

とか、フランス人女性は

「必要はないと思う。フランスで顔が見えないと不安なので、絶対に普及しない行動だと思う」(フランス/30代前半/女性)

と述べています。

まあ、マスクをして海外のコンビニ等に入ると泥棒と思われちゃったりすることもあるようですが、マスク大国である日本国民である私はこんな風景に出会して驚きを隠せなかったことがあります。

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お洒落なタイ風イケメンが鼻専用のマスクをしていますね。

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上記の画像のマスクはhttps://he.aliexpress.com/で購入できます(笑)

綺麗なお姉さんが、鼻だけをカバーするマスクをしています。

タイに行ったことのある方、特に大都市であるバンコックではバイクに乗っている人の多くが鼻マスクをしている風景を見かけたことがあると思います。大渋滞による排気ガスの影響を防ぐために鼻マスクをしているのでしょうけど、臭いは防げても呼吸は口呼吸で行うはずなので、排気ガスは結局のところ肺に進入しちゃうと思うのですが⋯。

イオン、従業員は接客中はマスク着用禁止騒動の解決策

医学的見地から風邪やインフルエンザをうつさない、移す、あるいは感染拡大予防効果に限って言えばイオンの判断は正しいです。

イオンが従業員にマスク着用を禁止した理由として J-CASTニュース(https://www.j-cast.com/2019/12/24375926.html?p=all)によれば

接客時におけるマスク着用は、顔の半分を覆い隠してしまうため、お客様にとって表情がわかりにくく声も聞こえづらくなるため、お客さまとの円滑なコミュニケーションの妨げになります。また、風邪や体調不良のイメージを持たれ、不安を抱かれる場合があります

J-CASTニュース

とのことです。

これは海外からのお客さんが増えている日本の現状を鑑みると、マスク姿は異様に見えるようでもあるらしいので、原則的に接客時のマスク着用禁止令は正しいものと判断できます。

ここで1つ問題が出てきます。従業員が風邪やインフルエンザに罹患して場合、しっかりと休養を取れる体制をイオンが取っているか、イオンを訪れるお客さん側も第三者に感染症を移す可能性がある場合にイオンを行かない(もちろんイオンだけじゃなくて、職場や学校や人混みも)ようにしているか、このような問題も出てきちゃいます。

イオンのマスク禁止令に対して批判的なご意見も多数のようですが、そのご意見を述べられている方々はこの問題点にお気づきなのかは私の調査では不明です。

以上のようにある条件を満たしていれば、イオンが接客中のマスク着用を従業員に指示したことを私は医学的見地からは支持します。

おまけ1:インフルエンザ感染が拡散する原因として飛沫感染と接触感染があります。近年、空気感染もあるのではないか、との論文も出てきていますがまだまだ明確な疫学結果は出ていない状況と個人的には判断しています。

おまけ2:感染した人がマスクをすることによって、飛沫を防ぐ意味はあります。でも、インフルエンザに感染していた場合は病欠して自宅等で安静にして早く病状回復をすることが優先されるべきです。

おまけ3:一度感染予防に着用したマスクを取ったり着けたりを繰り返すと、手にバイキンが付きますので、ご注意ください。

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【マスクのまとめ】今でも勘違いされている目的と効果

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著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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