医事新報社は大正10年に設立された医師向け、特に開業医向けに特化した医学系雑誌・書籍の出版を行なっている会社で、どちらかというかかなりのオールドメディア。一方の東洋経済新報社は明治28年に設立された由緒ある古い古い会社ですが、ウェブ上の「東洋経済オンライン」は右肩上がりで読者を増やしているメディアです。
乳酸菌の効果、特に免疫力をアップして風邪やインフルエンザ予防効果があるのか否かについて、医学系メディアと経済系メディアが激しく戦っております。
私は医事新報の取材を受けてキリンホールディングのプラズマ乳酸菌食品に関して厳しい意見を述べました。
本記事の内容
一部でステマじゃん!とも言われてしまっている、東洋経済の「乳酸菌は免疫力を上げる」記事風広告
研究者の努力には頭が下がる思いはあるが、各メーカーが発信する乳腺菌情報(特に免疫系))に対しては、厳しい姿勢である私の立ち位置は十分に取材者には伝わっています。
一方で東洋経済は他の医師の取材記事をこんな感じで掲載しています。
右上にADと書かれていますので、ステマではなく記事風広告との解釈が正しいであろうことはお伝えしておきます。
注意:東洋経済の取材の応じた医師が伝えたことがそのまま記事になっているとは言えない可能性もあります。また、発言の一部を切り取られて使用されている可能性もありますので、私の真意は東洋経済の取材に協力した医師を責めたてるものではありません。
多分キリンホールディングの広報担当者あるいは研究者が私のこのブログを好意的に受け止めて、医事新報になんらかのアプローチをして取材が舞い込んだ可能性があります。
ブログ中でも
それで良い結果が出たとしても「体験者による談」の域は超えませんし、「あくまで個人差があります」的な表現にしかなりません。これさえ飲めばインフルエンザもヘッチャラってわけではありませんのでご注意くださいね。
としっかり釘を刺しています。
さらに医事新報の取材で私はプラズマ乳酸菌は「臨床におけるエビデンスはまだ不十分」と述べていますし、
臨床試験で少し効果があったとしても、何かしら結果を左右する因子があるのであればそれを排除する方向でさらに研究を進めないと、臨床医の評価に堪えるものにはなりません。メーカーが商品化を急ぐのはわかりますが、医薬品も含めてもっと大型の商品につなげていくためにも、じっくり腰を据えて研究してほしいと思います
とも私は述べました。
ところがどっこい、東洋経済に掲載された記事の医師は以下のように述べています。
実は乳酸菌の中でも、免疫力アップにとても有用な菌があるんです。それが『プラズマ乳酸菌』です。
そしてリップサービスも怠りません。
私自身、プラズマ乳酸菌を配合したタブレットを毎日飲んでいて、同じものをクリニックでも取り扱っています
このようなサービス精神が私には欠けている点なんでしょうね(苦笑)。
プラズマ乳酸菌が効果を示したとの論文を精査してみます
私は医事新報の取材を受ける前に、キリンの研究者に事前にお会いして、研究の詳細の説明を受けています。研究者が書いた論文も読ませていたでき、その研究者に「企業のラボにいる限り、とにかく早く結果を求められて大変でしょ」「もう少しじっくり研究を突き詰めたいですよね」なんて会話をした記憶があります。上司もいた為、「ある程度の研究費を使わせてもらって他社ではできないような研究もやらせてもらえてます」とその研究者は語っていました。
その後の医事新報の取材に対しても口を酸っぱくして、私は「良い臨床データが出たとしても、他の医学関係者からの批判に耐えうるものでない限り、いくらデータを広告に使用しても説得力はなく、お客様の個人的感想レベル」とも話したものが医事新報の記事になったようです。
東洋経済に掲載されている医師の
小中学生を対象に行われたある調査では、プラズマ乳酸菌を含むヨーグルトを週3日・3カ月にわたって食べた地域は、インフルエンザ罹患率が有意に低下したという結果も出ています
この話のもとになっている論文は「Preventive effect of Lactococcus lactis subsp.lactis JCM 5805 yogurt intake on influenza infection among schoolchildren.」 ( Scientific Research Publishing のオープンアクセスであるHealth Vol.9 No.4 , April 2017に掲載)だと思われます。筆者の中には私がお会いした誠実かつ真摯な研究者のお名前もあります。
この論文のデータにはちょっと問題点があります。
プラズマ乳酸菌がインフルエンザ予防に効果があった⋯ワクチン接種の有無を調べていないぞ❗
まずはインフルエンザとの報告は学校側がインフルエンザに罹患したと思われ、学校側に提出した診断書をもとにしています。
つまり、インフルエンザに罹患したのと確定診断、例えばPCRを利用したキットが使用されたのか否かについては書かれていません。論文を書いた研究者たちもその辺りはマズイと考え「Therefore, it could be that the clinical diagnosis is different from the actual infection. 」と書いています。
インフルエンザと診断書に書かれていてもインフルエンザではなかった可能性もあることを正直に記載しているのです。
さらに研究者は論文中にこんな文章を記載しています。「Second, since we could not obtain individual histories of vaccination, we could not eliminate the effects of vaccination.」⋯対象となった生徒が事前にインフルエンザワクチンの予防接種を受けていたか否かを把握していなかったことを正直に記載しています(論文を書いた研究者の誠意が感じらまれす)。
私はこの論文を見て「人に対するプラズマ乳酸菌の効果を実証するには、もう少し工夫が必要ですね。これでは効果があったとしても、研究計画のアラを指摘されますよ」と余計なお世話をお伝えしたはずです。
結果的に辛口評価の医事新報、ヨイショ記事的な東洋経済
医事新報は医師が読むニッチなメディアであるが故に、常に医師のチェックを受けるハメになります。
杏林大保健学部教授でプロバイオティクスと感染症学の専門家である神谷茂教授は
プラズマ乳酸菌は、メカニズムの解析が詳細に行われているのが特徴で、pDCを活性化することが初めて確認されたというのは評価できます。
と述べていますが、
桑満氏と同じく神谷氏も、乳酸菌をはじめとするプロバイオティクスによる感染症予防のエビデンスはまだ不十分で、さらなる研究の積み重ねが必要という立場。
と書かれているようにエビデンスとしては不十分をおっしゃってます。
プラズマ乳酸菌の研究には期待しつつも、現時点でヒトに対して免疫システムになんらかの効果を示す理論が明確であっても、実際に免疫力を高めてインフルエンザ感染を予防するかに関してはエビデンスが確立していないとの記事内容になっている医事新報。
かたやプラズマ乳酸菌の摂取で罹患率が有意に低下したと主張する医師の取材記事が掲載されている東洋経済。
東洋経済は
冬本番を迎えた今こそ、食生活と生活習慣の改善、そしてプラズマ乳酸菌という菌の力を借り、体の免疫システムを強固にしておきたいところだ。
で文章を締め、一方の医事新報は以下のように締めています。
乳酸菌市場には今後さらに多様な疾患への効果をうたった商品が投入されていく可能性がある。各メーカーが発信する情報を読み解く力が現場の医療関係者にもますます求められていくことになりそうだ
医師向け専門誌と一般の方が読むことの多い経済誌では同じ製品の研究やその商品の研究論文についてもこのような大きな違いがあります。
皆さんがこの2つの媒体に掲載された同じプラズマ乳酸菌のインフルエンザに対する免疫システムの効果についてどのように判断するのか、非常に興味があります。