喫煙は嗜好品という考え方があることは知らないわけではありません。健康面でマイナス要因であることも周知の事実ですが、実験的に喫煙させることによって癌などが発生したことを証明することもモラルの点で不可能になっています。
愛煙家いじめではありません
愛煙家が否定したくなる受動喫煙(副煙流による第三者の健康被害)の問題も人体実験をするわけにはいかないので、明確な証明をすることが難しいものになっています。
そのため今まで統計調査で集められたデータをもとに喫煙の健康被害は検討されますので、否定論者に対して喫煙=健康被害を納得させるのが困難な状況になっています。
しかしながら、精神面的に喫煙のプラス面はあるでしょうが、今まで蓄積されてきたデータの中で喫煙が健康を促進するというものはありません。
実際に喫煙が金銭的にマイナスになっているのなら、国よりもお金に敏感な企業はどのように考えているのか?それが解る興味深い論文が見つかりましたので検討してみます。雇用する企業側も雇用される労働者側もこの問題を一緒に考えていただけると幸いです。
喫煙者にたいする企業の負担
Estimating the cost of a smoking employeeという題名でBMJのオンライン版のなかのTobacco Controlにありました。
結論は喫煙者には非常に厳しいものです。
喫煙者を雇用した場合欠勤やたばこ休憩、医療費の増大は雇用サイドに年間6000ドルの負担を強いることになる
この様な結論に至っている論文です。オハイオ州立大学の公衆衛生学部のMicah Berman氏らによって調べられた結果です。
アメリカの企業では喫煙者である従業員に対して非喫煙者より医療保険を高く徴収したり、極端な場合は非喫煙者に限って雇用するという動きがあるそうです。厳しい会社ではある期間を設けてその間に禁煙ができなかった従業員を解雇する場合もあるそうです。
さすがに、日本ではそこまでの企業は見かけられませんが、実際に私が診察している中小企業の社長の中には自分が禁煙に成功したので、従業員にも禁煙に成功した場合はインセンティブを与えるということは何度かお聞きしています。
禁煙をプラス要因として評価する日本型と喫煙は採算性から企業に対して負担を掛けているのでペナルティとして評価するアメリカの企業の姿勢が有られています。
金銭的な負担
この論文では実際に企業がどれだけ負担が増えるかが明記されています。
- 欠勤による生産性の低下⋯517ドル
- ニコチン中毒による生産性の低下⋯462ドル
- タバコ休憩による損失⋯3077ドル
- 医療費の増加分に対する負担⋯2056ドル
不謹慎なデータですが、喫煙者が雇用側の負担軽減に貢献するものもあります
- 喫煙者は早死にのリスクが高いので年金の負担が減る⋯296ドル
こんな数字まで算出するのはこの研究が如何に企業の利益を考えて行われたシビアなものであることがわかりますね。
タバコ休憩の損失⋯年間3077ドル也!
トータルで喫煙者を雇用した場合の企業側の追加負担は
年間5816ドル
という結果になりました。
なんでもお金に換算することはなんだかね。
何でもお金に換算することは複雑な問題をわかりやすくするために良く使用される手法です。でもなんだか「血も涙もない」的なイメージに感じるのはあまりにも日本的な情緒なのかもしれません。
閉塞感に追い込まれている日本の企業がグローバルに発展していくこと、それぞれの個人も世界に目を向けて活躍の場をグローバルに!というのが今の日本の立ち位置だと思います。
しかし、たばこ問題に対してもこのようなわかりやすく、また反論を出しにくい論文を発表してくる欧米諸国に対抗していくには、日本的な優しい感性・情緒だけでは対抗していくのはかなり厳しいかもしれませんね。