どんなダイエットをしても失敗している方はTV等で肥満に対する手術を知っていると「最終的に手術すればいいや」なんて思っているのではないでしょうか?脂肪を取り除く脂肪吸引ではなく胃を縮めてしまう手術です。
手術でやせる
日本ではTV等でしか見かけない治療ですが、超肥満が国を挙げての大問題となっているアメリカでは一般的な手術となっています。一番体にダメージが少ない方法はお腹をきることなく治療できる「腹腔鏡下胃バンディング術」と言われる手術です。
胃の口に近い部分をバンドで締め付けて物理的に食べられる量を調節するもので、大学病院を中心に日本でも行われている治療法です。
アメリカでの肥満手術の現状
アメリカでは高度肥満を病的肥満と位置付けて保険適用で手術を受けることが可能になっています。病的肥満の定義なBMIが35以上としています。
このレベルの肥満に達していない人(BMIが30-35)にも胃バンディング術を行う動きがあります。それでは医療費が莫大になってしまうのでメディケア・メディケイドサービスセンター(CMS 高齢者や民間の医療保険に入れない人が加入する国負担の健康保険を管理している)は病的肥満になっていない人に対しては手術の費用を払わない方針を取っています。
そのような動きに反してアメリカ食品医薬品局(FDA) は肥満に合併する他の症状を持った人に対してBMIが35を超えていなくても胃バンディング術の施行を推奨しています。
糖尿病と肥満手術の関連
「Bariatric Surgery for Weight Loss and Glycemic Control in Nonmorbidly Obese Adults With Diabetes」というタイトルでJAMA(2013;309:2250‐2261)にカルフォルニア大学の医師らの論文が掲載されました。 BMIが30-35の糖尿病を合併する患者さんを外科的治療をした人と手術をしなかった人に分けて手術の有益性を比較してみようという試みです。
方法としては1985年から2012年までに発表された論文を集めました。手術をした論文は32件、手術をしなかった論文は11件が彼らの求めた条件に一致しました。
残念ながら肥満手術の結果と手術をしなかった結果をランダム化比較試験したものは3件しか各当しませんでした。症例数は合計290例でした。また調査期間は1-2年と比較的短いものしか当てはまりませんでした。
結果
- 肥満手術をした方が減量していた(14.4-24㎏)
- 血糖値の指標であるヘモグロビンA1cは肥満手術の方が改善していた
上記のことがわかりました。つまり肥満手術をした方がしないより体重も糖尿病も改善していたのです。
せっかく手術までしたのですから、差が出なきゃ患者さんが怒りますよね。
気になる手術のリスクですが手術によって死亡した人は0.3-1.0% (開腹する手術も含まれています)と予想以上の結果になっていました。糖尿病があると感染症に罹りやすくなりますので、その影響でしょうか?予想以上に高い死亡率です。
論文に対しての評価
この論文を書いたMelinda Maggard-Gibbons医師は
- 現時点ではエビデンスとして短期的には肥満手術がBMI30-35の糖尿病患者には有効
- しかし、病的肥満でない人に対する肥満手術の是非に対しては疑問がのこる
と、なんだかとっても歯切れの悪いコメントをしています。つまりもっと長期に渡って比較検討をしないと肥満手術が合併症などのリスクを考えても患者さんにとって有利な治療法であるという判断はできないということです。
肥満手術に対しての治療費を払わないことを決めているCMSや推奨しているFDAの両者の機嫌を伺った論文でした。ちなみに、このような場合、アメリカでは「私は今後この研究をさらに継続していきたいので予算を配分してください」と主張して予算を獲得して研究を続けていくのが優秀な研究者とされています。
この論文を読んで思ったこと
肥満はアメリカの国益を左右する大問題です。肥満を防ぐために炭酸飲料の販売にブレーキをかけようとさえしています。幸いにしてBMI35を超えるような肥満の方は日本ではかなり少ないのですが、日本でも肥満気味の方は私が子供の時代に比べて明らかに増えています。
安易なダイエット、例えばサプリを飲めば簡単に痩せられる、特定な食事をすると楽に痩せられるというのは幻想にしか過ぎないのではないでしょうか?
アメリカで一般的で非常に効果的と思っていた「肥満手術」でさえ、明確な回答は得られていないのです。
今後も肥満問題に対して適切な情報をブログを読んでいただいている方に提供していかなければいけないと肝に銘じました。