泌尿器科を受診する時は尿検査が必須です。
頻尿、つまりおっしこの回数が増えることを主訴として泌尿器科を受診して、尿検査をお願いしても、「尿が出ません」とおっしゃる患者さんは少なくありません。
尿が近くて困って受診しているはずなのに、検査となるとなぜか尿が出ない。尿を出す排尿のメカニズムは思ったより複雑です。尿検査は患者さんにとって負担がほとんどない非侵襲性の検査でありながら、治療するにあたって多くの情報が得られる検査です。
本記事の内容
おしっこの回数が多いのに、検査となると出なくなっちゃう⁉
頻尿(排尿の回数が多い)を主な症状として来院する人に必ずお願いする検査として、尿検査があります。
検査用の紙コップに20ml程度のおしっこを出していただき、そのおしっこを簡易式のウロペーパーでチェックしたり、顕微鏡でのぞいたり、検査所に精密検査を依頼して、診断に役立てます。
しかし、緊張のあまり「尿が出ません❗」と仰る患者さんが少なく無いのです。
例えば膀胱炎や過活動膀胱という頻尿が主訴(患者さんの病状に対する主な訴え)が頻尿(通常の排尿回数は一日8回程度、それを越えると頻尿)なのに、泌尿器科を受診しながら尿が出なくなってしまうのです。そんな場合、当院ではウオーターサーバーの水を飲んでいただき、どうにかして尿を検査しようと試みます。
頻尿が主な症状だとしても、医療機関を受診していざ尿検査をしようとなると、なぜ尿が出なくなってしまうのでしょうか?こんな不思議な現象を経験するのは泌尿器科医としては日常茶飯事なのですが、他の科目を専門とする医師は不思議に思うでしょうし、当の患者さん自身も不思議に感じてしまうはずです。
私たちが日常の動作と特別に意識しないで排尿をしていますが、そのメカニズムはそれはそれは複雑なんです。
排尿のメカニズムは尿は腎臓で作られ膀胱に貯められます。膀胱の許容量を越えると尿意を感じ、そして排尿。
なーんだ、排尿って単純な仕組みじゃん、と感じちゃうかもしれません。
しかし、いざ排尿するときにあなたは大脳皮質で排尿するべしと指令を送り、尿道と膀胱に対して脊髄を通じて排尿反射を抑制している神経に対して、「排尿抑制を解除せよ」と命令して、膀胱の排尿に関わっている筋肉を収縮させ、さらに尿道括約筋を緩めるようにしていますか?
そんな複雑なことを一々行なっているなんて考えてもいなくて当然ですが、実際におしっこをする、つまり排尿するためには意識しようが意識しまいがこのようなメカニズムが体内で生じているのです。
とにかく泌尿器科医にとっておっしこは重要な検査対象なのです
頻尿を主訴とした場合、適切な治療をすれば簡単に治る膀胱炎なのか、あるいはさらに詳しい検査が必要なのか、それを見分ける方法の1つとして尿検査があります。
患者さんにとっても金銭的にも肉体的にも負担の無い尿検査なのですが、いざ尿検査をお願いすると、「先生〜❗尿が出ないです❗」
頻尿で困って受診しているのに尿が出ない、そんな不思議なことが起きるのは排尿および蓄尿(おしっこを貯めること)のメカニズムが前述のようにかなり複雑になっているからとも判断できます。
おしっこが近いのに尿検査となると出ない、不思議な現象
頻尿の原因となる病気としては、膀胱炎、過活動膀胱、神経因性膀胱、膀胱癌、前立腺肥大症などが考えられます。
近年増加している病気として過活動膀胱というのがあり、製薬会社の猛烈なプロモーションによって患者さんの数は右肩上がりです。過活膀胱だと考えられる人は高齢になればなるほど増加します。
必要以上に尿の回数が増えてしまうと、映画一本満足に観ることができませんし、バス旅行等への参加も躊躇してしまいます。
そうなると生活の質が落ちてしまい、好きなこともできなくなってしまい、ついつい家に引きこもりがちになってしまう可能性が出てきます。
水分を多量に飲んでしまって尿の回数が増加する、これは当然です。
普通に水分を摂っているのにすぐに尿意を催す、こんな症状が出てきたら、誰でもこれは病気なんじゃないかな、と考えて泌尿器科受診ということになります。
なのにいざ検査となると尿が出なくなっちゃう不思議な現象の原因の多くは水分摂取を控えて来院する、が経験的には一番多いです。
水分を摂るから尿意を感じる、じゃあ、水分を控えれば症状が改善する、と考えて来院する方が多いのですね。
泌尿器科は尿の状態を観察するのが基本中の基本。泌尿器科を受信する方は、必ず尿検査があるものとしてご来院いただけると非常に助かります。
夏になるとメディアがしきりに水分補給を、と伝えます。
この現象を私たちはメディア頻尿とかマスコミ頻尿と呼んでいます。
泌尿器科医からもう一つのお願いがあります。
膀胱炎気味だと自己診断して、なぜか手元にあった抗菌剤を服用してから泌尿器科を受診する方がいます。泌尿器科では膀胱炎と判断するためには簡単な尿検査によって白血球の数をざっくりウロペーパーという試験紙で判断します。さらに顕微鏡で白血球や赤血球の数をカウントします。さらにさらに尿培養検査によって原因菌を同定し、こちらが処方する抗菌剤が検出された菌に対して効果があるのか知るために、感受性検査を行います。
なぜか手持ちに抗菌剤を服用して受診されると、原因菌を同定する尿培養検査もできなくなりますし、感受性検査もできなくなります。
膀胱炎って癖になっちゃうのよね〜、とオバサマがたの間では常識化しているようですが、原因菌を同定して、薬剤感受性までしっかり行えば、膀胱炎がくせになることはまずありません(くせになった場合は他の疾患を泌尿器的に調べます)。
でもオバサマ達は言うんです、「先生が休みの時になって膀胱炎になっちゃうのよ。だから家にあった抗生物質を飲んでから来院したのーっ❗」って。そもそも、なんで家にたまたま抗生物質があるのかについては深追いはしませんけど(処方された抗生物質・抗菌剤は飲みきりましょうね)。
医療機関が休診の日に限って、膀胱炎っぽくなるという方はこれで症状を緩和してみてください。
細菌性膀胱炎には効果はないはずなので、尿培養や感受性検査には全く影響を及ぼしません(CMだとまるで治っちゃうような表現をとっていますけど、細菌には効果がない優れた市販薬です、って変な褒め方かな)。