病気の画期的な治療法とはなんでしょうか?
ペニシリンに始まる抗生物質(抗菌剤)は医療の発展に画期的な貢献しています。また、麻酔、特に全身麻酔に外科手術は飛躍的な発展を遂げることができました。ワクチンの開発も人類に多大な貢献をしています。
高血圧・高脂血症・糖尿病などの生活習慣病は薬と食生活の見直しである程度回避できます、となると、人類に残された生死に関わる疾患は「がん」ということになりますよね。
本記事の内容
「オプジーボ」を夢のがん治療薬と捉えるのは間違い??❗
私が子供の時はがんは今世紀中に制圧される、なんてことも言われていました。しかし、世界中の医療関係者・研究者が日夜努力をしても「がん制圧」というレベルには達していません。今日、がんの治療としての手術・抗がん剤・放射線治療は限界に達していたのです。
そこへ「がんの免疫療法薬」としてオプジーボが登場しました
本来ならば「免役チェックポイント阻害剤」との表現がオプジーボの効果を表現しやすいのですが、一般の方は「がんに対する免疫を強める薬」と捉えていますので細かい表現にはこだわらないで話を進めます。オプジーボがたとえば「腎細胞がん」(一般的には腎がんと呼ばれています)に対する治療効果はこんな感じになっています。
「エベロリムス」という抗がん剤と比較して生存期間が有意に伸びています。
でも、このグラフを見て「メチャクチャ生存期間が伸びている」なんて思いますか、普通?がんの治療としては、こんな差でもメチャクチャ生存期間が伸びていると医療関係者は考えるくらい、がんの治療はどん詰まり状態だったのです。ですから医療関係者には画期的ながん治療薬と評価すると、一般の方は「夢のがん治療薬」と思い込む誤解が生じてしまいます。
オプジーボを「がん免疫療法薬」と表現するとこんな誤解が生じます
一般の方にとって大した治療効果がないと感じる、でも医療関係者は「こりゃ凄い」と考えているのがオプジーボです。例としてオリンピックの100メートル走をイメージするといいかもしれません。記録を0.01秒伸ばすためにボルトは恵まれた身体能力に加えて過酷なトレーニングを行なっているはずです。しかし、1964年開催された東京オリンピックの100メートル走の記録と比較して1秒も記録は伸びていません。この1秒にも至らない差を「画期的ながん治療薬」として評価を医師はしています。そこで問題が生じています。
一般の方のイメージを利用している医療機関がオプジーボを保険適応外のがんにも使っているのです
「免疫力アップ」系の一般図書の広告が目立つ新聞を読んでいる層にとって、非常に魅力的な「免疫力」と切実な問題である「がん治療」を組み合わせた巧妙なマーケティング手法と言えます。
オプジーボによって免疫力アップするわけでありません。医療関係者からの細かいツッコミはご遠慮願いたいのですが、オプジーボの作用機序を簡単に解説します。キラーT細胞という人体の敵を攻撃する細胞があります。がん細胞はPD-L1という物質を産生し、キラーT細胞のPD-1という物質を介して「自分はがん細胞ではありません、攻撃しないでね」とアピールします。このPD-1とPD-L1の間の作用を邪魔するのが免疫チェクポイント阻害剤であり、オプジーボなのです。
オプジーボ自体が、がん細胞を攻撃するのではありません
人間がもともと備え持っていた免疫系に働きかけ「ここにがん細胞がいますよ」と伝えて、キラーT細胞にがんを攻撃させるのです。
実際に臨床で使用する場合はオプジーボ単独より、他のいわゆる抗がん剤も併用した方が効果的です。万が一「がん」に罹患した場合、ひたすら民間療法的な「免疫力アップ」を試みても意味がないのです。「がん免疫療法」を大々的に広告している医療機関としては「ほら、免疫力はがん治療に必要でしょ」的にオプジーボバブルに便乗し、現時点で効果が認められていない「がん」にまで使用しているところもありますので注意が必要です。
こんなおバカなサイトもありました。
飲まない方がいいに決まっています、オプジーボは注射薬だよ‼
なんだあ、あの週刊現代さんだ(笑)。
オプジーボは値段が高い、それには理由があります
保険診療で使用される薬の値段を薬価と呼びます。いくら効果が高い薬でも簡単に製造できるものは安く設定されますし、特許技術が必要なものでも特許の期限が切れればジェネリック薬として安価に設定されます。いくら画期的な薬でもユーザーが多ければ、医療費高騰に悩む厚労省はなるべく安い値段にします。
オプジーボはそもそも悪性黒色腫という日本人には希と考えていい疾患、それも根治切除不能な悪性黒色腫に対して保険薬としての承認を得ました。悪性黒色腫は年間4000人程度が発症しますが、手術での根治効果が期待できない患者さんの数は数百人です。希な疾患だから無視するのは大問題、そこで
希な疾患に対して効果のある治療薬としてオプジーボは年間3500万円かかる薬価が設定されたのです
希な疾患、ユーザーが少ない市場に対して莫大な開発費をかける製薬会社は上場企業であれば当然、株主の批判対象になります。インセンティブの無い風潮が強ければ、希な疾患に対する創薬のモチベーションは落ちます。そこで日本で開発されたオプジーボは高い評価を受けて高額な薬価が設定されたのです。適応症が増えたために来年度からは薬価が50パーセント下がるのも当たり前のことです。現在FDAがオプジーボに対して承認した適応症は悪性黒色腫・非小細胞肺がん・腎細胞がん・ホジキンリンパ腫・扁平上皮非小細胞肺がんとなっています。日本でも適応症が追加されるでしょうから、薬価もさらに下がるはずです。問題点としてはオプジーボの効果が認めらる限り使い続けることになること、つまり他の画期的な治療薬が登場しない限り、止められないことです。
戦後の日本で結核の治療薬としてストレプトマイシンを手に入れるために、多大な苦労と莫大な金銭が必要でした。いま、ストレプトマイシンの薬価は1グラム400円もしません。適応が拡大されれば当然の経済原理としてオプジーボも将来的には普通の抗がん剤レベルの薬価になるはずです。薬の価格だけが衝撃的に取り上げられる風潮は医療費の負担に財政破綻寸前の日本においては当たり前ですが、製薬会社丸儲け的な批判はトンチンカンです。
もちろん保険適用されたことによる高額医療の補助的な制度によって、国家財政が危うくなる可能性もあります。これについては新聞などで各界の有識者の間でコメント・解説されていますので、そちらに任せますね。
免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」が第4のがん治療法であることは間違いない
オプジーボのがん治療の効果(この場合は完治、あるいは余命延長)は多くの方が「夢のがん治療薬」と捉えているほどではありません。しかし、がんという病気の治療法は現時点で限界に達してもいるのです。現時点で
世界中ではオプジーボのような免疫チェックポイント阻害薬は700件以上の臨床試験が進行中です
画期的ながんの治療法の一つとして「免疫系の治療薬」は、これからも研究が行われていかなければなりません。その過程でひょっとしたら「第5の治療方法」が見つかる可能性もあります。例えば「リザベン」というアレルギーの飲み薬があります。一日3回服用というユーザビリティの低さと効果の低さで知られています(笑)。でもこのリザベンは「ケロイド」「肥厚性瘢痕」の治療に画期的な効果があります。開発者でさえ思いもしなかった効果で、今では「ケロイド治療の第一選択薬」的な地位を確保しています。オプジーボも実はプロスタグランジンの研究を行っている時に「PDー1」が発見され、がんの治療薬としての開発に繋がったのです。
小野薬品はめちゃ儲けてんじゃん、との意見もありますが、オプジーボで利益をあげて開発費を稼いで、さらなる創薬に力を入れれば、儲けが人類にとって還元されることになります。高額な薬だから製薬会社がウハウハ的な考えはやめましょうよ。