家庭の常備薬としてのナショナルブランドと言っても過言ではない「正露丸」。
若い方は「むし歯の痛み」にも効果があることはご存知でしょうか?
お腹のトラブルに効果がある正露丸がなぜむし歯の痛みにも使用されるのか、との素朴な疑問を抱きましたので、ちょいと調べてみました。
本記事の内容
正露丸の効能に「むし歯痛」って確かに書いてあるけど、なんで効果あるんだ?
ラッパのマークの大幸薬品のサイトによれば「正露丸は内服するのではなく、痛みのある虫歯に適量を詰めてお使いください」とあります。
今時、正露丸がぱっくり嵌まり込むような、むし歯保有者って滅多にいないと思いつつ、なんで直接詰めて痛みを抑えるのか、再度素朴な疑問が湧いてきました。
正露丸の虫歯への効果の秘密は「クレオソート」にあったんだ❗
先ほどトイレで1999年に発行された週刊金曜日が発行した、トンデモ系「買ってはいけない」を読んでいたところ「恐るべき漢方薬 正露丸」との項目を発見しました。
これがなぜトンデモかというと、正露丸は漢方薬ではないのです。この時点で記事全体の信頼度がかなり落ちます。さらに著者は正露丸に使用されている「クレオソート」は木から抽出した「木クレオソート」を、石炭由来のクレオソート(コールタールを蒸留したもの)と明らかに勘違いしている、トンデモ系のあわてんぼうさんでした。
歯科領域では根管治療に「ホルモクレゾール」と言うホルマリンとクレゾールにエタノールを添加した薬が消毒剤として使用されています。話は少し入り組みますけど、木クレオソートの成分にはクレゾールも含まれています。これらのことから、正露丸にはクレゾールが含まれているので、この成分が歯の痛みに効果を発揮していることが予想されます。
正露丸をむし歯に詰めっぱなしにしてはダメ❗
日露戦争時代に急にむし歯が痛み出した日本兵が正露丸をぽっかり空いたむし歯の穴に緊急回避的に詰めるのはいいのですが、医療の発達した現代ではおばあちゃんの知恵的な使用法に留めておきたいものです。というのも、歯科領域でFCなる暗号?で呼ばれているホルモクレゾール自体が歯科の世界では時代遅れ気味になっています(「歯チャンネル88」と言う歯医者さんと患者さんのやりとりサイト等による)。
ホルモクレゾールを長期に渡って歯に詰め込んでいると、歯全体に作用が及んでしまうのです。クレゾールの働きによるのか、ホルマリンの働きによるのか「歯の神経を殺す」的に使用されているホルモクレゾールです(「Ask Dentist」と言うサイトによる http://www.ask-dentist.org/)から、正露丸をむし歯の穴に詰めっぱなしは避けるべきですね。
また、正露丸の主成分である木クレオソートには「フェノール」も含まれています。このフェノールは腐食作用があるので、むし歯の痛みを引き起こしている神経自体を攻撃していることも考えられます。
正露丸って、かなり誤解されていたのですね、ごめんね
急に痛み出したむし歯への対応として、正露丸を一時的に使用することは理論的には効果あり、と判定できました(正露丸糖衣は詰められないと思うけど)。お腹が痛い、即正露丸をお口にポイッ、って患者さんに「正露丸なんて効果ないんじゃない」的な対応をしてきた過去がある私は素直に正露丸さんに謝ります、ごめんなさい。
というのも下痢に対しての効果はエビデンスがしっかりあったのです。in vitro(試験管内の実験)だけでなく、in vivo (生体に対する実験)でも有効性が明らかになっていて、さらにそのメカニズムも解明されています。
「Antidiarrheal Activity of Wood Creosote: Inhibition of Muscle Contraction and Enterotoxin-Induced Fluid Secretion in Rabbit Small Intestine」(Pharmacology 2001;62:181–187 )[1]や「Suppression of enterotoxin-induced intestinal fluid secretion by wood creosote.」(Res Commun Pathol Pharmacol 1996, 93 (2) :219-224)[2]によれば、大腸菌(毒素のあるETEC)感染症に対して、なぜ正露丸が効果を発揮するのかは明確ではなかったのですが、これらの論文によって木クレオソートが腸液の分泌を抑える⋯だから下痢に効果ある、ということを明らかにしています。
すごいぞ、正露丸⋯でも、普通の下痢って体に入り込んだ病原体に対する正常な反応なんで、積極的に下痢止めは使用しないんだけどね、今の標準医学では。
参考文献
- Ogata N, Shibata T. Antidiarrheal activity of wood creosote: inhibition of muscle contraction and enterotoxin-induced fluid secretion in rabbit small intestine. Pharmacology. 2001;62(3):181-7. doi: 10.1159/000056092. PMID: 11287820.
- Ataka K, Ogata N, Kuge T, Shibata T. Suppression of enterotoxin-induced intestinal fluid secretion by wood creosote. Research Communications in Molecular Pathology and Pharmacology. 1996 Aug;93(2):219-224. PMID: 8884992.