がん患者の死因の8割は栄養失調⁉死因の上位に「栄養失調」がない理由はコレ❗

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週刊ポスト2016年6月10日号に「がん患者の8割は「栄養失調」で死んでいる」という衝撃的な記事が掲載されています。でも、これって実際に医療現場にいる人間の多くは「えっ、当然じゃん」的なレスポンスをするのではないでしょうか?心筋梗塞や事故などで亡くなった方は「朝までピンピンしていたのに」って場合も多いです。

がん患者さんの多くが栄養失調状態にあるというのは、一般的には知られていないかもしれませんが、がんを患ってから、体が小さくなった・痩せてしまった、という状態はイメージしやすいはずです。

がん患者さんのほとんどが「栄養失調」で亡くなっている???

週刊現代「がん患者の8割は栄養失調で死んでいる」

週刊ポスト2016.06.10号 p32 – 35(5月30日発売より)

長期に渡る闘病生活を送って最期を迎える方で「肌の色艶もよく、元気ですね」ってことはまずあり得ませんから。多くの方は最終的に「悪液質」と呼ばれる状態で亡くなっていくのです。

ちなみに「中国の子供の死因の1位はなんと⋯栄養失調」ということも知られています(IHMEの調査による)。

癌患者さんの多くは悪液質という状態になります。

「悪液質」って聞き慣れない言葉ですよね。英語だと「cachexia」と呼びます。単に体重が減少するだけではなく、筋肉の量も減る状態です。

原因として「がん」「閉塞性肺疾患」「腎不全」「敗血症」があり、多数の因子が複雑にからみ合って「悪液質」になります。ここで重要な事は体重の減少速度によって、死期が左右されることです。がん治療の場合、治療する手段がない所謂末期の対策として痛みからの開放が中心になります。

経口摂取できれば良いのですが、食べる力もない、食べる気力もない場合は中心静脈栄養法やチューブを鼻からいれる経管栄養法、胃瘻を作ってそこから直接胃に栄養分を入れる方法などが取られます。

しかし、これは「無駄な延命治療」になるリスクをはらんでいます。医師の中でも経管栄養で生き延びること望まない、口から食べられなくなったらもういいかなと考えている人も多いはずです。

週刊ポストの記事にある、がんの栄養になるんで栄養たっぷりの食事は良くないと考える医師なんて今時居るんですかね???

完璧な栄養を口以外から取り入れると⋯延命治療になる可能性が大

中心静脈栄養法や経管栄養法、胃瘻造設によってある程度の栄養分を摂取することはできます。しかし、無駄な延命治療になる場合も多く生じるために、自らそのような治療を拒否される方も多いのです。

IVHを選択した場合、昔は無駄な延命になると判断した場合、医師と患者さん・患者さん家族と阿吽の呼吸で点滴する内容(カロリーが多かった)をどんどん薄めていく手段によって最期を迎える方も多かったのです。

患者さん・患者さん家族、そして医師の間で延命治療の定義を明確にしていく必要があります。

死亡診断書で「栄養失調」と書いてもは死因にはならない❗

患者さんが亡くなった時に「死亡診断書」を作成します。この死亡診断書の書き方がなれてない人にとって複雑なんです。

死因の欄に「心不全」と書いて先輩医師に怒られた人も多いのではないでしょうか、「死んだ時は誰でも心不全だろうが」的に指導されたものです。

今はなんでもマニュアル・ガイドラインを作成する時代です。この死亡診断書についても厚生労働省が懇切丁寧な記入マニュアルを用意してくれています。死亡診断書は人口動態調査に使用されています⋯死因も調査対象です。この死因の書き方として

1直接死因 → 2直接死因の原因となる傷病 → 2の原因となる傷病 → 3の原因となる傷病⋯永遠につづく(笑)

実際は(ア)から(エ)までの4段階になっています。この死因ですが、日本人の死因は「がん、心疾患、脳血管疾患」などと世界中に発表される大切なデータであり、日本人の健康を守るため、今後どんな対策をすれば良いのかの指標にもなっています。

死亡診断書は法律上書かなければなりませんが、書き方自体は法律によって定められていません。

多くの医師にとって「癌患者さんの多くは栄養失調で死んでいる」ことは既知です

死亡統計を作成するとき死亡診断書をもとにしています。データを作成するとき「原因死」はWHOがルールを決めています。

前述の(ア)から(エ)は直接の死因「死亡の原因Ⅰ」に以外に「死亡の原因Ⅱ」があります。マニュアルの例ですとⅠに「急性呼吸不全」と書いてあっても、ベースとなる基礎疾患がⅡに「慢性腎臓病」となっている場合、死亡統計の死因は「慢性腎臓病」となるのです。

これらを考えると直接の死因が「栄養失調」であっても、がんを患った結果栄養失調になってもⅡ欄に「前立腺がん」と書かれていたら原死因は「前立腺がん」になります。

今回の週刊ポストの記事は週刊誌ですから、読者の注目をあびるためにはそれなりの大袈裟でありセンセーショナルなタイトルは大人の対応をしましょう(笑)。しかし、記事を100%疑いもしないで真実であるとすることは間違いです。統計で使用される「死因」はこのように複雑になっています。

なんでも「あれっ」って感じた場合は自分で調べる習慣を少しでもつけるていただければ、と感じてこんなブログを書いてみました。

今回は手元にある教科書・論文ではなくネットだけで得た情報だけをしようしています(どなたでも簡単に検索できます)。「週刊ポスト」はあくまで読み物であって、話題性重視であり医学の世界では「あたりまえじゃん」をこんなにモッテ記事にできるのです。

こりゃ盛りすぎの週刊現代

現役医師に聞いた「患者には出すけど、医者が飲まないクスリ」ってウソだよね、冗談だよね⁉

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著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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