「母乳神話」母乳で育てると赤ちゃんはもちろん、ママの病気も防ぐ、でも疑問だらけ。

更新日:

母乳神話と呼ばれている現象があります。

確かに母乳育児に健康上のメリットはあるのは確かなことですが、仕事の都合等やママの健康状態により母乳育児が不可能な場合もあります。そんな母乳で赤ちゃんを育てることができなかったママを非医学的なウソ話で惑わす余計なお節介をする集団がいます。

そんなお節介を振りまく一団が使うのが「母乳神話」です。

母乳神話はウソが多いけど、医学データによると⋯

先日も非常に権威のある医学専門誌「The Lancet」に「Breastfeeding in the 21st century: epidemiology, mechanisms, and lifelong effect」(Volume 387, No. 10017, p475–490, 30 January 2016)という論文が掲載されました。この論文は母乳で育った赤ちゃんは呼吸器感染症や下痢のリスクが低くなるといった開発途上の国では重大な疾患かもしれませんが、先進国では生命を左右することは稀である病気の話や母乳で育てるとその子供は知能が高くなるとの非常に魅力的かつ危なっかしい結論を導いています。

さらに母乳で哺育した母親は乳がんのリスクが低下するといったメリットが糖尿病や卵巣ガンのリスク低下とともに記されています。

でもこの「母乳神話」は本当なんでしょうか?この医学論文の主旨を少々批判的に検討してみます。

そもそも母乳哺育を高所得国と低所得国をひとまとめにして検討した論文は「母乳神話」じゃないの?

今回の論文は母乳哺育に関する過去のデータを利用して、21世紀における疫学を論じたものです。その対象は高所得の国37か国、中から低所得の国127か国となっています。

Breastfeeding_in_the_21st_century__epidemiology__mechanisms__and_lifelong_effect_-_Google_検索

生まれてから一年の時点で母乳で赤ちゃんを育てている割合を示しています。緑色が濃くなればなるほど割合は高くなります(前述論文より)。この図ではアフリカや東南アジアの地域で、高率で母乳哺育が行われていることがわかります。

でもこの論文の結果は母乳哺育だと下痢や呼吸器感染症が減ると主張しています。普通先進国の方の赤ちゃんの方が病気にならないで、アフリカ等の低所得国の赤ちゃんの方が感染症リスクは高いハズなのになぜこのような結果を導いたのでしょうか?

幾つか考えられる要因は

  • 低所得国は医療機関が少ないので、赤ちゃんが病気でも受診していない可能性
  • 低所得国では下痢や肺炎程度では親が病気と考えない
  • 感染症ごときは民間療法で治しちゃう

一方で高所得国では

  • ちょっとした病気でもすぐに医療機関を受診する

そのために、母乳哺育が多い傾向にある高所得国では下痢や呼吸器感染症が多い、って結論になった可能性があります。

この論文をよくよく読んでみると「乳幼児の死亡」も検討対象としています。乳幼児の死亡は圧倒的に低所得国の方が多いのが常識ですから、母乳哺育は乳幼児の死亡リスクを低下させる訳ではないのです。

母乳神話がはびこる原因⋯母乳で育てた赤ちゃんの方が知能が高い???

この論文では母乳哺育の赤ちゃんは将来的に知能が高くなる、との結論を出しています。しかし、知能って社会環境や生活環境にも左右されますが、両親からの遺伝が強く働くことが医学的にはスタンダードになっていますので、環境的な因子である母乳が子供の知能を高くする結果が本当であったら、それこそ「母乳神話」がやむなく母乳哺育を諦めざる得なかった母親を苦しめることになってしまいます。

実は高所得国であっても母乳での哺育率は米国は27パーセント、ノルウェーは35パーセント、スウェーデンは16パーセントとなっており、なんと英国では1パーセント未満になっています。ってことは先進国で英国が一番知能が低い子供が多いのでしょうか?

Asia_tops_biggest_global_school_rankings_-_BBC_News

http://www.bbc.com/news/business-32608772

どう見ても、今回の論文の内容と違っていますよね。

なぜこのような母乳神話的な論文になってしまったのか⋯

実はこの論文、ざっくりとしか読んでいないので私の解釈の間違いがあるかもしれません。誰でも赤ちゃんを自分の母乳で育てるのが自然であり、育てていきたいとの希望を持っているはずです。しかし、状況によっては母乳哺育を行うことが出来ない母親も多数いるのです。

母乳神話信奉者の中には「母乳で育てないでミルクで育てるのは親の怠慢」とか「母乳をあげないと赤ちゃんとスキンシップが取れないから、育った頃に問題が発生する」なんて傲慢なアドバイスを主張する方もいます。

今回の論文はもう少しじっくり読み込む予定ですが、その間に論文の一部を抜粋した怪しげな医学情報が巷に出回ることが懸念されます。この医学論文はあまりにも調査範囲を広げてしまったために、所得にだけ関しての比較を疫学的に行ったものであり、人種差・社会環境・医療環境・教育制度のバイアスが除去されていません。

母乳が優れた哺育の一つであることは間違いはありませんが、神話になることを懸念してこんなブログを書いた次第でございます。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

Affiliated Medical Institutions

主な提携医療機関

一般診療
診療日
月・火・水・金
9:30~12:30/15:00~18:30

土 9:30~12:30
休診日
木・日・祝
受付時間
9:00〜12:15/14:30〜18:15

泌尿器科・内科・形成外科

フリーダイヤルがご利用になれない場合は03-5721-7000

美容診療
診療日
月・火・水・金・土
10:00~18:30

※完全予約制です。ご予約はお電話ください。
休診日
木・日・祝
受付時間
10:00〜18:30

美容外科・美容皮膚科

フリーダイヤルがご利用になれない場合は03-5721-7015

© 2023 医療法人社団 萌隆会 五本木クリニック