医師が知らないニセ医学【その5】副腎疲労ってなんじゃ⁉

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「副腎疲労」あるいは「副腎疲労症候群」という一見医学用語風の言葉をメディアで見かけます。

実は副腎疲労および副腎疲労症候群は医学用語としては認められてもいませんし、その病態も明確な定義が無い、代替医療方面で多用される言葉なのです。

副腎疲労に関しては、海外の信頼できる医学専門誌でも実際にある病状とは考えられない、と書かれています。ありもしない病名をなぜ代替医療系のトンデモさんたちは使いたがるのでしょうか?

最近目にする「副腎疲労」って、ニセ医学のかおりが⋯

私は朝のトイレタイムに、話題となっている医療系記事をiPadにてざっくりチェックする習慣があります。最近、かなり目につき、「俺、そんな病名しらなかった、勉強しなきゃ」と焦ってしまうのが「副腎疲労」とういう病名なのか、病態。

基本的にこの聞きなれない病気なのか病態に対して

特に、副腎疲労にはうんざりしていますが結論です。これは私が言ったんじゃないくて、海外の内分泌系の研究者が論文ベースで言ったことなんで、副腎疲労一押しの医療関係者はそっちに抗議してね。

「We are tired of ‘adrenal fatigue’.」[1](S Afr Med J. 2018 Aug 28;108 (9) :724-725)はタイトルをGoogle翻訳すると「うんざり」になりますから。

そもその誰が「副腎疲労」と言い出したか?

新たな病名とか病態とかの名称はそもそも誰かが言いださないと、世の中に出回るはずはないので、誰かが言い出したはずです。そこでネット上の健康関連記事をサクサク書いちゃうライターさん等が「エビデンスです」と言い張るであろう、日本語の論文等をCiNiiという国立情報研究所のデータベースを調べたらこんな結果になりますした。

かなり偏りのある、「副腎疲労」です。

画像

副腎疲労に触れた一番古い文献は2012年の婦人公論、ってことのようです。近年はオーソモレキュラーとか分子整合栄養学などの、トンデモ系限りなくニセ医学方面の論文なのか記事なのかでも使用され出しているようで、私が朝のトイレタイムでチェックするSmartNewsに見慣れない副腎疲労という文字が目に入ってくるのも当然のことなんですね。

ちなみに、言い出しっぺであると予想される、白澤卓二医師は私は個人的にお会いしたことがあり、海外の論文から面白そうなネタ(傾向としては薬じゃなくて、食べ物で病気が治る的なもの)を日本に紹介することが多い、エイジングケア界の大御所です。

白澤医師の傾向として、一次ソースつまりエビデンス的な論文が海外にあるはずだと考え、英文論文を調べたところ、前述の論文の「副腎疲労にはうんざり」が見つかりました。

副腎疲労に対して医師がうんざりである理由はこれ

こんな英文の医学論文がありました。2016年に書かれたシステマティックレビュー(質の高いと考えられる研究論文を集めて、バイアスを少なくした結論を導く、メタアナリシスと同じくらいエビデンスレベルが高いもの)で「Adrenal fatigue does not exist: a systematic review.」[2](BMC Endocr Disord. 2016 Aug 24;16 (1) )です。

これによれば副腎疲労は実際にある病状とは判断できない、との結論になっています。

副腎疲労に関して論文になった研究は様々な問題点や誤りがあり

  • 研究デザインの問題
  • 副腎疲労の本質であるコルチゾールに対する評価の問題
  • 誤った研究方向
  • 不適切な結論

などの理由が指摘されています。

追い討ちをかけるように、副腎疲労なんて本当にあるの?という記事がハーバード大学のサイトに掲載されていました。

「Is adrenal fatigue “real”?」[3]https://www.health.harvard.edu/blog/is-adrenal-fatigue-real-2018022813344)では副腎疲労という概念は内分泌学会をはじめ多くの医学専門家は認識していないことを述べています(あーよかった、副腎疲労をしらなくて)。

さらにこの記事は副腎疲労の定義もはっきりしないし、診断基準もないし、最近の研究結果自体ば科学的根拠が無い、とこき下ろしています。

婦人公論の「副腎疲労」記事はこんな感じになっております

副腎疲労という概念は科学的な根拠が無いもので、定義も曖昧、診断基準もない不思議な医学風用語であることが理解できますね。

一般書籍とか週刊誌・月刊誌が医学記事を掲載すると、それなりに人気があるそうなんで日本で初めて「副腎疲労」という言葉を使ったと思われる媒体である婦人公論の新しい記事をご紹介します。

心とからだの養生学

婦人公論 心とからだの養生学 長引く夏バテ、「副腎疲労」かもしれません[4]

こんな感じで、長引く夏バテにお困りの患者さんに親しみ深く、入り込んできています。

抗ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌が衰えていることが、副腎疲労であり、それが原因で夏バテが長引く、というロジックです。

ストレスをコルチゾールだけで測定することが可能か、さらにコルチゾールが大量に分泌されてそれによって副腎は疲弊するか、などなど海外の論文ではそれ自体が怪しいぞ、と判断されています。

さらに

この状態を医学的には『副腎疲労』と呼びます。まだ一般に知られていないので、一過性の夏バテや疲労だと考え、気づかずにいる方は少なくありません。

と書かれていますが

副腎疲労なんて医学用語はありません❗ということを強調しておきますね。

医師の場合、メディアで取り上げられた病気や病状を心配して来院される患者さんに遭遇することは稀ではないと思います。

もしも、患者さんが「副腎疲労なんですけど」と来院されたら、「なに、それ?」と返すと勉強不足と思われちゃいますので、ある程度はメディアが喜んで取り上げて多用する「医学用語風の言葉」には関心を持っておくことをおすすめします。

参考文献

  1. Ross IL, Jones J, Blockman M. We are tired of ‘adrenal fatigue’. S Afr Med J. 2018 Aug 28;108(9):724-725. doi: 10.7196/SAMJ.2018.v108i9.13292. PMID: 30182895.
  2. Cadegiani FA, Kater CE. Adrenal fatigue does not exist: a systematic review. BMC Endocr Disord. 2016 Aug 24;16(1):48. doi: 10.1186/s12902-016-0128-4. Erratum in: BMC Endocr Disord. 2016 Nov 16;16(1):63. PMID: 27557747; PMCID: PMC4997656.
  3. Marcelo Campos, MD. Is adrenal fatigue “real”?. January 29, 2020. Harvard Health Publishing
  4. 杉岡充爾(すぎおかクリニック院長)その長引く夏バテ、「副腎疲労」かもしれません 婦人公論.jp(参照 2019年10月3日)

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

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