医師が知らないニセ医学【その4】高濃度ビタミンC療法

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ビタミンCは大量に摂取しても害にはならないというのが常識として浸透してしまっている上に、高濃度ビタミンC療法なる治療法を医師が薦めていたら効果あると思ってしまうのは当然です。

信じる・信じないはあなた次第ですなんて無責任なことをいうつもりはございません。

ノーベル賞を2回受賞したライナス・ポーリング博士が考案したとしても、高濃度ビタミンC療法はニセ医学です。

罪作りなノーベル賞を二回受賞したライナス・ポーリング博士

開業医をやっていると、様々なDMが届きます。自費治療を勧めるセミナー方面だと、こんな感じのかなり危なっかしいお誘いもきますよね。

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ビタミンCは身体に良さそう、じゃあ大量に点滴しちゃおう❗

という図式です。

ビタミンCは水溶性だから、大量に服用しても点滴しても副作用は気にしないでいいかも、と判断されている医師もいると思います。

ビタミンCを大量に点滴してがん治療、はちょっとマズイと判断します

そんな治療方法、効果あるわけないじゃん、と思われるでしょうけど、医師で高濃度ビタミンC点滴によってがん治療が可能とのお考えを堂々とネット上に公開している医師や医療機関がかなりあります。中には一回の点滴にビタミンCを60グラムも入れている医師もいるようです。

ライナス・ポーリング博士がビタミンCのがん治療に効果があると述べた論文はこれです。

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上記は「Supplemental ascorbate in the supportive treatment of cancer: Prolongation of survival times in terminal human cancer.」より(PMID:1068480)。

この論文の影響はかなり大きいです、だってノーベル賞を二回(ノーベル化学賞、ノーベル平和賞)も受賞した米国の博士が名を連ねている論文ですから。

掲載されたのが1976年でちょっと古いのが気にはなるけど、古い論文だからといって間違っているとも限らないし⋯。

出来るだけ、新しい信頼度の高いと思われる医学系論文をもとに、ビタミンCの効果効能を検証してみますね。

ビタミンCを服用しても、風邪の予防にもならない

ビタミンCが風邪の予防になる、あるいはビタミンCを服用すると風邪が早く治る、と思っている人が多いように感じます。

別にエビデンス棒を振り回すわけじゃないけど、信頼度が高い、と評価しても問題ないとほとんどの医師が判断しているはずの、コクランレビュー(https://www.cochrane.org/CD000980/ARI_vitamin-c-for-preventing-and-treating-the-common-cold)では

ビタミンCを服用しても、風邪の予防にはなりません❗

との結論になっています。

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こんなことがコクランレビューには書かれています。

  1. 29件の研究を検証、対象は1万1306人 → 風邪に罹ることを防ぐ効果は認められなかった。
  2. 31件の研究を検証、対象は9745人 → 毎日ビタミンCを摂取している人は風邪が早く治る傾向があった。

風邪の症状が出てから、ビタミンCを大量に摂取しても、風邪の症状や重症化を防ぐ効果は無さそうです

コクランレビューの結論

有効であるかは、RCT(ランダム化比較試験)によって検証されるべき

となっています。

ビタミンCが風邪に対して、なんらかの効果がある可能性があるのであれば、どんどこ実用化する前にしっかりと臨床試験で効果を確認してからにしてもらいたいと思います。

もちろんビタミンCでがん治療は無理

ビタミンCだけでは病気を治すことや予防することが厳しいと考えた人々がいたようで、ビタミンCにビタミンEをプラスして、さらにβカロチンを加えた研究が多数あったようです。

その効果をランダム化試験として検証したのがこの医学論文。

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「Vitamins C and E and beta carotene supplementation and cancer risk: a randomized controlled trial.」 (PMID:19116389) より

2009年に発表された論文です。

結論として

ビタミンCとビタミンE、そしてβカロチンはがんの発症率に影響しない

つまり効果無いよ、ということになっています。

こんな論文もありました。「Vitamin C and cancer: what can we conclude–1,609 patients and 33 years later?」(PMID:20799507)によれば

ライナス・ポーリングらはがん患者さん100人にビタミンCを投与して、ビタミンCは生存期間を延ばす、との結論に至った

メイヨークリニックで行われた研究ではビタミンCの経口摂取では、がん治療に効果がなかった

第I、II相試験でもビタミンCの静脈注射は効果がなかった

1591人を対象にビタミンCはがん治療に効果があるか否かは判断できない

効果があるか無いかも判明していないし、どれだけの量だと効果かも判明していないのがビタミンCの点滴治療なのです。

高濃度ビタミンC療法は効果も量もわかっていないと判断しても現時点ではよろしいかと。

ちなみにビタミンEを大量に摂取すると、病気の予防にならないし、病気を治しもしないし、逆に死亡率を高める、なんて結論になってしまった医学論文もあります。

「Meta-analysis: high-dosage vitamin E supplementation may increase all-cause mortality.」(PMID:1553768)によると、

実験等でビタミンEはがんを予防する効果がある可能性が示されている

19の臨床試験の論文をメタアナリシスした。対象は13万5967人

結論 ビタミンEを大量に摂取すると死亡率を高める可能性がある

となっています。

効果がありそう、なら大量に使っちゃえ、は下手すりゃ死亡リスクを高めてしまう可能性があることを、医師は患者さんに十分に伝える必要があると思われます。

ビタミンCの副作用

ビタミンCは水溶性だし、重篤な副作用は無い、と受け止めている患者さんが多いように感じます。医師の中にも、「ビタミンCだから大丈夫かな」と判断している人もいないわけじゃ無いと(だからこそ、高濃度ビタミンC療法が一部の医師に愛されているのかも)。

でも、ビタミンC摂取時に注意しておく必要があります。

例えばビタミンCを大量に服用すると、腎結石のリスクが高まる可能性があります。

「Ascorbic Acid Supplements and Kidney Stone Incidence Among Men: A Prospective Study」(JAMA Intern Med.2013.Mar 11)によれば

前向きのコホートで腎結石のリスクとビタミンCサプリの関係を調べた。対象者は4万8850人

11年間の追跡調査により、ビタミンCを摂取すると、腎結石のリスクが2倍になる

との結論になっています。ちなみにマルチビタミン剤は腎結石リスクに影響していませんでした。

日本でも症例報告としてビタミンCと腎機能障害の関連性が疑われる論文があります。

「Supplement nephropathy due to long-term, high-dose ingestion of ascorbic acid, calcium lactate, vitamin D and laxatives」(PMID:16175950)ではビタミンCを一日6グラム、乳酸カルシウムとビタミンD、そして便秘薬を服用していた48才の女性が腎機能障害を発症した、と報告されています。

この論文だけではビタミンCが原因とは言い切れませんが、医師はビタミンCを服用する前に医療機関を受診して腎機能のチェックをしておくように患者さんに伝えておいた方が良いかも。

ビタミンCは身体には良さそう、だとしてもビタミンCでがんなどの手強い病気を治す、との言質は間違いであり、経口摂取だとしても副作用があることを患者さんだけではなく、医師も知っておいて欲しいです。

となると、高濃度ビタミンC療法を積極的に行なっている医師ってなんなのだろう???

こんな医師もいます「超高濃度のビタミンCは抗ガン剤の一種です」⋯危なっかしいなあ。

おまけ

あまり言いたくないことなのですが⋯ライナス・ポーリング博士、そして奥様がどのような病気で亡くなられたのか、各自、自分なりに調べてみてください。

お時間があれば、これもお読みください。

高濃度ビタミンC点滴療法、「がん治療に効果が無し」には医学的根拠が多数あります。

高濃度ビタミンC点滴療法、「がん治療に効果が無し」には医学的根拠が多数あります。

現時点で効果があることを明確にした、科学的医学的根拠はありません。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

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