医師が知らないニセ医学【その1】 EM菌の医療への応用はトンデモだよ

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「トンデモ」という言葉が様々な分野で使用され、受け止められ方も本来の意味と違ってきている印象も無きにしも非ずですが、それはそれでおいておきます。ニセ医学という言葉は直球的にインチキ医学あるいやデタラメ医学を意味するので、温和な私としてはあまり関わりたく無い、しかしいつかブログにしなければいけない、と判断していたものにEM菌という不思議な物体があります。

このEM菌はもともと土壌改良とか汚染水改善等に使用されているもので、農産物の育成にも使われ素朴な地方の道の駅などで見かけることがあります。

医師は患者さんがEM菌愛用者だったらどう対応するか?

道の駅でEM農法による食材を見かけたので購入してみました。

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EM菌の体に対する効果・効能は判定不可でしたが、美味しかったです。

念のためにEM菌を使用していないものもゲットして比較試験もしましたが、n=1のため判定は不可。

農産物に対しての効果はその方面の専門家にお任せしますし、汚染水問題に関してもそっち方面の専門家の判定を参考にしてください。

しかし、もしも医療関係者が病気を治す目的で患者さんがEM菌を服用していたら、どのような対応をすれば良いでしょうか?

EM菌愛用者に対する医師の正しい対応方法はEM菌の服用によって病気を治すことは、利益より不利益の方が多いですよと答えることだと考えます。

まず、EM菌とはどのようなものであり、医学常識で真っ当なものかを医療関係者、特に日常の診療に当たっている医師に知ってもらいたと思います

EM菌ってどんな菌なの??

私は専門では土壌等の件に関しては専門では無いのは当然ですが、平成30年8月9日に当時の環境省副大臣の会見が参考になるのではないでしょうか?

EM菌を団子状にしたものを投げたことに関して、改めて御所見お願いしたいと思います。

との質問に対して副大臣は

水質浄化に効果があるとの科学的検証データがないということがわかりまして、私としては出しましたものを削除をしたということでございます。

伊藤副大臣記者会見録

副大臣の水質浄化に対する科学的検証データは無いとの発言、これポイントです。

これと同様にEM菌が人体に対して、なんらかの病気を治す、との科学的検証データはありません。

有用微生物群をEM菌とよびます

EM菌のEMは「Effective Microorganism」の頭文字をとって「EM菌」とか「EM」と呼ばれています。「Effective Microorganism」は日本語としては「有用微生物群」と訳されています。ここで一点問題が出てきました。

実はこのEM菌は1982年に比嘉照夫琉球大学名誉教授によって発明か発見されてものであり、日本語を英訳したものが「Effective Microorganism」です。

初めてEM菌という言葉を知った医師の自然の行動として、EM菌に関連する論文を探すと思われます。

日本語ならば国立情報学研究所 (NII) のCiNiiが私のような開業医には便利です。論文が英文になっていないか探す場合は多くの医師はpubmedを使用すると思います。

CiNiiでEM菌を検索するとEM (有用微生物群) で検索すると、なんと福島の放射能汚染対策にも効果ありと

一気にこれはトンデモだろうね、と判断できる論文が見つかります(本来ならニセ科学なのでしょうけど、土壌に関しては私は素人なんで)。

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しょっぱなからトンデモ認定して間違いなさそうなEM菌ですが、医学的な治療効果に関しては詳細なクオリティの高い論文には日本語ではたどり着けませんでした。

ちなみに「医学誌に掲載!」とか「学会で発表された」といわれると多くの人は効果が証明されたと誤認してしまうことに医師は注意して診療にあたる必要があります。

こんな記事があります。

EM菌は全身に転移した直腸がん患者さんを直しちゃった⁉

梶川病院院長の梶川憲治医師による驚くべき報告です。

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健康に対するEM-Xの活用と医療効果 (https://www.hondanojo.com/emxiryou.htm) より

一方で、医師がプロっぽくpubmedでEM菌を検索すると思います。結果的に開発者の名前とEffective Microorganismで検索すると7本の論文が結果として現れます。

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この結果の論文を読んでみると、どれも臨床試験をいうより基礎実験のものです。「Clinical Trial」のフィルターをかけると

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はい、結果はゼロ。EM菌による臨床試験は行われていたのかもしれませんが、英文の論文にはなっていません(こんなの臨床試験試みようと思っても倫理委員会が許さないと思うんだよねえ)。

直腸がんが全身に転移して、EM菌を含む飲料を摂取したら治った、という衝撃的な症例も残念ながら英文はもちろん日本語の論文にさえなっていません。

標準治療を行っている医師が効果が症例報告レベルでさえ論文になってないものを患者さんに、「効果ありますよ」と言ってしまうことは通常はありえませんよね。

お医者さんが言っているから、EM菌関連商品はがんにも効果あるの?

実際にご自分が病気、それも標準治療で100パーセント治療可能でない場合、多くの患者さんは他の治療法がないか、と調べます。これは当然のことだと思われます。

普通の人は論文検索サービスは使用しませんので、一般書籍・雑誌・友人の話などを信頼たる情報源として活用します。

例えば前述の直腸がんが治った、との話は「ゆほびか」という健康関連月刊誌に掲載されていたようです。

この「ゆほびか」は民間療法が中心の雑誌なので、医師で見たことある人は少ないと予想します。私はこの「ゆほびか」は定期購読しています。

ゆほびかは「金運アップ」とか「龍とつながってお金持ちになれる」とか、医師が論文や後援会のスライドで引用することはまず無い内容がかなりの量含まれていて、参考文献としてのクオリティは医学系ではかなり低いものと判断してよろしいかと(金運やつながり方面のクオリティに関しては知らん)。

でもね、一般の患者さんにとって医師が本で述べたことはクオリティが高い❗

ということになっちゃっているんですよ〜(泣)。

患者さんがEM菌を愛飲していたら、ぜひ尋ねましょう、その主成分はなんですか?

多分、多くのEM菌愛飲者は「EM菌です」と答えるでしょうね。じゃあ、そのEM菌はどんな菌なんですか?と尋ね返すとEM菌は善玉菌です❗と元気よくお答えになるでしょう。

さらに続いて、「善玉菌ってどんな菌が含まれているの?」と尋ねた瞬間に患者さんはバッタっと立ち上がって、ビシャッとドアを締めてお帰りになる率が90パーセント以上です(当院調べ)。

うまくコミュニケーションが取れた場合、患者さんは「体に悪い成分じゃないなら、飲んでも平気ですよね?」と返してくるはずです、だって有用微生物だし、善玉菌だし、

EM菌を分析してみたら、こんな結果に

EM菌に含まれる微生物を検証した科学者がいます。その方が運営しているサイトにこんな記事が掲載されています。

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http://warbler.hatenablog.com/entry/2018/12/06/202337より ※片瀬先生、これひょっとして著作権等に抵触する場合はご連絡ください。

EM菌はごっちゃごちゃな複数の微生物でいっぱい❗

との感想を医師だけじゃなくて、患者さんもご納得いただけるのではないでしょうか?

こんな微生物の集合体によってがんが治るはありえません❗ と患者さんに医師は明確に答えてくださいませ。

EM菌は着々と拡散しているようです

冒頭でEM菌からみのブログはあまり書きたくない、と述べました。というのも、信仰という微妙な問題が絡んでくるからです。書きたくない、と言いつつ密かにこんなブログをすでに書いちまっていました。

混ぜるな危険❗EM菌で鼻うがい⁉危なっかしくてドキドキしちゃうぞ?

混ぜるな危険❗EM菌で鼻うがい⁉危なっかしくてドキドキしちゃうぞ?

さらに

上流域にお住まいの「EM菌撒き散らしオバサン」、医師としては健康被害が心配です。

上流域にお住まいの「EM菌撒き散らしオバサン」、医師としては健康被害が心配です。

さらにこんなのも

医師諸君、今後は怒りながら抗生物質を処方しよう❗菌は怒っている人の前じゃ発酵しないらしいから(爆)

医師諸君、今後は怒りながら抗生物質を処方しよう❗菌は怒っている人の前じゃ発酵しないらしいから(爆)

自然派であろうと、丁寧な生活であろうと、個々を責める気持ちは本当にありません。自分が満足すりゃそれでいいじゃん、なのですが、なぜかこの方達は拗らせてしまうと、セミナーなどを行ってしまう傾向がかなり強いです。

そんな純真無垢な前向きの方々がEM菌を愛用していた場合、「お医者さんも健康に良いって言っていましたよ」とか「EM菌で全身転移したがんが治った人がいるって医師が本に書いていましたよ❗」と言いだした場合、このブログを参考にしていただければ。

タイトルに「その1」と書いたので、多分「その2」もあります笑

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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