まだ関東は梅雨の真っ盛りです。この時期になると「水分補給をして熱中症に注意!」「あまり節電にこだわらないで適切な室温を!」と注意喚起をしばしば見かけます。特に今週の週末は「じめじめムシムシ」の気候になるために、本州全体が「熱中症の警戒地域」となっています。
本記事の内容
甘くみないでください!熱中症には要注意!
週末は屋外でスポーツ等をするために、熱中症になってしまう人が多くなるのですね。日常に診療でお年寄りは「寒いのは我慢ができるけど、暑いのはかなわない」と言います。確かに年を取ると、夏場の方がキツイようで「冬は寒ければ服を重ねればいいけど、夏は・・」なんて会話が増えてきます。
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気温と病気、気温と死亡の関連が気になったので少し調べてみました。
暑いより寒い方が生命に関連していた、長生きしたけりゃタイに移住しよう⁉
ランセットという権威ある医学専門誌に「Mortality risk attributable to high and low ambient temperature: a multicountry observational study」 (DOI:https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736 (14) 62114-0/fulltext) という興味深い投稿を見つけました。これはオンラインでどなたでも見ることのできるオープンアクセスなので、雨だし蒸し暑いし外は嫌だ、と週末に暇を持て余している方は是非ごらんください。
この論文によると
・1985年から2012年に世界中で死亡した7422万人を調査
・対象は13カ国、384都市
・死亡率が一番低い気温をもととして、高気温・低気温に分けた
・全死亡の7.7パーセントが気温に関連した死亡だった
・タイは一番気温のリスクが無い
なんだかわかったような、わからないような内容(私の英語力の限界かな)ですが、少し整理してみます。
中国・イタリア・日本人が気温関連で死亡するベスト3
気温に関連して死亡した人の率を国別に並べると
・ワースト3は 中国 11.0パーセント、イタリア 10.97パーセント、日本 10.12パーセント
・ベスト3はタイ・ブラジル・スウェーデンの3パーセント
となっています。それぞれの国別の気温を極端に暑い日、極端に寒い日を上位・下位2.5パーセントに分けて考えましたが、その気温での死亡は意外と少なく、死亡者のほとんどは「低気温」に関連していました。
普通の考え方は極端な暑さ、寒さ(この論文だと上下2.5パーセント)に死亡者が増えそうな気がしますが、調べてみると違うんですね。気温に関連して死亡した人のほとんどは極端ではない低気温に関連していました。
熱波や寒波より普通の寒さに注意が必要⋯でも因果関係ではないなあ。
この論文をよくよく読むと、気温に関連して死亡した人は全死亡者の7.7パーセント、そのうち低気温と関連していた死亡者は7.29パーセントですから、寒さの方がよりつよく死亡と関連しているということは言い切れます。
しかし、このような医学統計(疫学の分野)は相関関係にあっても、因果関係にはなっていないので困ります。寒さを予防すれば死亡者が減る、ということが証明されれば因果関係にあると言えるのです。細かい条件を決めて、長期間に観察調査することによって、相関関係の中から因果関係までもちこめるデータもあるにはあるでしょうけど、人間の場合、もろ実験というのは人道的に許されませんし、健康や寿命に影響を及ぶす因子が多すぎて確実なものはほとんどありません。
健康情報で「なになにを食べれば長生きする」「なになにを習慣にすれば死亡率が下がる」というのがあります。しかし、これらのセンセーショナルな情報の多くは相関関係のデータを拠り所としているものがほとんどであり、因果関係にはありません。自己啓発本の多くは「お金持ちはこんな習慣がある」「できる男はこんな特徴がある」なんて感じのタイトルで占められています。
例えば天才は左利きが多い、というデータがあってもそれは相関関係であり、左利きにすれば頭が良くなる、と解釈すると人生の多くを無駄にしてしまいます。
今回の気温と死亡の論文をもとに「死にたくなければタイに移住しよう」という本を書く方が出現するのではないでしょうか?ちなみにタイの死因の第2位は「事故」ですけれど⋯(日本看護科学学会のデータベースより)。
「タイ中部 チャアム郡下でワゴン車横転 http://blogs.yahoo.co.jp/karui_thai/12627079.html」より タイの事故は派手です。
世の中にはある医学データの一部を取り上げて、相関関係であるものをさも因果関係のように報じたり、それをもとにし本が書かれています。今回の「気温と死亡数」の論文を是非お読みになって(Google翻訳でもある程度の意味はわかりますから)、梅雨の週末の時間つぶしにご利用ください。