ニセ科学・トンデモ系ニセ医学を主張する人の特徴は統計と数字に弱い、ということです❗

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フッ素入り歯磨きはダウン症やガンの原因⁉という報道がありました。このニュースを報じたサイトではフッ素の危険性をトンデモない理屈で述べられていました。フッ素有害説・フッ素は虫歯の予防にならない説等を調べている際に、フッ素の害毒を主張されている、権威らしい方の話のなかで、誰が見てもどう見ても計算間違いというより、統計学自体を理解していない可能性が否定できない記述がありました。身近なフッ素入り歯磨き粉を例に詳しくみていきましょう。

異説を振りまく人々に共通する点・特徴がその記述中にあり、それは「計算音痴で統計学を理解していない」

クリニカアドバンテージ_ハミガキ–製品ラインアップ–ライオン

フッ素は虫歯予防効果はないそうです、彼らの主張によれば⋯でも間違っています、彼らの考え方は。

フッ素入り歯磨き粉は危険!がんや骨肉腫、ダウン症の原因との指摘も_-_エキサイトニュース_1_2_
http://www.excite.co.jp/News/より 今回のブログを書く切っ掛けをいただいた、某医療ジャーナリストさんの書かれた記事です(この主張に対する反論は後日行う予定です)。

多くの信者さんに支持されている某精神科医も確かフッ素の害毒説を唱えていた記憶があります。海外では虫歯予防のためにフッ素を水道水に添加していて、それが様々な病気を引き起こしている、という論陣をはる一派が存在します。

そりゃフッ素だって高濃度になれば人体に害を引き起こすことは十分に考えらえますが、「なになには食べてはいけない」論を著作で述べている方、「添加物はなんでも有毒」説を唱えている方に共通しているのが有害成分の濃度をあまり考えていない点です。マウスなどの小動物に投与されて有害であった場合は人体の体重に換算して有害性が現れる量を計算すると常識的物理的に経口摂取が不可能である場合も多いのです。

ニセ科学・擬似医療・トンデモ医学系の人って計算する手間を惜しんでいるのか、あるいは計算・統計学が苦手であることが多いことに注意が必要です。

例えば医療業界の奇人である近藤誠医師はがんの成長速度を記述するさいに、明らかな間違いを犯しています(詳細は 数字で考えるとわかりやすい、近藤誠氏の「がんもどき本」は間違いだらけ❗追記あり をごらんください)。

科学的医学的に全く効果が期待できないホメオパシーに利用されるレメディーもちょっと計算すれば、トンデモない考え方であることがご理解いただけるはずです(これまた詳細は 偽医療の典型「ホメオパシー」とはどのような治療方法か?その2 計算してみればわかるインチキ医療 を読んでみてください)。

フッ素有害論の権威?とされている方の講演記録を見つけて「やっぱり変な説を唱える人は統計や計算に弱い」ということを再確認しましたので、どんな点で間違っているのかをわかりやすく解説します。

科学者としてフッ素に反対しているコネット教授の計算方法はこんな感じです⋯明らかに間違っています

これはネット上にあった「化学者としてフッ素化に反対する。その理由は、フッ素は歯に悪く、体に悪く、そのうえその科学は極めて悪質だからだ」という講演記録です。

水道水にフッ素を加えた場合の虫歯予防効果はほとんどない❗との主張をされています。講演記録によれば

虫歯の発生率を歯面数で比較し(DMFS) 、17歳児のその数をフッ素化地区で2.79、非フッ素化地区で3.39と報告しているのですが、その数字の差、つまり0.6が、フッ素化による虫歯の抑制効果という事になります。子供の口の中の歯面数は128ある訳ですから、この効果をパーセントで表すためには、0.6÷128×100=0.47%となるのは誰にでも分かる道理です。この0.47%を果たして予防効果と呼ぶことができるでしょうか。

多分、次のような考え方をコネット博士はしているのでしょう。
歯を四角形と考えそれぞれの歯が4面ある(奥歯なんか噛み合わせの部分もあるんで5面のような気がするんですけど)
→大人の歯の数は32本、だから歯面数は4×32=128面
→フッ素使用で虫歯は2.79面、フッ素不使用で虫歯は3.39面
→両者の差はたった0.6面じゃん❗
ここまではこのデータの元となっている1986-87年にアメリカ国立歯学研究所の間違いがなければ、コネット博士の言い分に間違いはありません。しかし、次の計算っておかしくないですか?

なんで0.6÷128×100=0.47%という数字が飛び出してくるの?

フッ素を使用していて虫歯になった人は

  • 2.79÷128=0.0218

つまり、2.1パーセントの歯面が虫歯になっていたってことですよね。

一方、フッ素を使用していなかった人は

  • 3.39÷128=0.0265

2.7パーセントの歯面が虫歯になっている、と計算になります。

小数点以下の処理の違いはありますけど「フッ素を使っても0.47パーセントしか虫歯を予防できていないじゃん」という風に解釈しています。博士の計算に間違いは無いのですが、統計学的手法としては明らかに間違っています。なぜ、博士はこんな見解を取ったのでしょうか?

彼は統計学を知らないのか、あるいは知っていてわざと間違った回答を導き出している可能性があります。

予防効果を判定する有効性の計算方式くらい勉強してから講演しようよ!

統計学で有効性を示す方法として「Relative Risk Reduction」(相対リスク減少)が使用されます。予防によってどれだけ発症率が減少したかを見るための統計学的手法です。例えば
予防した人1000人中10人が発症した場合、発症率は1パーセントになります。一方、予防しなかった人1000人中20人が発症した場合、発症率は2パーセントになります。この場合の相対リスク減少は
(2-1)÷2=0.5
これをパーセントで表示すると50パーセントも発症リスクを減少させたことになるんです。ですから、コネット博士のように歯面128で割る必要性は全くありません。米国のフッ素予防効果を相対リスク減少で計算し直すと
(3.39-2.79)÷3.39=0.177
であり、パーセントで表示すれば18パーセントの予防効果が認められます。

米国政府の見解とコネット博士の見解の違いは、両者の提示した数字の違いからこの「相対リスク減少率」を知っているか、知らないかによって起こった、と考えられます。しかしコネット博士の考え方は、故意か故意じゃないかは別としても統計学としては間違い❗なのです。

科学者は常に従来の常識を疑っていますし、権威のある説に対しても検証を繰り返しています

科学者(医師も含ませてください)は全面的に常識を信用しているわけではありません。権威を全面的に信頼しているわけではありません。ニュートンは偉大な科学者であったことはどなたでもご存知だと思います。

科学の進化によってニュートン力学だけでは説明ができない現象が観察され、世界中の科学者はニュートンの間違いを見つけようとしました。

ある特殊な条件下でニュートン力学が成り立たなくなったことを見つけたのが、あのアインシュタインの特殊相対性理論と一般相対性理論なんです。ニュートンが間違っていたわけではなく、ニュートンが説明できなかった事象を補完したのです。

そのアインシュタインの理論でさえ重力波が存在しないと説明できないので、テイラーとハルスという人が間違い探しに挑戦しましたが(当時多くの科学者は彼らを応援していた、つまりアインシュタインの理論を否定したかった)、一般相対性理論の予想と厳密に実験結果が一致していることが確認されました。

でも、量子力学という分野の考え方では一般相対性理論では説明しきれない場合があるために世界中の科学者が知恵を絞っているのです。

科学者がある説を唱えると、世界中の科学者がそれに注目して粗探しをします(STAP細胞がそうでしたよね)。科学者が権威ある人に言われたことを「ハイ、ごもっともです」と素直に解釈していたら科学は発展しません、つまり科学者って最も疑い深い人種でもあるのです。

コネット博士の米国政府のフッ素の虫歯予防効果に対して疑義を持ったことは科学者の姿勢として評価できます。しかし、まずは統計学を勉強してから反論をするべきでしたね (フッ素の有害性については今回のブログでは論点とはしません)。

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著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

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