ニキビ治療の新薬「デュアック配合ゲル」、過酸化ベンゾイルとクリンダマイシンが入っているけど⋯。

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日本では薬として承認されていなかったけど、世界的にはニキビ治療の標準成分とされている「過酸化ベンゾイル」(略してBPO)。このBPOを含むニキビ治療薬が厚労省によってやっと承認された2015年、ニキビに悩まされている人にとっては喜ばしい年となりました。今回の記事は、ニキビ治療の新薬「デュアック配合ゲル」についてです。

デュアック配合ゲルはニキビの特効薬??蛇足じゃないの?

世の中でニキビ治療に欠かせない薬として知られていたれレチノイド(皮膚にとってはターンオーバーを早め、表皮が綺麗になる)様の作用をもったアダパレンを主成分とするディフェリンゲルが数年前に厚労省に承認され(これでさえ世界的には数十年遅れ)、さらに過酸化ベンゾイルを含むベピオゲルも本年4月に承認されてニキビを効果的に保険診療で治療することが可能になりました。

そして2015年5月から「デュアック配合ゲル」という過酸化ベンゾイルにニキビに対する抗菌剤として使用されているダラシンTゲルの主成分クリンダマイシンまで加えた、一見優れたニキビ治療薬の登場です。

医療用医薬品デュアック配合ゲル

なぜ一見かというと、ニキビ菌治療に対する問題点は耐性菌。同じ様な作用機序の抗菌剤を使用し続けると、ニキビ菌の中からその抗菌剤に対して対抗する能力をもっている「耐性菌」が出現してしまい、ニキビ治療を困難なものにしてしまう可能性があるのです。過酸化ベンゾイル単独なら「にきび治療の特効薬登場❗」と言えるのですが、そこへクリンダマイシンを入れ込んでしまったデュアック配合ゲルは抗菌剤をプラスしたことが「蛇足」なんじゃないか?と素朴な疑問をもったしだいで⋯。

ベピオゲルの特長は「耐性菌の心配がない」なんで、デュアック配合ゲルには一抹の不安が残ります

デュアック配合ゲルはグラクソスミスクラインという世界的巨大メーカーの薬ですが、このグラクソスミスクラインは泌尿器系の薬も販売していて、どちらかというと当院としては付き合いが深い製薬メーカーです。今まで散々文句を行ってきたボトックスビスタ及びまつ毛美容液グラッシュビスタを販売しているアラガンという製薬メーカーも常に情報交換をしている会社ですので、これらの会社に敵対する意味でブログを書いているので無いことをご理解ください。

新薬・特効薬をいかにみなさんが正しい理解の元に有効に使用していただけるように、との思い出書いているのです。

さて過酸化ベンゾイル単独を主成分としたベピオゲルの売りの一つとして「抗菌剤を使用しないために耐性菌が出現しにくい」という点があります。にきび菌として知られる「アクネ菌」は空気を嫌う嫌気性菌なので、酸化させる力を有する過酸化ベンゾイルが効果的ににきび菌を殺菌してくれます。ベピオゲルの販売元のサイトによれば

海外では、1960年代から尋常性ざ瘡治療剤として使用されている薬剤であり、一般用医薬品としても様々な濃度、剤形の製品が販売されていますが、現在まで、薬剤耐性菌の報告はありません。

マルホ医療関係者向けウェブサイト

にきび治療に抗菌剤を乱用するとアクネ菌だけではなく、肌の常在菌に対しても耐性菌の発生を促してしまいます。

今現在処方箋無しで購入できる「抗生物質入りの塗り薬」って実は耐性菌の出現によって効果が極端に悪くなっています。にきび治療を困難にしている原因の一つとしてアクネ菌以外による皮膚の感染があり、とびひの原因菌としてしられる皮膚の常在菌である「黄色ブドウ球菌」等が治療抵抗性のにきびから検出されることもあります。クリンダマイシンを主成分とするダラシンTゲルが効果を発揮すると考えられている菌種として「ブドウ球菌属、レンサ球菌属、肺炎球菌、ペプトストレプトコッカス属、バクテロイデス属、プレボテラ属、マイコプラズマ属」があります。

ダラシンTゲルで効果がなかった場合はにきびの原因菌である、アクネ菌以外のこれらの菌が耐性を獲得している可能性が大きいのです。

デュアック登場で今後のにきび治療の戦略は?

表皮のターンオーバーを早めて、角栓を少なくするディフェリンゲルは保険診療でにきびを治すならマストアイテムです。一方で肌がヒリヒリする、肌がカサカサする、などの副作用というか随伴症状が80パーセント以上に出現するために、効果はあるけどディフェリンは使いたくない、という患者さんも多く見られます。また、動物実験ですが催奇形性の問題も見落とせません。BPOを主成分としたベピオゲルも抗菌作用と角層剥離作用を兼ね備えていますので、ヒリヒリ感、皮膚がパラパラ落ちる落屑症状が出現してしまいます。

抗菌剤によってにきび菌を退治しつつ、BPOによる抗菌作用まで期待してしまった「デュアック配合ゲル」はこれ単独で非常に有効である場合もあるでしょう。しかし、効果がないばかりではなく、随伴症状・耐性菌の問題を考えると「配合」しなかった方が使い勝手の良い処方薬だったような気もします。

にきび菌に対する抗菌剤は短期間の使用に止め、その後はディフェインゲル、あるいはベピオゲルを使用してにきび再発を防止する。抗菌剤を飲むことに抵抗感を感じる方はデュアック配合ゲルを使用する期間をなるべく短期間にして、耐性菌の出現を招かないようにすることが重要になります。

当院の今後のにきび治療は?

やっと世界基準に達した日本のにきび治療です。副作用・随伴症状・副反応を十分に理解して、わかりやすく説明すれば一般の皮膚科でも多くのにきびは治療が可能となります。しかし、当院は厚生労働省が承認していない時期からディフェリンやベピオゲル系の薬を自由診療で行ってきました。それでなかなか治らないにきびに対してはレーザーやピーリング等の保険診療でカバーできない治療方法を長年行ってきています。治りやすいにきびは一般の皮膚科でも治療可能なので、なにも当院に遠方からいらしていただく必要も今後なくなってきます。

2015年4月から、にきび治療は難治性のもののみ、保険外の診療に専念するようにしています。もしも一般の皮膚科で保険でにきびを治療しながら、「ピーリングもどうですか?」と言われた場合、それは明らかに混合診療になってしまいますので、ご注意ください。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

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