化学的に合成された物質を食品に入れない、ことを売りにしたレストランや食料品店があります。福島原発以降は新しいトレンドとして、放射性物質に汚染していない食材を厳選して食べ物を提供販売するお店も出てきています。そのなかで「ベクレル・フリー」という新語を標榜してパンを製造販売していた店が残念ながら閉店するって話が朝日新聞が取り上げています。
本記事の内容
無添加を売り物にしたパン屋さんが閉店、ところでベクレルフリーってなんだ??
⋯こんな機器で放射性物質の「ベクレル」を測定します。
この「ベクレル・フリー」って言葉自体に違和感を抱き、この閉店したパン屋さんのご主人がブログで「愚民」といういう言葉を使用しているのに気づきました。「愚民」という言葉はFacebook等で活躍している「あっち系に行かれてしまった医師」が拡散している言葉であり、疑似科学信仰者がその医師の影響を受けて有り難がって使用する造語です。無農薬・化学肥料等を使用しない厳選された原料でパンを作っている真面目なオジさんのパン屋さんが惜しまれつつ閉店した、って朝日の記事にかなーり違和感があったので、フランスのテロ事件のように言論の自由は尊重しつつも、疑似科学について検討をしてみます。
そもそも無添加ってどんな定義があるんだろう??
無添加、無添加って言っても無添加の定義ってあるんだろうか、と調べて見ました。厚生労働省によれば食品安全委員会の見解として
食品添加物の表示は、食品衛生法によりルールが定められ、原則として量の多少に関わらず使用されている添加物の名称を表示することとされております。
厚生労働省食品安全委員会
それに続いて、
「無添加」である旨の表示については、製造業者等の任意の表示ではありますが、消費者が誤認を生ずることのない表示が求められています。食品添加物の表示については、農林水産省と厚生労働省が共同で開催し、表示
厚生労働省食品安全委員会
制度全般について御議論いただいている「食品の表示に関する共同会議」においても、検討いただいているところです。
となんだか意味不明の文章に誘導されてしまうんです。ここから食品添加物の表示についてってところに飛ばされて、その文章がまた意味不明というか非常に難解。つまりどのような状態を無添加といい、なにを添加物とするか明確な定義は存在しないということなんです、実は。
一般的に考えられているのは無添加の意味は自然界にもともと存在しない物質を食品に加えていないというイメージだと予想します。人工的・化学的に合成された物質は危険であり、天然の物質は安全、との単なるイメージ・思い込みが無添加食品は安全で健康的と捉えられていることで間違いないようです。そこへ「ベクレル・フリー」パン屋さんの登場です(残念ながら退場しちゃいましたけど)。
このパン屋さんのビジネスモデルは「美味しんぼ」の例の鼻血事件(関連エントリー 水分子が放射線で切断されて過酸化水素になって, 鼻血の原因になるのは本当か??❗)と同様に人体に悪影響が考えられないレベルの放射線を「怖い、怖い」と煽っている反放射能ビジネスの終焉の始まりなのかもしれません。
カビが生えない山崎パンは添加物がイッパイ、という与太話
ネット上で山崎パンのパンは一週間放置してもカビが生えない、街の手作りパン屋さんのパンはすぐにカビが生えるのに、これは山崎パンにたっぷりと防腐剤などが添加されているからだ❗という極端な生物学音痴の情報が拡散されている話は割と有名ですよね。答えとしては
ヤマザキパンでは製造過程で厳重に雑菌などが混入しない環境でパンを製造している
だから、袋を開けない限りなかなかカビが生えない、という単純な理由です。
一方、街のパン屋さんの手作り無添加?パンは製造過程で雑菌が混入しまくっている為にカビが生えやすい、という当然の結果なんですけどね。この山崎パンにカビが生えないことを大々的に問題視している一派と今回のベクレル・フリーパン屋さん、同じ様な空気を醸し出しています。
ベクレル・フリーのパン屋さんはやっぱりあっち側の方のようで⋯
基本的に医学について、いい加減なオカルト話を振りまいている人に対してはブログで反論を掲げ、一般の方の医学に対する誤解は個人攻撃をしないで、優しく間違いを訂正するスタンスをポリシーとしています。しかし、今回の無添加話から始まって「ベクレル・フリー」に到達したわけですが、このパン屋さんはブログで「愚民」という造語を使いまくっています。この「愚民」は「ぐーみん」とも呼ぶようで、内海聡なる医師がSNSで使いまくっているので内海医師の影響をこのベクレルフリー、無添加パン屋さんは受けていることが当然予想されます。
定義さえ明確ではないものを対象に論議を進めて行くと、間違いなくトンデモ系の方は「ガリレオ詭弁」という方法で反撃してきます。今の科学では認められないけど、将来はこの論理が一般的になる、といった感じの論法です。実際に存在しえないものを見た、体験したという人に、無いものを無い、と証明するというか、論理立てて理解してもらうことは非常に高度な知識とわかりやすい説明が必要です。
ここで素朴な疑問です。
無添加・ベクレルフリーである場合、「無いもの」をどのように調べて、無いと証明しているの?
パン屋さんが無添加と主張するには、添加物と考えている何かがパンの中に全く存在しない、あるいは放射性物質の存在を裏付けるベクレルを全く検出しない、つまりフリーである、ということをどのような方法で調査して、どのように無いものを無いと証明していたんですか?なにを根拠に「ベクレル・フリー」「無添加」を売りにしていたのでしょうか?
放射性物質がどれだけ含まれているかを判定する機器も検出する精度に限界があります。現時点では時間をかければ1ベクレル程度の精度で検出可能です。でも、0.1ベクレルは検出できないので、放射性物質が全く無い、という意味で「ベクレル・フリー」と宣伝してたのなら、消費者庁の言うところの「優良誤認」に引っ掛かりるんですけど。