ボトックスは私たち美容系の医療機関では、シワを延ばす注射薬として10年以上前から当たり前の治療方法として利用されてきました。
近年ボトックスの筋を緩める作用を応用して脳梗塞後麻痺して硬くなった筋肉を柔らかくして、 リハビリの補助として使用する方法が行われています。
しかし症状を十分理解していないと患者さんの期待を裏切ることになってしまいます。
罪作りな健康情報番組NHK「ためしてガッテン」
ボトックスであたかも脳梗塞で起こってしまう後遺症の麻痺が治ってしまうかのような取り上げ方でした。
手足が不自由になる場合、痙縮(ケイシュク)と拘縮(コウシュク)の二種類があります。痙縮はなにがしらの神経命令経路の障害によって筋肉の緊張状態が過度になっている場合です。拘縮は関節を取り巻く筋肉などの軟部組織が固くなり関節の動きが悪くなることを指します。
美容で使用するボトックスはおでこのシワなどを強調してしまう、筋肉の過緊張を解き放ってシワを作らないようにすることによって目的を達成しています。
でも
「ためしてガッテン」の取り上げ方ではあたかも攣縮も拘縮も改善して動かなかった手足の麻痺が治ってしまう
と受け止めちゃうような内容でした。
NHKのバラエティ系健康番組は医師の間では非常に不人気です
テレビでの放送後、整形外科・リハビリを行っているクリニックでは、期待に満ちた患者さんが殺到しました。
ほとんどの方がボトックス治療で動かなかった手足が動くと解釈しての来院でした。
ボトックス治療は痙縮を緩和する治療であることや筋肉が縮むことを抑える働きがあるため、
筋力の回復は望めませんし、逆に筋力が低下する可能性もあることを伝えるために
大変な労力が必要とされました。
「麻痺が治るわけではない」
といくらいっても希望を捨てきれずに治療を希望した場合、
結局のところ効果が表れなかったとがっかりした姿の患者さんを見なければいけないのです。
ボトックスの効果は限定されています
痙縮によって起こっている麻痺には期待ができますが、拘縮に対しては効果はありません。
聞いた話なのですが、ある先生が「⋯・が治ることが期待できます」とTVでコメントしたところ「⋯が治ります」と発言の修正を求められたそうです。
テレビは最初から最後までみんながずーっと見ているわけではありません。
チャンネルをガチャガチャ変えていてたまたま面白そうな場面だけみて、
結論までは見ないでチャンネルを変えてしまうかもしれません。
健康番組をバラエティー番組的に取り上げる場合は、録画して最初から最後までじっくり視聴する必要があります
まあ、多くの場合、録画してみるほど貴重な情報はないですけど(笑)
もしもTVで気になる健康情報があったら
ぜひ、チャンネル・放送日を記録して掛かりつけの医師に相談してください。
新聞・雑誌の場合も現物を持参するか、コピーを持ってきていただけると適切なアドバイスができます。
治療に必要なことは患者さんがどうしたいのか?という目的とその治療がその症状に適応があるのか?
これを見定めるのが医師の仕事なのです。
情報番組はバラエティー番組として視聴していかないと、過度な期待を医療に持ってしまってガッカリすることになります。