ノロウイルスは空気感染する、という話は本当か⁉

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毎年冬になるとノロウイルス感染とインフルエンザウイルス感染が話題となります。

インフルエンザはワクチンの予防接種を行うことにより重症化・集団感染が防げることは医学的・疫学的に証明されています(もちろんワクチン無効派・否定派・有害派がかなり多数存在することは承知していますけどね⋯関連エントリー)。

残念ながらノロウイルスのワクチンはまだ現時点では研究開発中ですが、開発販売された場合に当然出てくるワクチン否定派の方の非科学的なワクチン反対論が今から待ち遠しいです。

今回は今まで飛沫感染でしか拡散しないとされていたノロウイルスが空気感染するんじゃない?という衝撃的な話があることをご紹介します。

今年もノロウイルスが大流行!感染経路は飛沫だけじゃない?

一般的にはノロウイルスの感染拡大を防ぐ為には、吐瀉物・排泄物を次亜塩素酸ナトリウムで消毒処理することが知られていますが、空気感染するとなるとその消毒処理作業にもマスクをするなどの一工夫が必要となってきます。

飛沫感染は大きさが5マイクロメートル以上で水分を含んでいる病原体を体内の取り込むことで感染します。一方、空気感染は水分を含まない5マイクロメートル以下の病原体が空気中をさまよっていて、その病原体を呼吸によって体内の取り込んで感染することが知られています。

東京都感染症情報センター_»_感染性胃腸炎の流行状況(東京都 2014-2015年シーズン)

東京都感染症情報センター (http://idsc.tokyo-eiken.go.jp/diseases/gastro/gastro/)

感染性胃腸炎はノロウイルス以外にロタウイルス・アデノウイルスが原因となっている場合もあります。今回の話題とするノロウイルス自体の大きさは30ナノメートル(ナノメートルはマイクロメートルの1000分の1)くらいですから、水分が蒸発した場合は空気感染する可能性は否定できません。特に空気が乾燥しやすい冬にノロウイルスによる感染性胃腸炎が増加することも、感染経路としての空気感染説は説得力があります。

ノロウイルスは飛沫感染だけでなく、空気感染もする⁉

ノロウイルスは基本的に感染した人の吐瀉物および排泄物から感染が拡大するとされています。ようは汚染された物質が口から入ってしまう経口感染の一つです。でも、実は空気感染もするんじゃない、つまり息をしただけで感染しちゃうんじゃない、というケースレポートの論文が存在しているんです。ノロウイルス空気感染説の可能性に関する複数の論文がありますが、私が調べた中で一番症例が多かったものがこれです。

Evidence for Airborne transmission of Norwalk-like virus (NLV) in a hotel restaurant」 (Epidemiol Infect 2000;124:481-487)

この論文はこのような内容になっています。

  • レストランで食事中の一人が嘔吐
  • その日のそのレストランで食事をしていた126人中52人が感染性胃腸炎を発症
  • 吐瀉物に接触する可能性の低い場所にいた人も感染性胃腸炎を発症

つまり飛沫感染する可能性の低い人もノロウイルスに感染した可能性が示唆されたんです。これによってひょっとしたらノロウイルスって空気感染(この論文では「airborne route」となっていますから、吐瀉物に接する飛沫感染でないことは明らかです。いわゆる空気感染は「飛沫核感染」と正確には呼びます)するんじゃない、という結論に至っています。

空気感染で有名な病原体は結核や麻疹ですが、ノロウイルスの空気感染は意外と知られていません。なんでこんなことが起きるかというと、

もともと感染力が強いとされているノロウイルスの吐瀉物が周囲に撒き散らされる

→水分が蒸発したあと空気中にさまよっているホコリにウイルスが付着

→そのノロウイルスが付着したホコリを含んだ空気を離れた場所に座っていた人が吸い込む

→吸い込んだノロウイルスが消化器系に入り込んで感染性胃腸炎を引き起こす

つまり、飛沫として感染するのではなく、空気中を漂いながら感染が拡大する、空気感染ってことですが厳格な意味の空気感染とは違うような気もしますけど⋯。

ノロウイルスってカキ中毒の原因じゃなかったっけ??

最近おしゃれな街(当然普通のおっさんは苦手)で「オイスターバー」が増殖しているように見えます。オイスターバーで生牡蠣を食べながら、ワイン片手に不埒な心で女子と接しているオッサンも見受けられます。
ホットペッパーグルメリサーチセンターによると必ず冬に食べたい味覚のベスト2にカキは登場しています。

<必ず食べたい冬の味覚> (3圏域計、複数回答)
素材部門(魚介類)
○第1位:カニ51.8%
○第2位:カキ49.9%
○第3位:寒ブリ33.4%

冬の味覚であるカキと冬に流行するノロウイルス感染症、なんだか二者はただならぬ関係にありそうですが⋯あまり追求するとカキ養殖業者やオイスターバー関係者に損害賠償請求なんてされたらたまりませんのでこの辺で止めときます。

ノロウイルスを病因物質とする食中毒発生状況–厚生労働省
ノロウイルスを病因物質とする食中毒発生状況(厚労省サイトより)

オイスターバーの流行とノロウイルス感染はこのグラフからはあまり関連はないようで、私の危惧は単におしゃれなお店に対するオッサン特有の拒絶感が大きかったようです。

不埒な気持ちで女子とカキを食べて、万が一感染性胃腸炎を発症してしまい、嘔吐をしてしまった場合、空気感染で多大な迷惑を周囲に及ぼす可能性も前述論文から否定はできません。
お行儀の良い紳士は塩素系漂白剤を持参してオイスターバーを訪れることをお勧めします。ハイター持参でオイスターバーに行ったら当然入り口で叩き出される可能性の方が大きいですけど。笑

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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