年を取ると腰が痛い、膝が痛い、背中が痛い、と訴える患者さんが増えます。特に寒くなって来るこれからの季節は痛みに始まって痺れや違和感も伴いそんな患者さんが決まって飲んでいる薬に「メチコバール」という処方薬があります。メチコバールはビタミンB剤に区分される薬です。
このメチコバール、主成分であるビタミンB12が神経痛に効くという話になっているようです。果たして本当なのでしょうか?
神経痛で当たり前のように処方されるビタミンB12の効果は疑問❗
メチコバールはエーザイが販売している製品名で、その成分はメチルコバラミン (英: Methylcobalamin) といって、コバラミン (ビタミンB12) の一種です。ドラッグストアでも手軽に手に入れることのできる「神経痛・腰痛」の薬にも含まれています。当院は整形外科はやっていませんけど、帯状疱疹で神経痛の後遺症がのこってしまう場合、痛み止めとともに苦し紛れにメチコバールを処方することが、極々たまに「痛みに対する効果はバシッは効かないけど、神経の損傷の回復を早めるからね」と一言添えて。
2020年2月15日追記
新しい医学論文ではこのようなことがわかってきています。
ビタミンB12の濃度が高いと死亡リスクも増加する、という予想外の結論になっています。
ビタミンB12が神経痛や痛みに効果があるのか?
という素朴な疑問を持たざる得ないんです。神経痛が自然治癒したのか、ビタミンB12の効果で回復したのかの見分けがつかないくらい、効果のある人にはあるし、ない人には全くないビタミンB12です。
ビタミンB12は重篤な副作用がないために、おまじない程度に処方している「痛み関係の医師」もいるかもです、だって、ずーっと飲んでいる人でも腰痛や神経痛が治った人って滅多にいませんから。
メチコバールは当院でも常備薬として在庫してますが、本当に痛み系に効果があるのか、以前から疑問に思っていましたので、帯状疱疹の後遺症以外には使っていません。
そもそもビタミンB12って何だ??
では医療機関で使用されるビタミンB12ってそもそも何なんでしょうか?一般的には医療機関では「手足のしびれや神経痛、血液中のヘモグロビン(酸素を運ぶ役目)の合成を促す、神経細胞の一部の合成に関連している」なんて感じで医療関係者には理解されているはずです。
でも、メチコバールの添付文書には効果としては「末梢性神経障害、ビタミンB12欠乏による巨赤芽球性貧血」としか記されていません。ということは神経痛とか、腰痛などの痛みに対しての効果・効能は全く記されていないのです。痛みが末しょう神経障害が原因であれば適応症として「末梢神経障害」があるんで使用して全く問題は無いでしょうけど、お祈り的に処方されている感が強いビタミンB12です。
ビタミンB12は食べ物としては動物由来のものに多く含まれています。極端な菜食主義者の方は当然ビタミンB12が欠乏する状態になりますから、多分、サプリなんかで補っているのでしょうね。
ビタミンB12の効果を裏付ける論文って⋯
ほうぼう探しまわりました、ビタミンB12が神経痛や腰痛に効果があることを証明している論文。私の調査能力不足の為、と思いたいのですが、これは明らかに効果を示している、この論文は疑う余地が無い、と言い切れるモノって見つかりませんでした。
いくつか「これはビタミンB12の有効性を表している❗」と飛びついた論文もあったのですが、ビタミンB12単独ではなく他の薬も併用していたり、他のビタミンBが混じっていたり、結局メチコバール等のビタミンB12が優位に痛みや神経障害に効果がある、という論文はありませんでした。
pub medというサイトで医学論文のアブストラクトは見ることができますが、詳しい内容は有料のものが多いです。
唯一、ビタミンB12の有用性を確かめているな、というのがわかる論文は「Comparison of two modes of vitamin B12 supplementation on neuroconduction and cognitive function among older people living in Santiago, Chile: a cluster randomized controlled trial. a study protocol.」Nutr J 2011; 10: 100というものなんですが、チリで行なわれる300人に協力してもらう予定の二重盲検による効果判定です。でも、まだ結果は出ていません。
メチコバールは菜食主義者や胃の手術をされた方などには有効性のあるビタミン剤です。しかし、腰痛や膝痛に対して十分効果があることは、不明という結論に達しました❗