人間ドック学会150万人のデータを解析して、「新たな健診の基本検査の基準範囲」というものが発表され、今まで異常値とされていたものが「基準値に入っているじゃん」とセンセーショナルに報道されたのが、本年2014年4月の出来事です。
診療現場もこの混乱に巻き込まれたのですか、結果的には誤解である、間違った解釈であり報道であったことを説明させていただきます。
血圧等の基準が緩んだことにより、自己判断で薬を止めてしまった方などは特にご注意ください。
日本人間ドック学会と健保組合連合会の発表をマスメディアが誤解して報道したという事実
日本人間ドック学会のデータ分析方法
150万人の健診受診者のなかから健康人を15000人ピックアップしました。健康人の定義は
・一般検査で異常がなかった
・飲酒はビール換算1本以内
・喫煙者ではない
つまり、常識的に考て健康であり健康的な生活を送っていると思われる「スーパー健康人15000人のデータ」を解析したものなのです。これらのスーパー健康人の悪玉コレステロール・血糖・血圧など27項目をチェックして得られたデータが今回の騒ぎの元となった「基準範囲」なのです。
・収縮期血圧(上の血圧っていいますよね)88〜147
・拡張期血圧(下の血圧)51〜94
一方、血圧に対して高血圧学会の基準は収縮期129未満、拡張期84未満ですから収縮期が147であったり、拡張期が94であったりして「高血圧症」と診断されていたオッサンは「新しい基準で俺は正常だからもう薬飲まなくていいや」という行動に移るのが間違いなのです。悪玉コレステロールと呼ばれるLDLコレステロールも日本人間ドック学会の「基準範囲」だと
・LDLコレステロール 72〜178
となっていますので、日本動脈硬化学会の基準である
・LDLコレステロール 60〜119(男性の場合)
とは大きな差ができています。
人間ドック学会の「基準範囲」の重要な特徴
この人間ドック学会のデータはあくまで「健康人」の検査結果をもとにしてはじき出された数字なのです。分りやすく言えば
健康人の検査結果の中から分布している95%が含む範囲を統計学的に処理したもの
で、あり病気を治療して行くこと、病気を予防する事を目的とした高血圧学会や動脈硬化学会の診断基準とは似て非なるものとなっています。つまり、人間ドック学会の数値は将来の病気の発病や治療の目標となる「臨床判断値」とかけ離れていて当然なのです。
日本人間ドック学会・健保連が示す健診の検査基準に対する見解(補足)―高久日本医学会長、松原日医副会長より
予防医学という考え方
日本人の死因はがん・心疾患・脳血管疾患・肺炎(脳血管疾患と肺炎は最近順位としては入れ替わりました)が大部分を占める為に、国民の健康的な生活と超高齢化社会における医療費の抑制を両立させないとならない事態になっていますので、心臓疾患や脳血管疾患を如何に減らすかということに力を注がなくてはなりません。メタボリックシンドローム健診もこの一環とお考えください。
今回の人間ドック学会の「基準範囲」と日本医学会の「判断値」は例えて言えば高校野球で甲子園に出場している元気な若者のデータと草野球に励んでいるオッサンのデータを比較して、草野球オッサンが甲子園球児の健康データの範囲に入るわけがない、と言う事です。
一番怖いことは自分の実力を選ばれしフィジカルエリートのデータの基準範囲で、自己判断して治療を止めてしまう方が続出しているのでは、ということになります。