エボラ出血熱は空気感染しません、ところで感染経路の空気感染ってなんだ?

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アフリカでエボラ出血熱に感染した米国人の治療をアメリカ本土で行なうため、感染の拡大予防のための輸送する飛行機の物々しい風景がしきりとCNNなどで放送されていました。

オバマ大統領が「エボラ出血熱は空気感染はしません」とスピーチしたことも繰り返し放送されています。当たり前のように使用している「空気感染」って言葉ですが、患者さんが何かの感染症に感染した場合「これって空気感染しますか?」とのご質問を受けると「します」「しません」という回答に終わってしまっていました。

パニック状態のエボラ出血熱感染

私自身定義としての「空気感染」を確認するために少し整理してみます。

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感染症が広がる、3つのルート

ウイルスや細菌(ウイルスと細菌の違いの説明は省きます)などの微生物が原因となって病気になることを感染症といいます。カゼやインフルエンザに始まって今回のエボラ出血熱も感染症です。人から人に微生物が移ることを「なになにに感染した」という表現をします。その人から人に感染して行く経路が今問題となっている「エボラ出血熱は空気感染しません」ということなんです。その感染経路は三つに別けられます。

接触感染

流行性結膜炎・プール熱・とびひなど、感染した人が触ったものに微生物が付着していて、その付着したものを触った人が同じ微生物による感染症を引き起こすことです。十分に手洗いをして、感染した人が触れたものを消毒する(厳密には滅菌)ことで感染経路を遮断することができます。

飛沫感染

カゼを引いたオッサンがくしゃみをすると、カゼウイルスを含んだツバが数メートル四方に広がる光景をテレビなどでご覧になった方もいらっしゃると思います。感染の原因となる微生物はツバなどの体液の水分に包まれて四方八方に広がります。しかし、水分に包まれている分、重量があるために微生物だけで空気中を漂うことはできないで、数メートル飛んだ後に床や地面に落下してしまいます。

運悪くオッサンが飛び散らかした微生物を含む体液を吸い込んでしまったり、手に付着して手を洗わないで食べ物を摂取するとその人は感染してしまうのが飛沫感染です。感染した人はマスク等で病原菌・病原ウイルスをまき散らさないように注意をして、感染を防ぐためには十分な手洗い習慣が必要となってきます。

感染しないための予防策として「うがい」に有効性については意見が分かれるところです。インフルエンザに代表される呼吸器の病気の多くは、この飛沫感染が感染経路になっています。

空気感染

実際の臨床の場で空気感染する病気って意外と少ないのです。古くは死の病として知られていた「結核」は空気感染する代表的な病気だったので、診療の現場で高齢者が「この病気って空気感染しますか?」と尋ねる事が多いのでしょうね。空気感染を引き起こす微生物は飛沫感染と違って水分を含まないで、空気中を病原菌単独で長時間彷徨うのが問題なんです。感染者がいた空間に病原菌が含まれますので、その空気を吸ってしまうと、肺から病原菌・病原ウイルスなどの微生物に感染してしまうのです。

オバマ大統領が言っていた「エボラ出血熱は空気感染しません」発言は感染者は十分に隔離された環境で治療しますし、感染者がアメリカ国内に入国しただけで感染は拡大しませんということを強く伝えたかったのでしょう。

空気感染によって感染が広がる病気としては結核(過去の病気ではありません、今でも実は患者さんは発生しています)、はしか(麻疹)が知られています。これらの空気感染する病気は大流行することがあるので、予防のためのワクチンが開発されて世界中で広く使用されています。

エボラ出血熱の感染経路は?

西アフリカを中心に感染が拡大しているエボラ出血熱ですが、もともとはコウモリが持っていたウイルスが人に感染するように遺伝子が変化したことが原因であると予想されています。コウモリから人に感染するだけなら、ここまで流行することはないのです。今回はエボラ出血熱の治療に当たっていた医師が感染していますので、人から人へ感染するように遺伝子が変化したと考えられます。

人から人に感染するとアフリカと言う遠い国の話だと思っていた米国人も神経質になりますし、当然移動手段の多様化と迅速化によって下手な対策をとると一気に世界中に感染が拡がってしまいます。

エボラ出血熱の感染経路は接触感染と飛沫感染です

 血液や唾液、排泄物に触れる事によって感染するのです。クシャミによって飛び散った唾液からの感染します。予防策としては感染した人を一定期間隔離することと十分に手洗いをして、感染者の触れたものを消毒すれば防げるはずです。次に大問題となるのは

エボラ出血熱は治療法が確立していない

ということです。

ウイルスが原因の感染症ですから、ワクチンが効果を発揮するのは当然しられています。その臨床的に有効とされるワクチンが開発されていません。また、インフルエンザに効果があった(若干過去形を使用)タミフルなどの様な直接ウイルスの増殖を防ぐ薬も開発されていません。

なぜ治療方法が確立されていなかったかと言う理由として先進国では流行していなかったために所謂対岸の火事として捉えていたこと、そしてアフリカで流行してもワクチンを開発しても利益が得られないと判断した巨大製薬メーカーの意向も大きいと思われます。数十年前世界中をパニックに陥れたエイズも初めはアフリカで流行していたのですが、先進国でも感染が拡大したことによって現在では発症をかなりの確率で抑えることができるようになったのです。

世界中に感染が拡がっていなかったアフリカや中南米の風土病とされていた黄熱病の治療法を研究するために、自らの命を失った野口英世(人物評としては毀誉褒貶が激しいです)が今でも医師から尊敬されているのは、当然のことですね。黄熱病のワクチンを開発したタイラーはのちにノーベル医学生理学賞を受賞しています。

非常に後味の悪い事件となっているSTAP細胞の理研ですが、名誉挽回としてエボラ出血熱のワクチンや治療薬の開発に力を入れてみたらいかがでしょうか?

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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