握力が強いと長生きする⋯握力と死亡リスクの関係を勘違いしないようにしましょう❗

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日本抗加齢学会というエイジングケアを主に扱った学会があります。そこで先日、日本における疫学調査の対象として有名な「久山町」でやっぱり「握力が強い人は長生きだった」という報告がありました。

多分、情報に敏感な健康雑誌やTVの健康番組が早速「握力を鍛えると長生きする」とか「握力が強い人ほど長生き」なんて感じの番組を制作して、白衣を着た医師などが「久山町の研究によると⋯」なんてことを喋っている情景が目に浮かびますので、「原因と結果」をはき違えないように先に注意しておきますね。

握力の強さと死亡リスクの関係は以前から知られていた

握力と死亡リスクが相関関係にあることは以前から多くの論文で指摘されていました。さらに握力の強さと認知症の関係を調べた論文もあります。例えばアメリカ国立老化研究所はテニスボールを使用して握力を鍛えることを推奨していますので、握力が強ければ認知症にならないで長生きできると捉えて当然です。

Go4Life

https://www.nia.nih.gov/

久山町の場合の結果はこのようになっています。

  • 対象は男性1064人、女性1463人を1988年から2007年まで追跡
  • 1988年の時点で握力を測定
  • その間に783人が死亡
  • 握力レベルが高くなると死亡リスクが減少していた

という単純、かつ明瞭な結果がでています。さらに握力が強かった人は循環器疾患、呼吸器疾患もなりにくかったため、ついつい「握力が強いと長寿」とか「握力を強くすると健康になる」と一瞬思い込んでしまうのも当然です。

握力を鍛えれば長生きするわけではありません

ある原因があって結果がでた、その原因を排除した場合結果がでないという関係にある場合は「原因と結果の因果律」がなりたちます。でも、今回の握力と寿命の関係は因果律として捉えることはできないのです。久山町研究と1961年から福岡県の久山町という町の住民の方の協力のもとに健康データを蓄積した、ある意味日本人の生活と健康の関係を長年に渡って調べてきたデータベースでその関係者の努力と住民の方の協力姿勢には頭が下がります。この研究にケチをつけるわけではないのですけど、ひょっとしたら、

  • 握力が強い人ってもともと健康な人が多かった
  • 日頃から運動などで健康に気を使っている人が握力が強かった
  • 病気がち、もともと体の弱い人って握力も弱かった

などの因子の影響を排除しなければ、因果関係としての「握力と死亡リスク」を証明することはできないのです。

握力と健康、そして寿命の関係を調べるには

因果律として原因と結果を考えた場合に「握力と寿命」を調査するためには、現時点で同じ健康状態の人を無作為に二つのグループに別けて、一方のグループは筋トレなどで握力を鍛え、もう一方のグループはなにもしないで10年後くらい経過した時点での健康状態や死亡率を調べる方法が考えらます。この条件であっても二つのグループはもともと持病がないとか、同程度の筋力を持ち合わせているとか、条件をそろえないと疫学調査としてはせっかく結果がでてもケチをつけられる可能性があるのです。このような事が起こりえないようにすることを可能としているのが「動物実験」なのです。薬の効果・副作用を調べるたり、無理なストレスを与えて行動に変化が起きないかとかを調査するためには動物実験が欠かせないのです。動物実験反対の主張を行なっている団体に屈して、動物実験ができないのならば「人体実験」を積極的を行ないなさい、ということなんでしょうか?でも動物に握力の筋トレさせるってもかなり難しいか。。。

著者プロフィール

桑満おさむ(医師)


このブログ記事を書いた医師:桑満おさむ(Osamu Kuwamitsu, M.D.)

1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に五本木クリニックを開院。

医学情報を、難解な医学論文をエビデンスとしつつも誰にでもわかるようにやさしく紹介していきます。

桑満おさむ医師のプロフィール詳細

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