マンモグラフィによる検診は乳がんの死亡を減らさない!という論文がでてから、「ほら、乳がん検診は意味ないじゃん❗」と主張している人がいます。
反対に「乳がん検診でマンモグラフィを使うと死亡リスクが減少する」という論文が出て来てしまいました。
このように医学論文って常に論議の的になるお題があるのですが、この「マンモグラフィと乳がん死亡リスクの関係」はおなじみさん的論題です。
本記事の内容
乳がん検診のマンモグラフィは痛いわりには効果がない、という考えは間違い
今年にがん検診否定派が大喜びしたマンモグラフィ検診で死亡リスクは減少しなかったという論文はTwenty five year follow-up for breast cancer incidence and mortality of the Canadian National Breast Screening Study: randomised screening trialという題名でBMJに掲載されています。カナダにおける乳がんのスクリーニング検査と死亡リスクを25年間蓄積されたデータを分析したものです(BMJ 2014;348:g366)。
つい最近投稿された肯定説ものは乳がん検診でマンモグラフィを使用することは乳がんで死亡するリスクを減少させるという論文が出ています。こちらはノルウェーの女性に対する調査でModern mammography screening and breast cancer mortality: population studyというタイトルでなんと同じBMJに掲載されているんです(BMJ 2014;348:g3701)。
真逆の結論が導きだされている論文が同じ医学専門誌に掲載される、これは学問の自由を象徴するできごとなのですが、患者さんとしては「なにを信じれば良いの」状態になりますので、マンモグラフィ効果ない説の論文のどこが変なのかをしてきします。
マンモグラフィが効果ないという論文の欠点
マンモグラフィ効果無い説の論文は40歳代のグループと50歳代のグループに別けて検討していて両者の結果に違いが無かったと報告しています。でもこの論文は大きな欠陥があるのです。というのもマンモグラフィ登場以前から乳がんの検診として触診は行なわれていましたので、この研究に使用されたデータの記録が始まった当時に既に触診で乳がんの可能性がある人は精密検査を受けたり、中には手術をしてしまった人は当然今回の論文には含まれていません。
50歳代の対象となった女性をマンモグラフィを受けた人と受けなかった人を二つのグループに別けても精密な検査結果を出す事が可能なマンモグラフィが有利になるはず無いんです。だってマンモグラフィじゃないと発見できない人だけでなく、触診で明らかにガンの可能性が判定できる人が混じっているんですから。
なんで乳がんの検診でマンモグラフィが推奨されるか
マンモグラフィは医師による触診や自己でのチェックでの見落としを防ぐ効果があります。特に「ガンである」と診断できる制度はマンモグラフィの場合は80%とされていますので、触診で「がんかな?」と思われた場合は積極的に検査することで、ガンであれば発見ができ治療方法を検討することができますし、がんの疑いが少なければ患者さん自身も安心できることになります。また、マンモグラフィは触診では関知出来ない小さながん病変も発見可能ですので、早期発見につながるのです。
マイナス点としてはガンではない乳腺の悪性でない疾患を見つけてしまうことがあるために、良性にも関わらず手術を薦められてしまう可能性があることです。
マンモグラフィが乳がん検診には効果的であるという論文では
乳がんで死亡する人を1人防ぐために必要なマンモグラフィの受診者は368人
と推定しています。
検診は費用対効果が重要なんです
検診と健診の違いは以前にブログに書きました。がん検診の場合はがんの早期発見という主目的のほかに、検診をすることによって医療費全体を安くできるか?ということが行政主導で行なわれているために重要視されています。つまり、検診にお金をかけて最終的に医療費が抑制できるのであれば「費用対効果」があるために積極的に検診が行なわれることになります。
乳がんの診断には放射線を必要としないエコーを使用することが、被爆の問題やコスト面でも患者さんに優しい検査と考えられます。エコーはスクリーニング検査としては優れている一方で、スクリーニング検査の宿命とでもいえる「擬陽性症例」が増えてしまうのです。皆さんも健康診断の尿検査で「潜血陽性」とか「尿蛋白陽性」と判定され、精密検査を受けたところ「異常なし」と診断された経験ってありませんか?スクリーニング検査は見落としを減らすために、判りやすくいえば「大げさな結果」を出しやすいのです。
マンモグラフィは80%近くの正確さで良性・悪性を見分けられますので、「がんではない」と診断される頻度が高まるために、高額な検査の割には「費用対効果」は高いために、乳がん検診で積極的に採用されているのです。
現時点では「乳がんの検診」としてはマンモグラフィが精度が高いために積極的に日本では推奨されています。乳がんの治療成績自体もかなり改善していますし、以前のように大きく患部を切除する手術は今は否定的であり、さらに乳がんの手術後に乳房を再建することも健康保険の対象となっています。あまりにも治療成績がよくなると「がん検診」自体の必要性も無くなることが当然予想されますが、まだそこまでの治療成績にはなっていません。何年に一回マンモグラフィによる乳がん検診を行なえばいいか、などまだまだ宿題の多い検診ではありますが、少しくらい痛くてもマンモグラフィによる検査は受けておいた方が良いと考えられます。
というのもノルウェーの論文の結果として検診を受けた場合は乳がんで死亡するリスクが28%減少するとの結果になっていますから。