血圧の正常値が学会によって違ったり、中性脂肪やコレステロールの値も違うんじゃないかと健康診査の時期になってマスメディアが取り上げ、皆さんに混乱が生じているのは当然ですが診療の現場でも混乱が起きています。ここで皆さんが敏感であろうと勝手に推測する「脂肪」について整理をしてみましょう。
脂肪酸ってなんだっけ?
ダイエット・痩身が対象とするのは皮下脂肪と内臓脂肪ですがですが両者を合わせて体脂肪と呼んでいます。この体脂肪を表す数値として「体脂肪率」という目安があります。ボディマス指数略してBMIは身長と体重から算出されますが、それよりも正確であろうということで人間ドックなどでは体脂肪率というものを採用しています。
ではそもそも脂肪ってなんでしょうか?これは単に「あぶら」のことなんですが、人間に取っては非常事態用のエネルギーとして体脂肪・皮下脂肪という型で蓄えられています。直接あぶら分を摂取することでこの脂肪は体内に入り込みますが、余分エネルギーが炭水化物なとから得られると脂肪に変化して体内に保存されます⋯これが肥満の原因です。
脂肪の種類として植物性、動物性とわけることがありますが、動物性は飽和脂肪酸を多く含むという違いが両者にはあります。そこで今回は「脂肪酸」について考えてみます。
飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の違いってなんだ?
飽和脂肪酸というのは常温で固まり易い傾向があるために、取りすぎると中性脂肪やコレステロールをあげるとされていますので、心臓や血管にとって良くない、ということになっています。でも逆に少なすぎると血管がもろくなるため脳出血を起こす可能性もでてきます。一方、不飽和脂肪酸は常温では液体のままで、植物に多く含まれている為になんとは無しに「体に良いじゃない」伝説の対象となっています。でもココナッツやカカオの脂って飽和脂肪酸が多いんだけどなあ。
食べ物に気をつけることで脂肪酸の摂取を調整できるか?
イメージ的には飽和脂肪酸より不飽和脂肪酸を多めに取った方が健康には良さそうですが、はたして通常の食生活でコントロール可能なんでしょうか?「Global, regional, and national consumption levels of dietary fats and oils in 1990 and 2010: a systematic analysis including 266 country-specific nutrition surveys.」という研究論文があります( British Medical Journal , Volume 34 Apr 15, 2014)。BMJは伊医学専門誌としては非常に高尚なものとされていますので、私たち医師は基本ありがたがる医学資料です。
この研究は世界中の食事に関する論文を調査対象として食事から得られる脂肪酸とコレステロールの値を詳しく検討しています。
健康的な食生活に敏感な人はご存知のオメガ3の国別の摂取量です。日本もなかなか検討しているようです。
結局、日本人って食べ過ぎなんだ!
この研究は世界113カ国、163万人を対象とした大掛かりなものでしたが、結果は以下の通り。
- 飽和脂肪酸摂取量は国によって最大12.2倍の差があった
- 残念ながら不飽和脂肪酸の摂取量は世界的に見ると推奨量の半分にしかなっていなかった
- 悪役のトランス脂肪酸は推奨値をクリアしていた国は12カ国しかなかった
以上の結果から、世界的に不健康な食生活であることが判明しました。
食事から摂取されるコレステロールは国によって4.5倍もありました。そこで気になる日本の成績は1日あたり347mgを摂取していて、なんと世界第7位の過剰摂取国に輝いてしまったのです❗
つまり日本人は食べ過ぎなんで、私は批判的にお役所主導のメタボ健診を捉えていましたが、飽食・過食・美食傾向は国を挙げて検討しないといけません。