子供の頃漫画で読んで得た知識の間違いに大人になって気づくというのは、悪いことではなく、むしろよいことです。
ノンフィクションと思っていて楽しんでいたものを改めてフィクションとして楽しむことができるのは決して悪いことではありません。国民的人気コミック「美味しんぼ」には読んでビックリの情報や数々の名言・名シーンが多いのですが、ウソや矛盾が多々あるのもまた事実。
ネット普及し始めたころから散々ネタとして取り上げられてきた美味しんぼ情報ではありますが、福島の鼻血問題は世間を大分ザワつかせてしまいました。美味しい・美味しくない、カラダに優しい優しくないといったレベルを超えてしまっていてさすがに医師としては看過できないので取り上げることにします。
デマを拡げるにもマナーが必要です「美味しんぼ」さん
先日から世間を賑わしている「美味しんぼ」の福島での被爆が原因で主人公の山岡が鼻血を出した件ですが、医療サイドとしてはあまりにもバカバカしい内容なので高尚な先生方はコメントを寄せていない様子なので、高尚でない私が参入します。
当院の患者さんでも東京在住だが、故郷があの様な状態になった為に仕事をなげうって地元に帰った方が数人いらっしゃいます。
故郷の危機に立ち上がった人に言論・出版の自由があるとはいえ、余りにも根拠のないウソ・デマ、さらに全く科学的な裏付けの無い話が漫画の世界でも拡がっていくことに激しく怒っています、私。
山田医師は
小学1年生の子供が鼻血を出す割合は、福岡が26%、福島は3.4%
と語ったことになっています。
しかし、山田医師の基本的なスタンスは以前の講演会などでは反原発的で国がデータを隠している派なので、本当に伝えたかったことはテレビではカットされた可能性があります。
そこで今回は「美味しんぼ」の放射線被爆鼻血理論が現在科学的・医学的に知られているものと整合性があるのか検討しました。(2014.5.13追記)
鼻血に対しては自分の体験も含め一家言ありますので、書かずにはいられません。
過酸化水素で鼻血がでるだと??
この漫画に出て来る鼻血が出るに至るメカニズム?で過酸化水素という言葉が出て来ます。
これは一般的にオキシドールといわれていて消毒などに使われるんでしょうけど、医療機関では消毒としての使用することはまずありません。
白衣に血液が付着したときなどに「染み抜き」的な使われ方がされるだけです。この過酸化水素が放射線の影響によって細胞にっていう生半可な知識を披露した元がだれかは知りませんが、広島大学の情報を見たことが予想されます。
放射線によるガンの治療で鼻血がでるか?
私は専門が泌尿器なのですが、前立腺がんに対する放射線治療は手術と治療成績に差がないとされていて、スタンダードな方法となっています。
美味しんぼの主人公が放射線を浴びたと仮定しても、さすがにガンの治療に使用される量を被爆したとは考えられません。がんの放射線治療中に鼻血がでたって患者さん聞いたことないのは私の勉強不足な為でしょうか?
放射線は人間の体と突き抜ける性質をもっていますが、なんで美味しんぼの主人公の鼻の血管を狙ってしまったのでしょうか?
同じように脳の血管から出血を起こしてもおかしくないですし、実際にこの漫画に書かれたメカニズムで出血したのなら、まず最初に全身の皮膚全体から血が噴き出すと思うんですけど。
水分子が放射線で切断??
この表現に引っかかった理系のオッサン多数です。これって水の分子がイオン化していること、H2O + 放射線 → H2O+ + e– をさしているのかも知れません。
でもって、OH + OH → H2O2 をさして
消毒に使われるくらい毒性の強い過酸化水素分子に
と、漫画中の文章になっていることが予想されます。
水分子が切断されてなんて表現が出て来ると有名な疑似科学である「水は情報を記憶する」とか「波動があって」なんて危ない方向にこの漫画が向かっている気がしてなりません。
漫画だけならいいんですが、ある物質(EM菌っていったっけ?)が水質を変えるという疑似科学がなぜか一般に流布して学校の活動にまで発展した、非常にマズい出来事もありましたので、こんな非科学的であり明らかにこのインチキ話によって不利益を被る人、さらには無用の差別意識が子供まで拡がってしまうこと大問題です。
追伸 過酸化水素(オキシドール)で消毒するたびに鼻血出した人っていたらぜひ教えてください。