先日、健診、検診、人間ドックというのは目的が違うと言う話をブログに書きましたが、検査の基準自体にも違いがあるという話はしませんでした。
オッサン達は特に肝機能の検査結果を気にしますし、女性はコレステロール値や中性脂肪の検査結果を気にしますね。
でも、多くの方が一番気にされているのは血圧ではないでしょうか?
たしかに健診と人間ドックは違いますが
血圧が高いと脳の血管が切れたり、心臓の病気になりやすいということは簡単にイメージできますものね。患者さんから「先生、また検査の基準が変わったね、新聞に載ってたよ」と言われて慌てて、当日の新聞を読み返しました。
このように大々的に報道されていますので、多くの方が混乱に陥ったことが予想されます。
人間ドック学会と高血圧学会の見解の違い??
血圧に注目してみましょう。日本人間ドック協会と健保組合が異常である血圧はどのくらいとすれば良いかの見直しを行った所、147/94mmHgを基準値と考えこの数字を越えない場合は正常とするエビデンスを提示しました。今まで細かい条件がつく病気を除くと140/90mmHgが上限とされていましたので、基準が緩やかになったと多くの人は解釈したと思われます。
さらにコレステロール値と中性脂肪の基準値も今まで使用されてきたものと大きな差が出ています。
人間ドック学会の報告はかなり強気の発言で「150万人分のデータから得られた結果なので、今後はこれを基準と考えていいよ!」と言うものでした。
今までは各学会、例えば血圧だったら高血圧学会、コレステロールだったら脂質栄養学会や動脈硬化学会の基準値やガイドラインに従って来た健保組合+人間ドック学会連合軍の叛乱と捉えることも出来ます(実は今までも脂質栄養学会と動脈硬化学会は数値基準に関してもめていました)。
今まで統一されていた基準が変わるとなると病気と診断されていて治療していた人が治療の必要がなくなりますし、逆に健康とされていた人が病名を付けられ治療の必要性が出てきてしまいます。
一番の問題は新基準だと患者さんは増えるのか、減るのか?ですよね
日本人間ドック学会と健保組合連合軍が収集したデータは150万人分と膨大な数です。この中からメチャクチャ健康な人(数多い学会ごとの基準をそれぞれクリアした健康のエリート)のデータを15000人分選び出してそれを解析しましたところ⋯血圧は収縮期血圧(よく言うところの上の血圧)は上限が147mmHg,拡張期血圧(下の血圧と呼びますよね)の上限は94mmHgであるという結果になったのです。
つまり、今までの基準より遥かに高い血圧でも大丈夫だよ、と言うことです。コレステロールの基準値も今まで120以下とされてきた悪玉コレステロールと呼ばれてきたLDLコレステロールも178までは大丈夫だよ、とのことです。これによって今まで「病気」とされてきた人の数は大幅に減るはずなんですが⋯。
日本高血圧学会が牙を剥いた!
日本高血圧学会は2014年4月に「高血圧治療ガイドライン」の改訂作業を進めている最中の発表ですので、たまったものではありません。4月14日になって日本高血圧学会がこのような告知をしました(残念ながらあまりマスメディアには取り上げられなかったようです)。
これのポイントは人間ドック学会さんと健康保険組合さんもこんな発表しちゃったけど、あとで発表は時期尚早だったかな、と言ってますよ的な文言となっています。
人間ドック学会と健康保険組合連合会も今回の報道後に、「今後数年間さらにデータ追跡調査をして結論を出していく」、「今すぐ学会判定基準を変更するものではない」という、今回の数値が基準値となるものではない旨の声明を出されています。
ちなみに、昨年のヨーロッパ高血圧学会もガイドラインで基準値の見直しをおこなってかなりシンプルなものを作成したことは以前ブログで書いていますので、ご参照ください。
高血圧学会に属していてさらに日本人間ドック学会にも所属している内科系医師の数は少なくありません。この両者の板挟みとなっている医療関係者も多いでしょうが、とにかく医療費を削減したいと言う切実な希望を持っている健康保険組合連合会の叫びが聞こえてくる様な出来事でした。患者さんはどっちを信じれば良いのでしょうか?医療サイドとしては基本的な姿勢として高血圧学会のガイドラインにそって治療を進めていくことが安全策となります(万が一自分が訴えられないように)。
高血圧学会の新しい高血圧治療ガイドラインはこんな感じになる予定です
私は以前から「血圧なんて100回心臓が動けば100回とも違った数値がでることだったあるんだから、小さな変動に一喜一憂しないように」と患者さんには伝えてきました。多分、町医者レベルならこの考え方で大きな間違いはないと考えています。あまりにも数字にとらわれた診療になると「木を見て、森を見ず」になりがちですから。